267.
「よかった……マーキュリーさんが無事なら、安心だ」
僕はホッと胸を撫で下ろす。
あの人が元気なら、合流するまで何とか持ちこたえてくれるだろう。
今は目の前の仕事に集中しないと。
「それじゃあ、案内をお願いします。患者さんはどこに?」
「ええ、ええ。こちらですよぉ……」
ジョシューさんが重厚な鉄の扉の鍵を開ける。
ギィィィ、と錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、監獄エリアへの道が開かれた。
その瞬間だった。
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」」」
鼓膜をつんざくような、黄色い悲鳴が響き渡った。
「えっ!? な、なに!?」
僕は思わず耳を塞ぐ。
敵襲か? 暴動か?
身構える僕の目に飛び込んできたのは、鉄格子の向こうから伸びる、無数の「手」だった。
「男だ! 男がいるぞおおお!」
「嘘でしょ!? 本物!? 幻覚じゃないの!?」
「いい匂い! 若い雄の匂いがするわぁ!」
「こっち見て! ねえ、お姉さんと遊びましょ!」
檻の中に閉じ込められた女囚たちが、鉄格子にへばりつき、必死に手を伸ばして叫んでいる。
その目は血走り、口からは涎が垂れ、まるで獲物を見つけた猛獣のようだ。
「ひぃっ……!」
僕は後ずさる。
怖い。
物理的な暴力とは違う、ドロドロとした欲望の圧力が凄まじい。
「あらあら、大人気ですねぇ先生」
ジョシューさんが他人事のようにクスクスと笑う。
「こ、これは一体……?」
「ここの階層』囚人たちは、長らく男性と隔離されていますからねぇ。男気に飢えているんですよ」
なるほど、だから「女性禁止」だったのか。
もしここにうっかり女性が入ってこようものなら、「貴重な男性(獲物)」を奪い合うライバル、あるいは泥棒猫とみなされて、嫉妬で八つ裂きにされかねない。
逆に男性なら、こうして(捕食対象として)大歓迎されるわけだ。
「さあ先生、早速診察をお願いしますね。みんな、貴方に触れてほしくてたまらないみたいですから」
ジョシューさんが無慈悲にも、一番手前の檻の鍵を開けた。
「ちょ、待っ……!」
「先生ぇええええええええええっ!」
ガバァッ!
檻の中から、筋骨隆々のアマゾネスのような女囚が飛び出してきた。
そして、タックル気味に僕に抱きついてくる。
「ああんっ! 久しぶりの男の感触ぅ! すべすべぇ!」
「や、やめて! 離して! 診察! 僕は診察に来たの!」
「診察ぅ? いいわよぉ、全身くまなく診てぇ! まずは私の『ここ』が熱いの、触診してくださぁい!」
「セクハラだぁああああああああああああ!」
僕はもみくちゃにされながら、絶叫した。
マーキュリーさん、助けて。
ここ、地獄よりもタチが悪いよ!
【おしらせ】
※1/30(金)
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