22.無敵になる薬で仲間を超強化して驚かれる
俺、リーフはSランク冒険者パーティ【黄昏の竜】とともに、隠しダンジョンにもぐっている。
ギルドメンバーからの救難要請をうけ、一同、ダンジョンの奥地へ向かう。
「あ、そうだみなさん。これ、飲んどいてください」
俺は魔法バッグから薬瓶を取り出して、みんなに配る。
マーキュリーさんが疑惑の目を向けてきた。
「やばい薬じゃないの?」
「ええ、普通の薬です! 飲むと一時的に無敵になります!」
「やばい薬じゃないの!」
パーティーリーダーのエリアルさんが、薬瓶をしげしげと眺める。
「一時的な無敵って、どういうことだい?」
「言葉どおりです。無敵になります。一時的にですけど」
「そうかい……おれは君の薬が、すごいことを知ってる。だから、君を信頼するよ」
ぐいっ、とエリアルさんが躊躇なく飲む。
そうやって、俺の作った薬を、認めてもらえたのが、ふふ、うれしいな。
残りのメンバーたちも戸惑いながらも、リーダーが飲んだからか、後に続く。
マーキュリーさんだけがちょっと、かなり、いやだいぶ嫌そうな顔をして、でも飲んだ。
「さ、これでもう大丈夫ですよ!」
「そうかい。じゃあ、出発!」
エリアルさんたちが歩きだす。
罠は俺の鼻でかぎ分けられるので、だいたい回避できる。
ほどなくすると……。
「敵です。熊ですね」
「わかるのかい?」
「はい。獣の匂いって独特ですからね」
エリアルさんたちが十全に準備をする。
そこへ、のっしのっし、と大きめの熊が出現した。
「死熊! Sランクモンスターよ!」
鑑定眼を持つマーキュリーさんが敵の正体を見破る。
その表情がこわばっていた。
「あ、この熊ってモンスターだったんですね。奈落の森にうじゃうじゃいるんでただの熊だとばかりに」
「突っ込んだら負け突っ込んだら負け……!」
マーキュリーさんが体を震わせる。怖いのかもしれない。
まあたしかに、野生の熊ってびびるもんな。わかる。
「総員、戦闘準備。まずは敵の注意を引き付けるぞ。弓、放て!」
パーティの弓使いさんが、弓矢を構える。
コォオオオオ……!
「り、リーダー、なんかやべええ!」
「え? や、やばいってなんだ?」
「とにかく……ああもうだめだ! 矢を討つぞ!」
弓使いさんが矢を放つ。
ズッドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
「「「…………」」」
「おお、すごい! 命中おみごと!」
さすがSランク冒険者!
弓聖ガンマじーちゃんほどじゃないけど、すごい命中力だ。
あのじーちゃんは山軽く吹っ飛ばすもんな。
「さぁ、先に行きましょう!」
「「「いやいやいやいやいやいや!」」」
あれ? どうしたんだろう?
みんなが俺に詰め寄ってくる。
「リーフ君、今のなに!?」
「何って……俺何かしましたっけ?」
「うん、したよね!? じゃなきゃ、牽制の弓矢でSランクのどてっぱらに大穴開けられないよね!?」
エリアルさんが死熊を指さす。
弓使いさんの放った矢により、2メートルの熊の胸に、大きな穴が開いてる。
「え、でもあれ倒したのって弓使いさんじゃないですか?」
「いや彼にそんな力ないって! 君がやったんでしょ!?」
「だからなにも。俺はただ後ろで見てただけなんで」
マーキュリーさんが何か言いたげに俺を見ていた。
え、なんだろう?
「エリアル。多分、あの無敵になれる薬の効果よ、きっと、いや、絶対」
「え、【ハイパー無敵薬】にそんな力ないですけど?」
「ハイパー無敵薬って……もう名前だけでやばいのわかるわ」
俺が薬の効能を説明する。
「ハイパー無敵薬は飲むとケガしなくなる薬。ただそれだけですよ」
「……突っ込まない、突っ込んだら負け! 突っ込んじゃダメ!」
首をかしげながらも、エリアルさんは気を取り直して言う。
「あ、あんまり時間がないし、先を急ごう」
罠を回避しながら、俺たちは最短ルートで、救難信号をだしたギルドメンバーのもとへむかう。
「こっちを右ですね」
「リーフ君はどうしてわかるの? ギルドメンバーの居場所が」
「え、においをたどってるだけですけど?」
このダンジョンに入る前、信号を出したギルメンの持ち物のにおいを、かがせてもらった。
あとはそのにおいをたどっていけばいいだけ。
「嗅覚すごすぎでしょ……日常生活送れるのそれで?」
「あ、はい。薬で嗅覚を一時的に麻痺させられるんで……あ! 敵がきます! コウモリ、かな」
ほどなくすると、でっかいコウモリが現れる。
一つ目で、手に鎌を持っていた。
「ぐ、単眼悪魔!? Sランクよ!」
「え、ただのコウモリじゃないですか」
「……ぐ、ぎぎ、ぐぎぎぎつ、突っ込んじゃ、だめ!」
なんか知らないけど、マーキュリーさんが辛そうだ。
「大丈夫です? 完全回復薬飲みます?」
「うぐぅうああああああああああ! 突っ込みがぁあああああああ!」
「飲まないんです?」
「飲むわよ!!!」
さてコウモリこと単眼悪魔と対峙したエリアルさんたち。
たん! と単眼悪魔が地面をける。
「く! なんて速さだ! 目で動きが負えない!」
「え? 普通に見えてますよ、ねえ?」
「そんなわけないだろ! みろ! 音だけで姿が全く見えない。動きがめちゃくちゃ速く……あ、あれ?」
エリアルさんが目をしばたたかせる。
まるで、なにか妙なものが目にうつったようだ。
「み、見える……なんで?」
「ほら見えるじゃないですか」
「いやおかしい。さっきまではあの速さを……いや、今はそれどころじゃないか! 魔法用意!」
エリアルさんの号令で、魔法使いさんが杖を構える。
「倒さなくていい、相手を一瞬ひるませるだけで!」
「じゃあ初級魔法でいいわね。ふぁいあー……え!?」
杖先に魔力がたまっていく。
ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!
迷宮の壁ごと、吹っ飛ばす勢いの魔法。
さすがSランク冒険者だ。
まあマーリンばーちゃんと比べたら、まだまだの威力だけど。
「単眼悪魔、撃破! ですね!」
「「「いやいやいやいやいやいやいやいや!」」」
またも、黄昏の竜の皆さんに囲まれる俺。
「どうしたんですか、時間がないんじゃないのです?」
「いやリーフ君。ちょっと今のはおかしい」
「おかしい? ああ、たしかに威力がちょっと弱いですね。でもマーリンばーちゃんはすごいから、比べるのはおかしいというか」
「いやおかしいっていうのは、威力がおかしいってこと!」
「弱すぎってこと?」
びきっ! とマーキュリーさんの額に、血管が浮かぶ。
彼女は大きく息を吸い込んで……。
「強すぎるんだよ……!!!!!!!!!!!」
あれ、マーキュリーさん怒ってる?
なんでだろう。
「もー突っ込まないって決めてたけど限界よ! リーフ君! ハイパー無敵薬って絶対やばい薬よ!」
「いや、単にケガしないだけの薬ですけど」
「しゃらっぷ! 薬! 出せ! なう!」
俺はマーキュリーさんに、ハイパー無敵薬を渡す。
すぐに鑑定を行うマーキュリーさん。
「なによこれぇええええええええええええええええええ!」
「どうしたんだ、マーキュリー?」
「エリアルこれやばいわ。飲むと一時的にだけど全ステータスにバフがかかるの!」
「なんだって!? 能力が向上するってことか!」
「ええ。状態異常完全無効、腕力超向上、魔法攻撃力超向上、エトセトラエトセトラ……ただ頑丈になるだけでなく、いろんな力が向上する、まさにパーフェクトな無敵超人になれる薬よ!」
みなさんが唖然とした表情で、俺の作った薬を見ている。
「え、そんな効果ないですけど。ケガしなくなるだけで」
「おそらくだけど、英雄村の人たちってもともと最強クラスに強いじゃない? 攻撃力などのステータスが、カンストしてる。だから、ハイパー無敵薬でステータスが向上しなかった。結果、ケガが自動でなおるって効果だけが、発揮されてて、能力バフには気づかなかったのね」
マーキュリーさんが薬について、いろいろ言ってる。
でも、あんま理解できなかったな。
「つまり?」
「凄すぎるってこと!」
「はい! じーちゃんたちすごいですよね!」
「あんたがすごすぎるって言ってるのよもおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」




