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【WEB版】辺境の薬師、都でSランク冒険者となる~英雄村の少年がチート薬で無自覚無双〜  作者: 茨木野
第五章

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270/273

270.

 ガチャン、と重い鉄扉が閉まる。

 途端に、背後から聞こえていたピンク色の阿鼻叫喚が遮断され、ひんやりとした静寂が戻ってきた。


「……死ぬかと思った」


 僕は階段の踊り場に崩れ落ちる。

 白衣はヨレヨレ、ボタンは全部弾け飛び、全身が汗と残り香でベトベトだ。

 たかが健康診断で、なんで貞操の危機を感じなきゃならないんだ。


「お見事でした、先生」


 ジョシューさんが、涼しい顔で階段を指差す。


「第1階層『一般囚人区』の健診は完了です。……さあ、次は第2階層へ参りましょうか」

「……え?」


 僕は耳を疑った。

 次? まだあるのか?


「ちょ、ちょっと待ってください。ここ、何階層まであるんですか?」

「申し上げていませんでしたか? この大監獄は地下10階層まで続きます」

「じゅ、10……!?」


 僕は目の前が真っ暗になった。

 今のでまだ1階層。つまり、あと9回もこの地獄ハレームを繰り返さなきゃいけないのか。


「ご安心ください。下に行けば行くほど、収監されている女囚の『質』は上がりますから」

「質?」

「はい。より凶悪で、より性欲が強く、より男に飢えている……いわゆる『ヤバい女』たちがお待ちかねです」

「安心できる要素がひとつもない!」


 絶望だ。

 レベル1でこれなのに、ラスボス級の痴女とか出てきたら、僕の身が持つわけがない。


「嘘だ……夢だと言ってくれ……」


 膝から崩れ落ちる僕の足元に、フワフワとした毛玉が擦り寄ってくる。

 愛らしい子猫の姿をした、伝説の魔獣――ベヒーモスの幼体、タイちゃんだ。


『タイちゃん、わかんないぞ?』


 タイちゃんはつぶらな瞳で僕を見上げ、首をコテンと傾げる。


『ここ、てんごくじゃないのか? あんなに綺麗なおなごたちに、わーってされて、よしよしされるのは、男にとって良いことなんじゃ?』

「タイちゃん……」


 純粋無垢な瞳が、今の僕には眩しすぎる。

 魔獣の世界では、メスに囲まれるのは強者の証であり、至上の喜びなのかもしれない。

 でも、人間(僕)にとっては、ただの体力と理性の消耗戦なんだよ。


「そんなことないよ……。うわーん、タイちゃーん!」


 僕はたまらず、その温かい毛並みに顔を埋めた。

 子猫サイズとはいえ、中身は最強の魔獣ベヒーモス。

 そのモフモフとした感触と、陽だまりのような匂いに、ささくれ立った心が少しだけ癒やされる。

 ザリザリとした舌で涙を舐められ、僕は情けなく鼻をすすった。


「よしよし。主様、甘えん坊だな」

「甘えさせてくれよぉ……」


 僕が魔獣に縋り付いていると、もう一人の同行者――猫獣人のミーメイが、呆れたように腕を組んだ。


「だらしないっすねぇ、先生は」


 彼女はピンと立った猫耳をピクピクさせ、鼻を鳴らす。


「強いオスに、メスが寄ってくるのは当然のことっす! 先生がフェロモンむんむんで、優秀な種馬だってバレてるから、みんな食いついてくるんすよ」

「種馬じゃない! 薬師だ!」

「似たようなもんっす。……覚悟を決めて、全員孕ませるくらいの気概で行くっすよ」

「行かないよ!」


 ミーメイの野性味溢れる励まし(?)を全力で否定し、僕は重い腰を上げた。

 逃げ道はない。

 ジョシューさんが、第2階層へのゲートを解錠している。

 その暗闇の奥から、すでにねっとりとした視線と、獲物を狙うような熱気が漂ってきていた。


「はぁ……。次はどんな変態が待っているのやら」


 僕は胃のあたりを押さえながら、さらに深く、欲望の底へと続く階段を降りていくのだった。

【おしらせ】

※2/11(水)


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