29.猫探し(※伝説の幻獣)
ある日のこと。
俺は王都を出て森へ向かっていた。
「リーフ君、ほんとにその依頼やるの?」
俺の後ろから着いてくるのは、居候先の魔女マーキュリーさん。
「はい。これだって、立派な冒険者の仕事でしょう?」
「いやまあ……そうだけど……でも、だからって、あなたが【迷い猫探し】なんてしなくても……」
今回の依頼主は、王都に住む女の子からのもの。
『あのね、あたしのかってる、子猫が、いなくなっちゃったの! おねがい、さがして!』
「本来ならEランク……駆け出しのする仕事なんだけどね」
「でも俺ってEランクだし、まだ駆け出しですけど」
「対外的にはね。でも君はそれ以上の実力持ってるでしょ? 君はもっと向いてる仕事があるわ。破壊とか破壊とか破壊とか」
「? 俺薬師なんですけど?」
「知ってるわよ!!!! よ~~~~~くね!!!!」
「え、じゃあなんで薬師に破壊なんてさせようってしてるんですか? 薬師を知らないからじゃないんですか」
「あああぁもおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
頭を抱えて身体を前後させている!
「こんなときには、はい、完全回復薬!」
「だから! 頭痛薬とか風邪薬感覚で! 最高位の回復薬だしてんじゃないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
マーキュリーさんと楽しくおしゃべりしていたら、俺たちは王都郊外の森へ到着した。
「ほんとに、この森に居るの? 【タイちゃん】は?」
タイちゃんとは、女の子が飼っている猫の名前だ。
猫なのにタイとはこれいかに。
「はい。タイちゃんの匂いは、この森からします」
「毎度思うけど、ものすごい嗅覚よね。王都からかなり離れてるここまで匂いが追えるなんて、フェンリル並みの嗅覚よ」
「え、子犬並みってことですか?」
「はぁあああああああああああああああああああん!?」
マーキュリーさんがまた切れる。
「あんた何言ってるの!? フェンリルが子犬!?」
「はい。え、俺の実家じゃ、フェンリルがわんさか居ますし、毎年春になると新しい子が生まれて、里親捜しがめっちゃ大変なんですよー」
「そんなペット感覚で伝説の神獣がいるのがおかしいからっ!!!!!」
「え、伝説の神獣? なんのことです?」
「フェンリルのことだよ!!!!」
「ああ、子犬のことですか」
「だからんっもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
早くも二本目の頭痛薬を飲むマーキュリーさん。
「あんまり薬飲みすぎるの良くないですよ?」
「誰のせいだと思ってんのよ!!」
「え、誰の?」
「おのれのせいじゃ……!」
うーん、俺何かしてるだろうか……。
あんまり迷惑かけちゃいけないだろうし、気をつけないと。
何がマーキュリーさんをこんなに怒らせてるのか、皆目見当がつかないけれども。
「で? タイちゃんの匂いは?」
「あ、はい。こっちの森の奥です」
俺たちは森を歩きながら周りを見回す。
だがタイちゃんらしき子猫の姿は見えなかった。
「あのさリーフ君。なんか変じゃない?」
「俺どこか変ですか?」
「あんたのことじゃねえよ。あんた変だけど」
どういうことだってばよ……(困惑)。
「子猫がさ、こんな離れた森の中までくると思う? しかもここ、魔物が普通に出るわよ」
「そうですか? 俺の実家で飼ってる猫は空飛んだり目からビーム出したりして魔物とか普通に餌にしてますけど?」
「あんたに同意を求めたわたしが間違いだったわよ!!!!!!!!!」
「大丈夫! 間違いは誰にでもあります!」
「あぁああああああもおぉおおおおお! 切実に常識人がほしいぃいいいいいいいいいいいいいいい! わたしひとりにこのボケ大量生産者を相手するのは無理ぃいいいいいいいいい!」
常識人……。
え、俺……常識人じゃないの?(驚愕)
「……話戻すけども」
「お疲れですね」
「あんたのせいでな!! ……そもそも、タイちゃんの見た目ってどんな感じなの?」
バディであるマーキュリーさんは、依頼人からの内容を聞いていない。
あくまで依頼を受けたのは俺だからな。
「タイちゃんは身体が黒で」
「ふんふん」
「身長が5メートルで」
「は?」
「牙と爪があって翼が生えてる」
「ちょっとまったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
マーキュリーさんが手を上げて止める。
首を90度曲げて、大汗搔きながら手を上げていた。
「どうしたんです?」
「え? これ迷い猫探しよね?」
「はい、迷い猫探しです」
「身長五メートルで牙と爪と翼が生えてる猫?」
「はい、身長五メートルで牙と爪と翼の生えてる猫!」
「んなもんいるかっっっっ!」
「え、でも俺の故郷じゃ普通に……」
「あんたの故郷は普通じゃねえんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺の故郷、デッドエンド村は、確かに辺境も辺境、ドと超がつくほどの田舎だ。
かつて英雄だった人たちが、引退後集まって過ごしているという……。
通称、英雄村。
「確かに住んでる人たちは変わった人多いですけど、普通の田舎ですよ」
「あんっっっっな異常な村が普通だったら、世界滅んでるわ!!!!!」
「大丈夫です! そのたびじーちゃんかばーちゃんがちょっと世界を助けるんで!」
「そんなちょっとぶらり買い物感覚で世界を救うのがおかしいっつてんだよ!」
ぜえはあ……とマーキュリーさんがお疲れモードで言う。
三本目の栄養ドリンク(※エリクサー)を飲んで、言う。
「てゆーか、そんな五メートルの化け物探すのが、今回の依頼なの? おかしいでしょ、そんなでっかくて目立つ化け物、逆に見付からないほうが」
「都会じゃ珍しいかもですね」
「お、おう……同意してもらえるとは……とにかく、もしかしたらその化け猫、姿を消す術を身につけてるかもね」
「姿を消す……ですか」
言われてみると、匂いがこの近くにあるのに、全く見えてこない。
「マーキュリーさんのすごい鑑定眼でも見破れないんですか?」
「そうね。対象を視認しないと、鑑定スキルは発動できないし」
「なるほど……じゃあ何とかして、隠れてる猫ちゃんを、表に引っ張り出す必要がありますね」
俺は魔法バッグを地面に置く。
なんでも無限に入るカバンの中から取りだしたのは、種々の薬草。
「調剤」
俺はスキルを用いて、必要とされる薬剤を作る。
次に、薬師の神杖を取り出し、作った薬を充填する。
「マーキュリーさん。耳塞いで、口をあーって、大きく開けておいてください」
「え? な、何するつもりなの……?」
「下手するとショック死するんで」
「本当に何するつもりなの!?」
俺は、作った薬を発動させる。
「【音爆弾】」
カッ……!!
カキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!!!!!!!
金属を思い切りぶつけたような、激しい音が周囲に広がる。
ドサッ……!
俺の前に……黒くてデカい、大きな【それ】が現れる。
「あ、姿を現しましたね! マーキュリーさん!」
ドサッ!
「マーキュリーさん? マーキュリーさん!」
俺の隣で白目剥いて、マーキュリーさんが倒れてる!
俺はすかさず近づいて、バイタルをチェックする。
「……! 死んでる……」
そんな……ただの、火薬を組み合わせて作った、特製の音爆弾使っただけなのに……。
どうしてだろ? これくらいじゃ普通死なないのに……。
「と、とにかく治療!」
俺は急いで蘇生の薬と、治癒の薬を作り、マーキュリーさんを生き返らせる。
「なんっじゃいまのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ごめんなさい! びっくりしましたよね?」
「ショック死したわぼけぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
マーキュリーさんが叫ぶ。
ううーん……威力がデカすぎた。
反省……。
「あ、でもほら、姿を現しましたよ! タイちゃんが!」
俺の目の前で気絶しているタイちゃんを指さす。
ぎょっ、とマーキュリーさんが目を剥く。
「こ、これ……この獣、もしかして……」
「え? ただの猫じゃないんですか?」
こくん、とマーキュリーさんがうなずいて言う。
「伝説の幻獣……【ベヒモス】よ!!!!」