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32.騎士団長をワンパンする



 迷い猫探しの依頼は、無事に完了した。

 依頼主であるリリちゃんに、タイちゃん(人間バージョン)を送り届けた。

 最初はびっくりしていたリリちゃんだけど、泣いて喜んでくれた。


 良かった良かった。


 話は、その2日後。

 俺は冒険者ギルド【天与てんよの原石】のギルマス、ヘンリエッタさんに呼び出された。


「おはようございます、ヘンリエッタさん! ……っと、誰です?」


 部屋の中には青銀の髪が美しい、大人の女性ヘンリエッタさん。

 そして……白銀の甲冑に身を包んだ、偉そうなおっさんがいた。


「王都に住んでいてワタクシを知らないとは、どこのモグリだね?」

「はあ……すみません。先日田舎から引っ越してきたばかりなので」

「ふん! この【大英雄チョイヤーク】を知らんとは、よほどのクソ田舎から来たと思われる。ま、無知は許そう」

「はあ……どうも、ダイエイユー・チョイヤークさん」


 変な名前……。

 てゆーか、クソ田舎っていうなよ。

 確かに俺の出身であるデッドエンド村は、それはそれはど田舎だけども。


 腹立つなぁ。


「それで、チョイヤークさんとやらが、どうしてここに?」

「このギルドには、危険な獣をかくまっていた疑惑がかけられてるのだよ!」

「危険な獣……? 匿うって……?」


 チョイヤークさんが、部下らしき人に目配せする。

 すると……。


「! タイちゃん!」


 俺がこないだ助けたベヒモスのタイちゃんが入ってくる。

 今は洋服を着ている……んだけど。


 その首に、なにかごつくて、嫌なにおいのする首輪をつけられていた。

 彼女の辛そうな表情から、無理矢理つけられたのは目に見えて明らかである。


 一緒に来たバディのマーキュリーさんが、タイちゃんにつけられた首輪を見てつぶやく。


「酷い……奴隷の首輪をつけられてるなんて……」

「奴隷の首輪?」

「命令に逆らうと電流がながれ、逃げようとすると途端に、爆発する……魔道具よ」

「! そんな危ないものを、どうしてつけてるんですか! 彼女に酷いことしないで!」


 俺が詰め寄ろうとすると、チョイヤークさんの部下たちに阻まれる。

 なんか銀ぴかの、いかにも安そうな鎧を着けていた。


 なんなんだよこいつら……!


「リーフよ。落ち着くのじゃ」

「ヘンリエッタさん! でもこいつら悪人で……」

「いいから、お願い。聞いてくれよ」


 ヘンリエッタさんが、あまりに真剣な表情でお願いしてくる。

 ほんとは、一秒でも早く、あんな危ないものを取ってあげたい。


 でも……このギルドのトップが、落ち着けと言ってくる。

 俺は、おとなしく従うことにした。組織に入ってる以上、上の言うことを聞くようにって、マーリンばーちゃんが言ってたからな。


「ワタクシが説明してやろう。先日、王都の中で強い魔力反応があった。鑑定士を連れて行ったところ、ベヒモスであることが判明したのである」


 変身薬はあくまで、外見を変えるだけの薬だ。

 だから魔力に対して感受性が高い人にはわかってしまうし、スキルで看破されてしまう。


「調べたところ、ここのギルマスはギルド本部に、【猫の捜索】であると報告した。そして、猫は見付かったと……なにが猫であるか! ベヒモス……危険なモンスターではないか!」


 ヘンリエッタさん、猫って報告したんだ。

 いちおう、彼女には事情を告げていた(依頼主が飼っていたのはベヒモスだって)。


 でも彼女は、それを黙っててくれたんだ。

 なんでかって?


 そんなの……決まってる。


「ベヒモスのような危険なモンスターを、この王都におけるわけがなかろう! 即刻、殺処分すべきだよ!」

「し、しかし……チョイヤーク殿。リーフやマーキュリーからの報告によると、大変おとなしく、理性的な幻獣だとのことじゃ。野生の獣のように、誰彼かまわず、理不尽に傷つけるようなことはあるまい」

「ふん! そんなの信じられるかね! 知性があろうがなかろうが、モンスターはモンスター! 化け物なのだよ!」


 ……確かに、野生の獣を人里に置いとくのは、危険だって気持ちはわかる。

 けど……ヘンリエッタさんが言うとおり、タイちゃんは話のわかる良いやつだ。


 それに……殺処分だって?

 ふざけんな……殺したら……リリちゃんが、悲しむじゃないか!


「そのガキに事情聴取する手間がはぶけた。このギルドはトップ、そして部下もぐるになって、ベヒモスであったことを黙っていた。これは重罪だね! よって、このギルドは即時取り潰し、ベヒモスは即刻殺処分とするのである!」

「なっ!? ちょ……ギルド取り潰し!? そんなの、あんたの権限でできることなの!?」


 マーキュリーさんがかみついていく。

 だがチョイヤークはどこ吹く風。


「なんだ小娘? ワタクシに逆らうのか? んん~? もっと罪を重くしても良いのだぞ? たとえば、主犯格たちを逮捕するとか~?」

「そ、それは……やめて……」

「んふふふ! よく見たら綺麗な顔してるな。胸は残念だが……ワタクシの妾になるなら、見逃してやっても……」


 ぶちっ。


「おい」

「なんだね田舎小僧……?」


 俺はチョイヤークの右頬を、思い切りぶん殴ってやった!


「ぶぎぃいいいいいいいいいいい!」


 吹っ飛んでいったチョイヤークは、壁に激突する。


「チョイヤーク様!?」「なんて拳……早すぎて見えなかったぞ……!」


 俺はチョイヤークの前に立つ。


「話を聞いてれば、なんだよ。タイちゃんが悪者だの、ギルド取り潰しだの、マーキュリーさんを妾にするだの……」

「り、リーフ君……やだ……かっこいい……」

「胸が残念だのって、酷いこといって!」

「そこは突っ込まなくていいから、うん」


 ふらふら……とチョイヤークは立ち上がる。


「い、今の体術……どこかで見た覚えが……」

「ごちゃごちゃうるさいよ! 俺は、俺たちは何も悪くない! 悪いのはおまえだ! リリちゃんからタイちゃんを奪って、みんなからギルドを奪おうとする! おまえが悪い!」


 チョイヤークが俺をにらみ返してくる。

「ワタクシが悪いだとぉ? このワタクシを、誰と心得る!」

「知らん! ガキの拳程度よけられない、ただの偉そうなメタボおっさんだろ!」


 びきっ、とチョイヤークの額に血管が浮かぶ。


「く……くく……め、メタボ……? おっさん……貴様……このワタクシを、【大英雄チョイヤーク】を、侮辱したな?」

「うるさい変な名前! ダイエイユーなんて、変すぎるぞ!」

「名前ではないこれは、称号だ! 英雄の中の英雄という意味で!」

「はぁ? なにそれ、英雄? おまえ程度が?」


 英雄って言うのは、アーサーじーちゃんやマーリンばーちゃんみたいな、強くて優しい人たちを言うんだ。

 こんないじわるなおっさんなんて、英雄じゃない!


「もう許さん! このワタクシの、神速の剣を受けて、死ぬがよい!!!!」


 おっさんが剣を抜いて、俺に斬りかかってくる。

 ……え?


 そんな……。

 こんな……。


 こんな遅い剣が、神速?

 ふざけてるの? いや、待て。これはフェイントかもしれない。


 英雄を自称しているのに、こんな雑な剣を使ってくるわけがない。

 そうか……なるほど、これはあえて遅く見せているのか。


 だって俺に、ここまでものを考える余裕を産ませるほど遅いんだ。

 くそ、なめやがって!


 けど、残念だ。アーサーじーちゃんも言っていた。

 策はバレた時点で、下策になりさがるって!


 カウンター狙い、だろう。けどそうはさせるものか。


 俺は手を伸ばす。

 襲い来る剣を……指で摘まむ。

 正面からじゃなくて、後ろから、回り込むようにして、指で摘まんだ。


 ふっ、どうだ。これならカウンターはきめられないだろう!


「なっ!? こ、この小僧……ワタクシの剣を受け止めただけでなく、逆側からつまんだだと!?」

「遅い……!」


 驚いて油断を誘う作戦か。なかなかやるじゃないか!

 俺は拳を強く握りしめる。力を……ためる。


「! リーフ君だめよ! わかってる!?」

「はい! わかってます! 全力で、くらえええええええええ!」

「だめぇえええええええええええ!」


 敵はなかなかの策士ということで、俺は渾身のストレートを叩き込んだ。


 ばっっごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!!


「あべし……!」


 チョイヤークは俺の拳を受けて……消滅した。

 

「はぁ!? き、消えた!? なにこれ!?」

「【発勁はっけい】です」

「はっけい……?」

「内部に衝撃をあたえ、内側から肉体を破壊する技です!」

「こわ! 暗殺拳じゃん!」

「いえ、【チューゴクケンポー】ってやつです。うちなら子供から老人まで習ってますよ!」

「恐ろしいことには変わらねえわ……!」


 消滅したチョイヤークに、俺は霊薬を使って蘇生させる。


「はあああああああああああ!? 木っ端みじんに吹っ飛んだのに、復活したぁああああああああああ!?」

「え、三秒以内なら、たとえ木っ端みじんでも、霊薬使って治せますよね? 三秒ルールですよ? 知らないんですか??」

「んなもんしるかぁああああああああああああああああああああ!」


 マーキュリーさんがいつも通り絶叫する。

 呆然とするチョイヤーク。だが、徐々に顔色が青くなっていく。


「さっきのは【白刃取り】……それに発勁はっけい……ま、まさか! お、おまえ……いや、あなたは……あ、アーサー様の、関係者?」

「ああ、村のじーちゃんだよ。仲良くしてもらってる」

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


 がくがくぶるぶる、とチョイヤークが突然震え出す。

 え、なに……?


「まさか大英雄様のご子息さまとはいざしらず! もうしわけございませぬぅうううううううううううううううう!」

「いや、別に俺あの人の子供じゃないんだけど……」


 チョイヤークは額を地面にこすりつけて、何度も謝ってくる。


「非礼はわびます! ギルド取り潰しもなしで! ベヒモスの処刑も無しでぇ!」

「え、そんなに簡単に、なしにできるの?」

「はい! なので、どうか、どうかお許しくださいぃいいいいいい! アーサー様だけは、怒らせたくないのでぇえええええええ!」


 なんかよくわからないけど……じーちゃんを知ってるらしい、この人。


「す、すごいわ……リーフ君。相手は王国騎士団長なのに」

「きしだんちょう? こんな雑魚が?」

「そ、そうよ……強いのよ、ほんとは」

「え、めちゃくちゃ弱かったですけど?」

「あんたが強すぎなのよ!!!!!」


 まあ……とりあえず全部無しになるみたいだし、良かった!


「ありがとうな、リーフよ。おかげでギルドの危機を回避できた、感謝する」

「我が輩からも、命を助けてくれて、ありがとう」


 ヘンリエッタさんとタイちゃんが頭を下げてくる。

 うん、まあ丸く収まって良かった!


「丸く収まってって言うか、力でねじふせたって感じだけど……でも、王国側は黙ってるかしら。ベヒモスが野放しなのは事実なんだけど」

「じゃあ、俺が見張ってるよ!」

「リーフ君が、見張る?」

「うん。タイちゃんが暴れないように。俺がそばにいるよ!」


 なるほど、とヘンリエッタさんが納得したようにうなずく。


「リーフはSランクの力を持つ。もしベヒモスが暴れたとしても、容易く事態を収拾できるだろう。どうじゃ、チョイヤーク殿?」

「もうそれでいいです! だからゆるして! お願いいいいいいいいいい!」

「というわけなのじゃが……リーフよ、どうする?」


 うん、そんなの決まってる。


「オッケー! タイちゃんもいいよね?」

「是非もない」


 すっ、とタイちゃんが俺の前で跪く。


「我が輩は今より、あなた様の配下となろう」

「はいか……? よくわからないけど、まー、おっけー!」


 こうして、一連の騒動は、上手く収まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロイン登場時にはメリハリボディって書いてあったのにここだと貧乳なんですね。巨乳ヒロインの新しい作品に期待します。
[一言] え~ どうやって大英雄になったんだろう? アーサーじぃさんが、やり捨てていった何かをこっそり自分の手柄にした?
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