23.けが人を一瞬で治す。あとついでに死者蘇生
俺、リーフ・ケミストは、隠しダンジョンに来ている。
ここに取り残されたギルドメンバーのひとたちを救出しに、Sランク冒険者パーティに同行しているのだ。
無敵薬を飲んだエリアルさんたち【黄昏の竜】の面々は、目的地へ向かってひた走る。
さすがSランク冒険者、冒険がめちゃくちゃスムーズだ。
俺の嗅覚を頼りに、ギルドメンバーさんたちのあとをたどっていくと……。
「ここです。このなかに、います」
「って、迷宮主の部屋じゃないの!」
居候先の魔女マーキュリーさんが、目の前の扉を見て叫ぶ。
見上げるほどのごついドアに、幾何学的な模様が描かれていた。
「迷宮主って何ですか?」
「迷宮の核を守っている、強いモンスターよ」
「核?」
「迷宮の心臓ともいえる結晶のことよ。迷宮は、この核を中心に構成されてるの」
なるほど、核は人間でいうところの心臓みたいなものなのか。
心臓をつぶされたら困るから、守護する存在がいる、と。
パーティ・リーダーであるエリアルさんが俺に問うてくる。
「リーフ君。ここに、仲間たちが?」
「はい。においはここから。……だいぶ、血の匂いがします」
「そうか……ボスと、戦うしかないようだね」
マーキュリーさんが教えてくれたのだが、迷宮主の部屋は基本、入ったらボスを倒すまで外に出れない仕組みになっているらしい。
だから中の人を救出するためには、撃破する以外にないという理屈だそうだ。
「リーフ君はけが人の治療を。おれたちはなんとかして、ボスを倒す。マーキュリーはその補佐を頼む」
「わかったわ。でも……倒せるの? ボスは迷宮の難易度に応じて、強さを変えるっていうし。隠しダンジョンのボスは、そうとうな高ランクのモンスターなんじゃ?」
「大丈夫さ」
にこやかに、エリアルさんがうなずく。
おお、自信に満ち溢れてる。我に秘策あり、みたいな。
「リーフ君がいるから!」
「えーーーーーー! お、俺ですか!?」
「「「なるほど!」」」
「いやいやいや! だってボスって強いんですよね? 俺なんかがいても、太刀打ちできないんじゃ」
するとマーキュリーさんが大きくため息をついていう。
「いや、あんた以上に強いひとなんていないから」
「え、じーちゃんばーちゃんたちは?」
「あれは人間じゃないから」
「む! 失礼な、じーちゃんたちは優しい人間です!」
「もうええわ! さっさと行くわよ!」
よくないんだが……。まあ確かに化け物じみた力を持ってるけども、みんな。
エリアルさんがうなずいて、迷宮主の部屋のドアを開ける。
中は広めのホールになっていて、全体的に暗い。
「あれが、ボスか!」
でかい、牛だ!
「ミノタウロスね。しかも腕が七対? こんなミノタウロスみたことないわ、鑑定!」
マーキュリーさんが牛を鑑定する。
ぎょっ、と目をむいて叫ぶ。
「上級ミノタウロス、ランクは……え、SSよ! 古竜と同等、それ以上かも!」
皆さんの顔に緊張が走る。
え? なんでだろう?
古竜くらい素手で倒せるよな?
なんだ、あんま強くないんじゃないか。
緊急のクエストだと思ったけど、余裕そう。
牛の近くでは、大盾を持った冒険者が、必死になって牛の攻撃をさばいていた。
「おおいグエール! 大丈夫か!」
「! エリアル! 助かった!」
どうやらあの盾使いが、グエールさんって人らしい。
ひげをはやしたおっさんだ。
「加勢に来たぞ! グエール! 状況は!?」
「部屋の隅にけが人がいる! かなり重症だ! そっちを治してくれ! こっちはさばくので精いっぱいだが、なんとかなる!」
グエールさんから状況を聞いたエリアルさんが、俺たちに作戦の指示を出す。
「手筈通り、おれたちがミノタウロスと戦うから、リーフ君はマーキュリーとけが人を治療してくれ」
俺はうなずいて、部屋の片隅へと向かう。
まあ牛はあんま強くなさそうだし、大丈夫そうだ。それより、けが人のほうが気になる。重症っていうし、すぐに直さないといけないな。
グエールさんのお仲間らしきギルメンは、部屋の片隅でうずくまっていた。
「大丈夫!? 助けに来たわ!」
「! 彗星の魔女さん! 助かった!」
仲間さんたちは、ケガを負っていた。腕がちぎれてる人、腹が破けて内臓が出ている人、浅い呼吸を繰り返し気絶している人……。
「よかった! 大したことなさそうで」
「どこに目ぇつけてんじゃおまええええええええええええええ!」
マーキュリーさんがいつも通り叫ぶ。元気!
「どーみても瀕死の重傷でしょうが!」
「え、でも生きてるじゃないですか? 死ぬ以外はかすり傷みたいなもんですよ」
「思考が蛮族すぎんのよ! さっさと治して!」
「了解です!」
俺は魔法バッグから薬師の神杖を取り出す。
回復薬を調合し、全員に投与。
すると、ギルドメンバーたちのけががすぐに元どおりになった。
「す、すげえ! ちぎれた腕がくっついた!?」「内臓も失った血も体の中に戻ってく!」「奇跡だ! あの世の際でばーちゃんに会いかけてたのに!」
メンバーたちが自分たちの元どおりになった体を見てびっくりしていた。
「よかったです、大したことなくて」
「あ、ああ……?」「たいしたことない……?」「君は一体……?」
困惑するメンバーさんたち。
あれどうしたんだろう?
マーキュリーさんはホッと安堵の息をついていう。
「大丈夫、この子は味方よ。腕のいい治癒術の使い手。ただちょっと頭がおかしいけど」
「「「なるほど!」」」
「え、俺別に頭痛とか風邪とか引いてないですけど?」
「おかしいってそういう意味じゃないから安心して」
「はい!」
じゃあどういう意味なんだろうか?
まあいいか。
「これで全員治療できたわね」
「いや、実は一人……」
メンバーさんたちが後ろを振り返る。
そこには、体が真っ二つになって、すでにこと切れていた、剣士さんがいた。
「ミノタウロスの最初の一撃を受けて、死んでしまったんです……」
「そう……なの……残念ね……」
「はい……即死でした……くっ!」
涙を流す皆さん。
確かに痛ましい現場だ。
「あ、じゃあ治療しますね」
「「「は?」」」
困惑するメンバーのみなさん。
俺は胴体真っ二つにされた剣士さんのそばによる。
「い、いやいや! 何言ってるのリーフ君!? 死んでるのよ!?」
「そうですね」
「そうですね!?」
「ええ、死んでるだけですよね? しかも、まだ死後それほど時間がたってないし、死体の損傷もさほどひどくないです」
「いや、胴体真っ二つなんですけど!?」
「大丈夫! ミンチになってても、ギリなおせますし!」
「なおせんのかよ!!!!!」
俺は魔法バッグから、賢者マーリンばーちゃんからもらった魔道具、天目薬壺を取り出す。
薬を作るスピードを、早めてくれるこの壺。
そこへ素材を全部ぶち込んで、薬を作る。
「【調剤;死返の霊薬】!!!!」
「まかる、かえし……って、死者の蘇生ってこと!?」
作り終わった死返の霊薬を、俺は神杖を使って投与。
回復薬で胴体をくっつけて、そして死返の霊薬を使う。
すると、死体となった剣士さんが猛烈に光り輝くと……。
「う、うう……あれ!? 生きてる!?」
「「「生き返ってるぅううううううううううううううううううう!?」」」
何が起きたのかわからないで、困惑してる剣士さん。
うん、ばっちり!
「よかったよかった、ってどうしたんです、マーキュリーさん?」
頭を抱えて震えていた。
「……リーフ君」
「はい!」
「……ちょっと、頭痛いから、完全回復薬ちょうだい」
「わかりました! 完全回復薬ですね!」
ちゃちゃっと調合して、彼女に飲ませる。
はぁ~……とマーキュリーさんが大きく息をついた。
「リーフ君。何今の?」
「え、死返の霊薬を投与しただけですよ?」
「死んだ人生き返ってない?」
「生き返ってますね!」
「死ぬこと以外はかすり傷じゃないの?」
「はい! まあ死んでも骨折みたいなもんですし!」
「骨折って……」
もちろん、死返の霊薬は、万能の薬ではない。
死後すぐに投与しないと効果がない。
つまり、死んで数日とか数年たった人間を蘇生はできないのだ。
また、老衰などで死ぬ場合は、これを使っても意味がない。
あくまでも、致命傷を負って、死んですぐの人間を蘇生できるだけの薬なのだ。
「そせいできる、だけって……」
フルフルフル、とマーキュリーさんがまたも震えだす。
「完全回復薬、飲みますか?」
「いらないわよぉ! ああもう! 死者の蘇生って! なにあっさり奇跡おこしてるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
あ、元気になった。薬は必要ないみたい。
「え、奇跡? 死者くらい蘇生できますよね? セイばーちゃんもフラメルばーちゃんも、マーリンばーちゃんも……ほら、みんなできるし」
「そいつら全員、世界最高の魔法の使い手なんだよ! イレギュラーと比べるなよ!」
「イレギュラー?」
「おかしいってことだよ!」
「誰が?」
「あんたを含めたデッドエンド村の住人全員だよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
まあ、何はともあれみんな無事でよかった。