184.四凶の窮奇と厄神
俺たちはエルフ国アネモスギーヴへとやってきた。
不死鳥のホークスさんに、病を強制的に与えた存在……それが、目の前に居るモンスター。
「こいつが……窮奇ですね」
窮奇の見た目は、ベヒモスであるタイちゃんに少し似ている。
三メートルほどの虎みたいな外見だ。
けれど毛皮の色は真っ黒だし、なにより、全身からヤマアラシのような針が生えている。
さらに特徴的なのは、窮奇が立っている場所の草が、腐食してることだ。
くんっ、と俺は匂いを嗅いで、すぐに気づく。
「黒銀さん、気をつけてください。やつは致死性の毒を常に分泌しつづけるようです」
「……さすがだね、犬並みの嗅覚だ」
俺、そして黒銀さんの二人は窮奇から距離を取って相対する。
接近すると、窮奇の毒を浴びてしまうからだ。
「……どうする?」
「まずは対話を試みます」
「……!? 正気かい? 敵は恐ろしい化け物なんだよ? 直ぐに消したほうがいい」
黒銀さんは窮奇をすぐさま討伐したいみたいだ。
けど俺は……できることなら、対話を試みたい。
なんで、病気を振る舞いているのか。
そのわけを知りたいのだ。
「……知性があるとも限らないんだぞ?」
「いえ、あります」
「……根拠は?」
「こちらの様子をうかがっているからです」
麻酔が効いてるっていうのもあるんだろうけど。
窮奇はこちらをジッと見ている。どこか知性を感じられた。
「それに大抵の毒は俺に効きません。お願いします、一回ハナさせてください」
「……なぜ対話を?」
「俺は……俺の力は、薬神アスクレピオス師匠からもらったものだから、です」
師匠から教わったの力は、人を治す力。 できることなら、戦いたくないのだ。
窮奇にも事情があるかも知れない。
害をなしてる時点で、その可能性は薄い気がしなくもないけど。
「……わかった。任せる」
「ありがとうございます」
俺はざっざっざっ、と窮奇に近づく。
近づくとわかる。彼から、恐ろしい量の毒が分泌されてることに。
並の人間なら死んでしまうだろう毒が、大気中にまき散らされている。
俺は声が聞こえるくらいの距離までやってきた。
「初めまして。俺は、リーフ・ケミスト。薬師をしてます」
すると窮奇は、俺を見て言う。
『……厄神か?』
「? ヤクシン……薬神……? 薬神アスクレピオスは俺の師匠ですけど」
すると窮奇が、一瞬にして消える。
「リーフ君!?」
『そうか、疾く……死ね』
俺の体が宙を舞う。
さっきまで俺が立っていた場所に窮奇がいた。
俺は見た。窮奇が一瞬で
距離を詰めて、俺にたいあたりを食らわせてきたことを。
体当たりの瞬間ジャンプしたので直撃は避けられた。
『厄神の使徒だな、貴様ぁ……! 殺す……殺してやる……! ぶち殺してやる!!!!!!!!!!!!』