28.ギルドマスター・ヘンリエッタ
ドブ掃除を終えた後、俺はギルマスに呼ばれた。
このギルド、天与の原石のギルドマスターさんの部屋は、会館の2階にある。
受付嬢ニィナさんと一緒に、俺は部屋の中へと入る。
「ヘンリエッタさん、リーフ君連れてきました!」
落ち着いた内装の部屋。
その最奥に大きな机があって、その前にひとりの、美しい女性が座っていた。
年の頃は20……くらいだろうか。
青みがかかった銀髪に、黄金の瞳。
スレンダーな美人。
この人が、この天与の原石のギルマス、【ヘンリエッタ・エイジ】さんだ。
「来たかの、リーフ」
「はい、ヘンリエッタさん。こんにちは」
「うむ。元気そうじゃな」
少し古風な喋り方をする。
若いのにね。
「ニィナから報告を聞いたぞ。ドブ掃除してたら、王都の川をすべて綺麗にしたとな」
「す、すみません……やりすぎちゃいまして」
怒られるよなぁ。
しかし彼女は微笑んで、「よいよい」と許してくれた。
「人に迷惑かけたわけではないからの」
「驚かせてしまったんですが……」
「はは、まあ仕方ない。Sランクはおぬしをはじめ、みなどこか型破りなとこがあるからの。おぬししかり、黒銀しかり」
黒銀?
「うちのSランク冒険者のひとりじゃよ。今は出張中じゃがな」
エリアルさん以外にもSランクがいるんだ。
さすが王都No. 1のギルド。
「おぬしはその、天より与えられた才能を存分に振るうがよい。大丈夫、諸々の面倒ごとはわしが責任を取るからの」
ほんと心の広い人なんだよなぁ。
ギルマス。こないだの隠しダンジョンの件も、全然怒られなかったし。
「わかりました! 俺、できることを精一杯やります!」
「うむ、期待しておるぞ」
ニィナさんが口の端を引くつかせていたけど、なんだろう?
と、そのときだった。
「大変よギルマス!」
「おお、マーキュリーよ」
入ってきたのは、長く綺麗な髪の毛の美人、彗星の魔女マーキュリーさん。
故郷のマーリンばーちゃんの孫で、今俺は彼女の家でやっかいになってる、
「どうしたのじゃ、慌てて?」
「王都の川からレアアイテムが検出されまくってるの!」
「んなっ! なんじゃとっ!」
さっきまで余裕の表情だったヘンリエッタさんが、ハッとした表情となり、咳払いをする。
「ど、どういうことじゃ?」
「川のほうで騒ぎがあって、鑑定してみたの。そしたら、川の水が、世界樹の雫に変わってたのよ!」
「なんじゃとぉおおおおおおおお!」
あれ、やっぱりさっきまでと違って、ヘンリエッタさんがびっくりしてた。
「世界樹の雫はエリクサーの原料となるレアアイテム! それがどうして……?」
「リーフ君! なんかやったでしょ!」
びしっ、とマーキュリーさんが俺に指を刺す。
「え、なんで俺?」
「こんなあり得ないことするの、君くらいでしょ!」
「ええー……俺何かしました?」
「今までどんっだけやらかしてると思ってんのよっ!」
「そうかなぁ?」
ばーちゃんじーちゃんの方がやらかしてる気がするんだけども。
「あ、そういえばドブ掃除で薬を川に撒きました」
「それじゃん! 犯人じゃん!」
「でも世界樹の雫に変えるような薬じゃないんですが」
「たぶん世界樹の精霊から力もらったでしょ。だから、それの影響受けてんじゃない!!」
ああーなるほど。
「ただでさえやばいのに、精霊パワーでさらにヤバくなってるなんて!」
「やばいって……弱いってこと?」
びきっ、とマーキュリーさんが額に血管をうかせる。
「だから! すごすぎんだって言ってんだよおおお!」
「ふ、ふふ……ま、まあうん。想定内、想定内。Sランクなら、これくらいな」
ヘンリエッタさんはこんな時でも動じてないし、いやぁギルマスはすごいな!