27.ドブ川も一瞬で綺麗になる
俺の名前はリーフ・ケミスト。
辺境の村デッドエンド出身の、単なる薬師だった。
婚約者のドクオーナに浮気されたことをきっかけに、俺は村を出て王都へやってきた。
そこで村のマーリンばーちゃんのお孫さん、彗星の魔女マーキュリーさんの家に居候させてもらいながら、俺は冒険者をやることになった。
世界樹を救ってから数日後……。
俺は冒険者ギルド【天与の原石】に顔を出していた。
「おはようございます!!!!」
朝早いというのに、中には冒険者さんたちがたくさんいた。
俺が中に入ると、わっ……! と押し寄せてくる。
「おはようリーフ君!」「ねえねえこないだの隠しダンジョンでのこと聞かせてよ!」
隠しダンジョンに取り残された冒険者さんを助けに、Sランクのエリアルさんと一緒に潜った。
そこで、なんやかんやあって、見事救出して帰ってきたのである。
だが、この件については、ギルドマスターからは余計なことは言わないようにと釘を刺されている。
「すみません、俺の口からはちょっと言えないです!」
「「「えー!!!」」」
ギルメン(※ギルドメンバーの意味)たちからしつこいくらい、何があったのか聞かれまくる。
隠しダンジョンでの出来事は、どうやらショックが大きすぎるらしいので、言わない方が良いってことらしい。
それと……もう一つ。
みんなに隠してることがある。
「はいはい、皆さん。リーフさんが困ってるんで、どいてくださいねー」
白髪の美人お姉さんが、ニコニコしながら近づいてくる。
「ニィナさん!」
ギルド職員のニィナさんだ。
彼女は先日の事件の概要を、ギルマス(ギルドマスターの意味)から聞いてる。
だから、助けてくれたのだろう。
彼女が他のギルメンたちを追い払ってくれた。
「助かりました! ありがとうございます!!」
「いえいえ……で、今日はどうしたんですか?」
「仕事しにきました!」
俺はもう成人してる。
毎日働いて、お金を稼ぐ必要がある。
田舎に居ても、都会に来ても、それはかわらない。
「わかりました。では、こちらに」
俺たちは受付カウンターへ移動する。
ニィナさんはファイルをどっこいしょ、とテーブルの上に載せる。
「ええと……Sランクの依頼は……」
「え、S? 何言ってるんですか?」
「へ?」
きょとんとするニィナさん。
あれ、ギルマスから聞いてるって話だったような……。
「俺、Eランクじゃないですか」
……こないだの隠しダンジョンでの出来事があり、俺は実質Sにはなった。
けれど、伝統を重んじる王国冒険者ギルドで、最低のFからたった数日で最高のSになったとあれば、余計なトラブルを産むだろう。
そういうわけで、俺はこないだの一件で、1つだけランクが上がり、Eランク冒険者ってことになってる。
「で、でもあれは建前上の話で……」
「建前でも何でも、俺まだ駆け出しですし、いきなりSなんて、とてもとても」
俺の暮らしていた村、デッドエンド。
通称、英雄村。
そこに住んでいたじーちゃんばーちゃんは、かつてこの世界で英雄と呼ばれていたすごい人たちばかり。
そんな村人たちのなかで、俺は最弱だ。
村長のアーサーじーちゃんも言っていた。決して、おごることなかれ、と。
「本当にいいんですか?」
「はい! 俺、Eランクの……この仕事やります!」
俺は依頼書に目を通し、1枚手に取る。
「ど、ドブ掃除……ほんとにこれでいいんです? もっと上の仕事できるのに……」
「いえ! 俺みたいな駆け出しは、これくらいの仕事がちょうどいいです!」
「ううーん……ドブ掃除なんて、リーフ君にふさわしくない仕事だと思うんだけど……まあ本人がいいっていうなら、わかりました」
ということで、今日の俺の仕事は、王都に流れる川のドブ掃除である。
☆
ゲータ・ニィガ王国の王都、【ニィガ】。
円形の外壁に囲まれて、東西、南北を結ぶ川が流れている。
本流からは何本もの支流が伸びていて、生活の排水がここに捨てられるそうだ。
俺がやってきたのは、支流のひとつ。
「この川のドブ掃除が、俺の仕事か!」
確かに、川はものすっごく濁っていた。
だって川底が見えないんだもん。
デッドエンド村の川じゃ、考えられない。
あそこはすっごい綺麗な川だったもんな。
アレと比べると、まじでドブ川である。
「よし……やるぞ!」
まあでも、簡単だな。
ドブ川を綺麗にするなんて、こんなの薬を使えば一発である。
俺は背負っている木の箱を下ろす。
これは魔法バック。マーリンのばーちゃんが作ってくれた、無制限にものを入れておける、不思議な鞄だ。
箱に手を突っ込んで、中から杖を取り出す。
これは薬師の神杖。
村を出るときに、ばーちゃんからもらった魔道具の一つだ。
俺の作った薬を、直接投与することが出来る。
「【調剤】」
俺……リーフ・ケミストの職業は薬師。
薬を作る力を持っている。
俺は治癒神アスクレピオス師匠の修行をウケたことで、ありとあらゆる薬を生成することが、できるようになった。
「【浄化ポーション】」
薬師の神杖の先に、ガラス玉がある。 そこのなかに液体がたまっていく。
こうして作った薬を薬師の神杖に充填する。
そして、杖を振る。
シュォオオオオオ……!!!!
ドブ川が一瞬にして、透明な川へと早変わりする。
「うぉお! な、なんだ!?」「川がめっちゃきれいになってる!」「しかもなんだこれ……魚とかすげえいるけど!?」
さ、【次】の川へ向かうか。
☆
「お疲れ様です、リーフさん!」
仕事を終えてギルドへ戻ってきた。
俺はニィナさんに今日の仕事の報告をする。
「ただいまかえりました。ドブ掃除、ちゃんとやってきましたよ!」
「あれ? 証明書もらってきました?」
「しょーめーしょ?」
はてなんだろうかそれは……?
「今回の依頼は商業ギルドからの依頼です。掃除終わったこと、ギルドの人に見てもらわなかったんですか??」
「あー……忘れてました。今、いってきます」
と、そのときだった。
「ニィナ君! いるかね!」
「ジャスミン様!」
赤い髪のお姉さんが、ギルドへと入ってくる。
たしか商業ギルド、【銀鳳商会】のギルドマスターだった……っけ?
「ニィナ君、ドブ川清掃の依頼を受けたのは誰だいっ?」
ジャスミンさんがすごいなんか、焦ってる?
どうしたんだろう……。
「リーフさん、ですけど……」
「なんだって!?」
ぎょっ、とした目で、ジャスミンさんが俺を見てくる。
何度も首をかしげながら、こっそりと、ジャスミンさんがニィナさんに耳打ちする。
「……なぜ彼が、Eランクの依頼を受けているのだ? もっとランクが上じゃないのかね?」
「……そうなんですけど、彼がやるってきかなくて……」
俺はジャスミンさんに尋ねる。
「えっと……俺、仕事できてませんでした? 苦情……いいにきたんですよね?」
しまった、あれじゃ不十分だったか?
いやでも、ちゃんとやったつもりだったんだけどなぁ。
「と、とんでもない! 苦情じゃないよリーフ少年。あれだけ見事に仕事をしてもらったんだ」
「見事に……?」
はて、とニィナさんが首をかしげる。
「王都中の川が、綺麗になっていたのだよ。支流、本流、全部! 川底が見えるくらいに、とても綺麗に!」
「なっ!? なんですってぇええええええええええええええええええ!?」
驚き目を剥くニィナさん。
あれ……や、やっぱりだめだったのかな……?
「全部!?」
「そう全部」
「きれいに!?」
「川魚までいたよ。山奥でしかみないようなやつが泳いでいた」
「信じられないです……」
唖然とするニィナさん。
「えと……俺、なにかやっちゃいました?」
するとジャスミンさんが感心したようにうなずく。
「さすが英雄村の少年だ。まさか、あの汚い川すべてを浄化してしまうなんて」
「はぁ……あれ、でもそれが仕事じゃないんですか?」
「今回の依頼は、ドブ掃除だ。決められた時間、指定された川の1本を、掃除すればそれでよかったんだよ」
うそーん。
「王都に流れる、あんな汚い川を、こんな短時間で綺麗にするなんて……すごいです」
「え、そんなの簡単じゃないですか?」
ひくひく……とニィナさんが口の端をひくつかせていた。
俺なにか悪いこと言っちゃったろうか……?
「さすがだ、少年。見事だったよ」
「えっと、依頼は達成で?」
「もちろんさ。通常の倍……いや、10倍の値段はだそう」
ええ!? そ、そんな……。
「受け取れませんよ! だってたかがEランクの仕事ですし……」
「でも、こなした仕事はSランクに相当するほどだったぞ!」
「いいやでも受け取れませんって!」
そんなふうにジャスミンさんと押し合いへし合いしてるよこで、ニィナさんが疲れたようにつぶやく。
「マーキュリーさんの苦労が、わかったきがしますぅ~……」
【★読者の皆様へ お願いがあります】
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください!
よろしくお願いします!