199.【閑話】都会の朝
クエストを終え、俺は王都に帰ってきていた。
「ふぁ~…………よくねたぁ」
俺、リーフ・ケミスト。
田舎を出て、現在、ゲータ・ニィガ王国王都にて、冒険者をしてる。
村のマーリンばーちゃんのお孫さん、マーキュリーさんのお家で、居候させてもらっている。
「ひさしぶりの、おうちのベッドだ~」
なんだかとても懐かしい。
最近海外にいってたからなぁ。
『ふが……? 主よ……? もう起きたのか……?』
子猫姿のタイちゃんが目を覚ます。
起こしてしまったようだ。
「おはようタイちゃん。起こしてごめんね。寝ててもいいよ」
『うむぅ……おきるぅ~……』
ぴょんっ、とタイちゃんが俺の胸に飛び込んでくる。
俺はタイちゃんを頭に乗っけて、部屋を出る。
くわー、とタイちゃんが眠そうにしてる。
「コーヒー飲む?」
『む? コーヒー? なんだそれは』
タイちゃん知らないみたい。
まあ、人間の飲み物だからね。
「おいしいよ。目が覚める」
『ふぅむ……くわー……ほしい』
マーキュリーさんが飲む分もあるし、ちょっと多めに作っておこう。
俺は台所に立つ。
【ただのマメ】をゴリゴリとひいて、コーヒーの準備をする。
お湯ができるまでの間、俺は掃除をする。
タイちゃんは一旦、台所のテーブルにのっけて。
俺は【特別な薬】を使い、台所をぴっかぴかにする。
「ふぁ~……おはよぉ~……リーフ君……」
「あ、マーキュリーさん、おはよう」
タンクトップ+パンイチ、というだらしのない格好で、マーキュリーさんが寝室から出てくる。
『なんとはしたない。婦女子がしていいかっこうじゃあないぞ』
「うっさい……いいじゃないの、家の中なんだから。ねえ?」
俺はうなずく。
もう慣れてしまった。マーキュリーさんが、家の中ではだらしのない人だって知ってるし。
注意してもなおらないので。
「コーヒーできましたよ~」
「ありがとぉ~……」
俺は抽出したコーヒーを、カップに注ぎ、マーキュリーさんとタイちゃんの前に出す。
ぼんっ、とタイちゃんは人間の姿とる。
すんすん、と鼻を鳴らす……。
「なんだか良い香りがするのぅ」
「それがコーヒーって飲み物だから」
「ふぅん……では一口」
ぺろり、とタイちゃんが舌でコーヒーを舐める。
「うっ」
「う?」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
タイちゃんの目から、光線がでる(破壊性はない)。
「目がぁ……! 我の目がぁ……!!!!!!!!!!」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
マーキュリーさんが口に含んだコーヒーを吹き出す。
ああもう、きたないなぁ。
まあコーヒーの汚れが、自動で消えるからいいけども。
「よくねえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
マーキュリーさんが立ち上がり、ばんばん! とテーブルを叩く。
え?
「どうしたんです、マーキュリーさん?」
「どうした、じゃねえよ! なによあれ! 目からビームでてんじゃん!」
タイちゃんの目から今だにビームが出続けている。
「あの【メガシャキ・コーヒー】の効果ですねっ」
「め……めが……? なによそれ!」
「そのコーヒーには、飲むと、眼球内の老廃物が、ビームとなって外に出る効果があるんです」
「ビームにする意味ある!?」
あるってきかれても、そういうもんなので……。
「え、うそ。あたし、毎日このコーヒー飲んでたんだけど。え、毎日ああなってたの!?」
「はいっ! あれ、気づいてなかったんですか……?」
「気づいてないわよ……。あたし、朝低血圧で……ぼーっとしてるし。ちょっと、目が冴えるなぁ、くらいで」
なるほど、自分でビーム出してるし、これ破壊性あるわけじゃないから、気づかなかったのかぁ~。
「え、やだ……あたし毎朝、ビーム出してたの……?」
「そうですね」
「ああああああああああ!」
マーキュリーさんが絶望の表情で、頭を抱えてる。
「……そういや、ギルドの人たちが朝尋ねてきたとき、なんかドン引きしてた……これか……!」
はぁ……と重くため息をつくマーキュリーさん。
「あとさ! なんかさ、コーヒーの汚れ自動で消えてなかった!?」
「? え、はい」
「なんだよあれ! なんで自動で汚れがきえるのよ!」
「え、【聖域洗剤】を使って、ここらへん聖域になってるからですよ?」
セイ・ファートばーちゃんからおしえてもらった、聖域洗剤だ。
使うと一定期間、その場所が聖域になり、【けがれ】を落とすって。
「それ汚れじゃなくて、穢れだから!」
「へー。え、だからなんですか?」
「むきゃぁああああああああああああああああああああああ! 久しぶりぃいいいいいい! 腹立つぅううううううううううう!」
タイちゃんは目からビーム出してるし、マーキュリーさんは気炎を上げてるけども……うん。
いつもの日常が、帰ってきたぞ!