21.隠しダンジョン、潜ってみた(余裕)
ある日のこと、冒険者ギルド【天与の原石】にて。
受付嬢ニィナさんに俺は呼び出された。
そこには、Sランク冒険者エリアルさんと、パーティ【黄昏の竜】の人たちが集まっていた。
「リーフさん。実はお願いがあるんです。彼らに同行して、隠しダンジョンに潜ってほしいのです」
「隠しダンジョン……?」
聞いたことのない単語だ。
居候先でバディのマーキュリーさんが説明してくれる。
「ごくまれに、ダンジョン内で発見される、隠されたダンジョンよ。そういうのに限って、たいてい、めちゃくちゃ難易度が高いのよね」
「難易度の高いダンジョンに、どうして俺が? Fランクですよ、まだ」
Sランクのエリアルさんが疑問に答えてくれる。
「実はギルドメンバーが、隠しダンジョンから戻ってこなくてね。しかも、救難信号が送られてきた」
「救難信号って……たしかギルドから支給されるっていう魔道具ですよね?」
俺もここへ入ったときにもらった。
お札のような魔道具で、ピンチの際にこれに魔力を込めると、ギルドに危険を知らせることができるらしい。
バディ制度といい、本当に新人にやさしいなって思ったんだよな。仲間思いというか。
「なるほど、隠しダンジョンに潜った仲間から救難信号を受けたので、エリアルさんたちが助けにいく。そこに、同行しろってことですね?」
「話が早くて助かるよ、リーフ君。けが人がいた場合、治療できる人がいたほうがいい」
それなら治癒術師が行けばいいと思ったのだが、どうやら腕のいい治癒術師で、隠しダンジョンに潜れるほどの手練れはいないのだそうだ。
回復役を連れてっても、自分の身を守れないと、逆にお荷物になるからと。
……あれ?
「確かに俺もけが人の治療できますけど、別に手練れってわけじゃないですよ? Fランクのただの薬師ですし」
エリアルさん、ニィナさんが苦笑いし、マーキュリーさんが頭を抱えて叫ぶ。
「いつになったら自分が規格外だって気づいてくれるのよぉおお!」
「ま、マーキュリー大変だな……。しかし彼は謙虚だね」
「謙虚っていうか、彼の村の老人たちがもう異常すぎて、感覚がバグってるのよね……」
感覚が、バグってる?
そうだろうか。わからん。ただ確かにじーちゃんたちは強い。俺は弱い(結論)。
「今回の依頼はリーフさんにしかできないのです。お願いします!」
ニィナさんが頭を下げてくる。
新人に手厚く、優しいこのギルド。そのメンバーが困っているのだ。助けないわけがない。
師匠も言っていた。その力は他人のために使いなさいって。
「わかりました! 俺、ついてきます!」
おお、と皆さんが歓声を上げる。
「足手まといかと思いますが、よろしくお願いします!」
お、おう……と皆さんが微妙な顔をしていた。なんで?
こうして俺は、隠しダンジョンに救助へと向かうのだった。
★
目当てのダンジョンは王都からほど近い森の中にあった。
ダンジョン。迷宮とも呼ばれている、らしい。
モンスターやトラップがうじゃうじゃあって、何人もの冒険者が命を落としている、やばい場所、らしい。
隠しダンジョンはそんなダンジョンに、ランダムで発生する、さらにやばいダンジョン、らしい。
「らしいらしいって、リーフ君ダンジョンってはじめてなの? 意外ね」
俺の隣を歩いてる、マーキュリーさんが尋ねてくる。
「はい。修行や薬草採取は、全部奈落の森でやってたので。【ダンジョン】は初めてです」
「あ、うん。なんとなくわかったわ、この後の展開……」
なんだかぐったりしてるマーキュリーさん。
ここまでで疲れたんだろうか。
「完全回復薬、飲んでおきます?」
「ありがとう……もう突っ込まないからね……はぁ」
ごくごく、とマーキュリーさんが完全回復薬を飲む。
ここへ来る前にストックは十分に作っておいたのだ。
「けど、大丈夫でしょうか。ダンジョンってやばいとこなんですよね? 俺、ダンジョンははじめてだから、大丈夫かなぁ」
「大丈夫よリーフ君。君がだめなら、もうおしまいだから」
「ええ! だいじょぶじゃないじゃん!」
「だから! あんたが最強なんだから、あんたがだめなら誰も勝てないって意味なの!」
「そんな、俺は弱いですよ」
「んもぉおおおおおおおおおおおお!」
マーキュリーさんが悶えてると……。
先頭を歩くエリアルさんが立ち止まり、真剣な表情で俺たちを見やる。
到着したのか。く、緊張するぜ。
「この壁がフェイクになってる」
エリアルさんが壁に手を置くと、ずずず……と壁の中に入っていった。
おお、サスケじーちゃんみたい。あの人のニンジュツ、壁抜けみたいだ。
「壁が幻術魔法で偽装されてるのね」
マーキュリーさんも壁の中に入っていく。俺もそのあとに続いた。
さっきまでの土むき出しのダンジョンとは違い、なかは青白く発光する、不思議な鉱石に包まれていた。
「ここからはモンスターだけでなく、トラップにも十分に気を付けること」
「はい! あ、エリアルさん!」
「どうしたリーフ君?」
「足元になんか硫酸トラップが……」
かちっ!
「うぎゃぁあああああああああああああああああ!」
「エリアルぅうううううううううううううううう!」
大変だ!
エリアルさんがトラップに引っかかった。
いきなり彼の足元に穴があいて、落ちて行ったのである。
俺はまっさきにトラップに飛び込んでいく。
「リーフ君!? 硫酸トラップなのよぉおおおおおおお!?」
俺は空中でエリアルさんをキャッチ。
そのまま上へと、彼だけぶん投げる。
「リーフくん!?」
エリアルさんは地上へと戻っていった。上で待ち構えていた仲間さんたちがキャッチしたし。うん、よかった。
どっぼおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
「いやぁあああ! リーフ君が硫酸トラップにぃいいい!」
「すぐ助けないと!」
「む、無駄よ……硫酸のたまった落とし穴に入ったの。一瞬でドロドロにきまってるわ……」
「え? 生きてますけど?」
俺は落とし穴からよいしょと出てくる。
ぽかんとしてる、マーキュリーさんとエリアルさん。
「「なんで生きてるの!?」」
「なんでって言われても、俺、毒無効体質ですし」
薬師の修行の一環で、幼いころからたくさんの毒草や毒物を摂取していた。
あらゆる毒に対する完全な耐性を得たのである。
「そ、そっか……リーフ君、ヒドラの溶解毒を受けてもぴんぴんしてたわね。今更硫酸くらいじゃ効かないのね……」
「ぶ、無事でよかった……ありがとう、助けてくれて」
ぺこりと、深く頭を下げるエリアルさん。
「いえ、仲間を助けるのは当然です! 感謝なんて不要です! 服が汚れなくてよかったですね」
「あ、あんたねえ! 服が汚れる程度じゃすまないわよ! 硫酸にダイブしたら!」
「え、そうだったんですね」
「そうよ! 溶けて死ぬんだから普通は!」
「? 生きてますけど?」
「あんたは普通じゃないのっ!!!!! なに、わたしのセリフ聞こえてないの!? 耳詰まってるの!?」
「いえ、聞こえてます! 硫酸は耳に詰まってないです!」
「そういう意味じゃなくてもぉ!」
マーキュリーさんが頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
あ、ちなみに俺の服は硫酸で溶けてない。俺の着てる師匠のマントは、めちゃくちゃ頑丈で、絶対に破れないし溶けないんだよね。
一方、エリアルさんが戦慄の表情で「ドボンする前に助かってよかった……!」となんか青ざめた顔で言っていた。
「というか、リーフ君、どうやってトラップに気づいたんだ?」
「俺、鼻がいいんですよ。森の中で薬草をかぎわけて、採取しまくってたんで」
「なるほど……硫酸のにおいをかぎ取ったってわけか。すごい」
しかしトラップがこの先もあるんだったら、俺の鼻が役に立つかもしれないな。
人の役に立てるのって、いいな!
「隠しダンジョンのトラップ、不憫ね……こっちには嗅覚お化けがいるから」
「嗅覚お化け? 誰の事?」
「あんたのことよ……! あんたのぉおおおおおおおおおお!」