24.ボスもワンパン
俺は隠しダンジョンに、ギルドメンバーを助けに来ている。
けが人の治療が完了した後……。
「よし、あとはあの牛を倒すだけですね! どうしたんですか、マーキュリーさん?」
「……何でもない、叫びすぎて頭が痛くて……」
「大丈夫ですか! え、」
「完全回復薬は要らないから大丈夫……はぁ」
なんだかお疲れのようだ。
確かにここまで結構遠かったし、疲れてるのだろう。また、けが人が助かって一息ついてるのかもしれない。
「まああとあの上位ミノタウロスだけね」
Sランクパーティ、黄昏の竜のメンバーたちが、でかい7対の腕を持つ牛と戦っている。
どうやらミノタウロスというらしい。
見上げるほどの体躯に、大樹のようなぶっとい腕。
それぞれの腕に武器が握られていた。そこから、雨あられのごとく武器で殴りつける攻撃を繰り出している。
グエールさんが攻撃をさばき、エリアルさんが攻撃を加える。
「はあはあ! これで、終わりだぁああああああああああああああああ!」
ごぉお! とエリアルさんの体から、黄金の光が漏れる。
「な、なにあれ?」
「え、闘気ですよ?」
「おーら?」
「大気に満ちる自然エネルギーのことです。あれを取り込むことで、爆発的に攻撃力をあげる。アーサーじーちゃんも普通に使っていた、武術の基本ですよ?」
村の外で闘気使ってる人初めて見た。
なるほど、強いのはうなずける。でも、あれ? なんか闘気の純度が低いような。
「でやぁあああああああああああああああ!」
闘気で体を強化したエリアルさんが剣を振る。
ずばん! と空気を引き裂いて、ミノタウロスをぶった切った。
「あ、あんなでかいモンスターをバッサリ切っちゃうなんて、闘気ってすごいのね……」
あれ、でも今のも刃に闘気を乗せてなかったな。
じーちゃんたちは闘気を一点に集中させて運用していたんだけども。そのほうがエネルギー効率がいいって、ううーん、変だなぁ。
「ぜえはあ……! も、もうだめだ……」
「「「リーダー!」」」
ミノタウロスをぶった切ったエリアルさんが、大の字になって倒れる。
グエールさんもまたふらふらになりながらも、手を伸ばす。
「ナイスガッツ! さすが天与の原石トップアタッカーだぜ」
「ど、どうも。でも、グエールたちが先に攻撃してダメージを与えてたことと、みんなが協力してくれたことが大きい。おれの一撃だけじゃ、倒せなかったよ」
うんうん、とマーキュリーさんがうなずく。
「これで事件解決ね。さ、あとは帰るだけ」
「え?」
「……なんか、嫌な予感。リーフ君、なんで、えって言ったの?」
「いやだって、まだ生きてますし、そいつ」
胴体真っ二つになった牛を、俺は指さす。
さっ、とマーキュリーさんの顔から血が引く。
「み、みんな逃げて! そいつまだ生きてるらしいわ!」
「「「なっ!?」」」
マーキュリーさんが声を張り上げた瞬間、かっ、とミノタウロスが目を開ける。
腕を伸ばして、エリアルさんにたたきつけようとする。
「エリアル! ぐぁああああああああああ!」
グエールさんが盾スキルを発動させ、ミノタウロスの攻撃をはじく。ううーん。
だが盾がぶっ壊れて、しかもグエールさんも吹っ飛ばされた。うーん。
「グエール! そんな、敵がまだ生きていたなんて……!」
グエールさんが盾で攻撃をさばかなかったら、たぶんエリアルさんたちは死んでいた。ううーむ……。
「さっきからうんうんどうしたのリーフ君!?」
「え、いや、全然なってないなぁって……」
「なってないって……?」
と、そのときだ。
『くははあ! 見事だぞ小さき剣士よ!』
「な!? しゃ、しゃべったぁ!?」
「なんでそこで驚いてるのよ!? さっきのエリアルたちのバトルは全く驚いてなかったのに!?」
いやだって、牛だよ牛?
しゃべる牛なんて初めて見た! す、すげえ……。
え、バトルは?
だって全然なってなかったし……。
『よくぞこの上級ミノタウロスを一度殺した。そこは称賛しよう……しかし残念だったなぁ』
しゃべる牛がにやり、と笑う。
う、牛が笑った!? すごい!!!!!
『この我は、命を七つ持っている!!!!』
「「「な、七つも命を!?」」」
ふーん。
『しかも、一度倒され死から戻ると、そのたび強くなる!』
「「「死ぬたび強くなるだって!?」」」
へー。
『くはははは! これぞ我が能力! 【起死回生】よ! どうだ人間、絶望したか! かーっかっか!』
「いや、全然」
ぴしっ! と固まる。
牛も、空気も、そして……冒険者の皆さんも。
あれ?
「俺、なにか変なこと言いました?」
「い、いやいや! リーフ君聞いてなかったの!?」
マーキュリーさんが声を荒らげる。
なんか叫びすぎてのどがかれていた。大丈夫かな?
「相手はあんなに強いのに、あと六回殺さないといけないの! しかも、死ぬたびに強くなるのよ!?」
「はぁ。でも、六回殺せばいいんですよね? それくらいなら簡単にできますけど」
ぶるぶる、と牛が震える。
『くはははは! でたらめをぬかすな小僧! この我を六度殺すのが容易いことだと? 貴様のような小さなものが? はっ! 笑いすぎてへそで茶をわかせるわ!』
「まじで!? 都会の牛はへそで茶を沸かせるの!? や、やべえ!」
『貴様馬鹿にしてるのかぁあああああああああ!?』
いや馬鹿にはしてないけど、そんなことできるなんてまじですげえって思うわ。
都会牛すご……。
「よ、よし! リーフ君! もうやっちゃえ! あの牛ぶっ殺して!」
「え、無理ですよ」
「なっ!? 相手が強いからってこと!?」
「いや、人んちの家畜を勝手につぶしちゃダメって、ばーちゃんが」
びきっ! と牛の額に血管が浮く。
『いうに、ことかいて……われを? 家畜扱いだと?』
「うん。だって牛じゃん? 牛って人が飼ってるもんだろ。いくら田舎者の俺でもそれくらい知ってるぜ?」
ごごごご! と牛の体から黒いオーラが噴き出る。ふーん。
エリアルさんたちはしゃがみこんで、戦慄の表情を浮かべた。
「なんてプレッシャー! 死んで強くなるとは本当だったのか!?」
「へー」
「なんでそこは驚いてないのだリーフ君!?」
「いやだって、大したオーラじゃないんで」
アーサーじーさんは、もっとすごいオーラを発していた。
あれとくらべちゃ、使い方も量も、なっていない。あの牛も、エリアルさんも。
『死にさらせぇえええええええええ!』
牛のこぶしが俺めがけて振り下ろされる。
ごっ!
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
「リーフ君!!!」
『ふははは! 我に楯突いたから死ぬのだああ!』
「いや、生きてるけど?」
「『なにぃいいいいいいいいいいいいいいいい!?』」
マーキュリーさんが牛と一緒に驚いていた。
はー、しかし、都会の牛はすごいな。しゃべる上に器用に驚くなんて! いやぁ、すごい。
『ば、馬鹿な!? 本気の一撃だったぞ! なぜ生きてる!? 特殊な防御スキルか!? あるいは、われと同じ闘気を使ってガードしたのか!?』
「え、なにも?」
『なにも!?』
「うん。この程度の一撃じゃ、防御なんていらないよ」
戦慄の表情を浮かべる一同。
え、何に驚いてるの?
「防御要らないって……どういうことなの、リーフ君?」
マーキュリーさんが恐る恐るとうてくる。
「いや、文字通りの意味。俺、アーサーじーさんとこで昔から修行してて。そのとき骨とか結構ばっきばきにおられてさ」
「お、おう……」
「そのたびに薬飲んで骨とか筋肉とか修復するたびに、強くなってってさ。なんていったかな、超回復か。それで結構頑丈にできてるんだよね、体」
牛の一撃は、アーサーじーちゃんの手加減した一撃にも劣る。
防御なんていらないくらい、弱い。
「し、信じられん頑丈さだ……おれの防御スキルよりも、さらに頑丈なんて……」
盾使いグエールさんがなんか驚いてる。
え? どこに驚く要素があるんだろ。
「も、もういいわ! リーフ君やっちゃって!」
「でも……」
「飼い主にはあとでわたしが謝るから! 牛って結局つぶして食うもんでしょ!?」
まあたしかにそれはそうか。
てゆーか、人に害成してる時点で、家畜失格だしな。
「んじゃ、ごめんな生産者さん。ちょっとやらせてもらうわ」
俺は握りこぶしを作って、牛をにらみつける。
『ひぐぅ!』
「うちの田舎じゃ、悪さした牛は、こうすんだよ!」
俺は飛び上がる。
武器じゃなくて、こぶしで。
俺は飛び上がって、牛の顔面を、横からぶん殴る。
バッゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
『ひでぶっ!!!!!!!!!!!!』
牛は俺のパンチを受けて……あれ? あっさり消えてしまった。
あとにはチリ一つ残らず、消滅してしまってる。
「なんだ弱すぎだろ。あれ? あと六回殺さないといけなかったんじゃないの? あれれ?」
そんな中で、マーキュリーさんが震えながら言う。
「ろ、六回殺す分の威力のパンチだったんだ。だから、一回の攻撃で、死んだんだわ……」
「あ、あの化け物を、一度殺すのにも、苦労したのに……」
「しかも、殺すたび強くなるはずだったのに……」
マーキュリーさん、エリアルさん、グエールさんが目をむいて、声を震わせてる。
「み、みなさん怒ってます? や、やっぱり生産者に申し出もなく殺しちゃったから……?」
すると三人ともが、怒りの表情を浮かべて叫ぶ。
「「「あんたが強すぎるからだよっ!!!!!!!!!!!!」」」
ええー……なんで強すぎると怒られるんだ?
都会は……わ、わからん!