178.不死鳥、ゲットだぜ
俺は不死鳥の病気を治した。
未知のウイルス病に感染していたらしい。
『すまぬ……薬師殿。そして……エルフの民よ。多大なる迷惑をかけてしまったな……未熟者で、本当にすまない』
「何があったんです? 不死鳥さん」
不死鳥さんが事情を語ってくれた。
聖獣の森に、不審者が侵入してきたそうだ。
そしてそいつに何かを投与された。
結果、謎の病気に感染。
正気を失い死の灰を振りまくようになる。
『わらわは大馬鹿ものじゃ……わらわたち不死鳥の一族に仕えてくれた、エルフの民に酷いことをしてしまった……』
「不死鳥様……」
イージスさんがどう話しかけて良いのかわからない様子。
「まあ、迷惑かけたの事実だものね」
とはマーキュリーさん。
「え、でもそれって不死鳥さんのせいじゃあないでしょ?」
俺がそういうと、その場に居た三人が目を丸くする。え、驚くことかなぁ?
「だって病気のせいで正常な判断を失うことってよくありますし」
たとえば、牛には脳神経を駄目にしてしまう病気がある。
それにかかると日常生活を送れなくなり、自分の意思に反する行動を取ることがある。
「それに不死鳥さんは……エルフの民を守ろうともしてたじゃあないですか」
「ま、守る……? どういうことだ、リーフ殿?」
イージスさんが困惑気味に尋ねてくる。あれ、わかってないのかな?
「不死鳥さんは病気をうつさないよう、炎を展開し、森に近づかないようにしてたんですよ」
死の灰を振りまこうとしていたのではない。
不死鳥の炎で、ウイルスの感染を止めようとしていたのだ。
「ウイルスは空気感染します。でも、エルフの里では不死鳥さんと同じウイルス病に罹った人は居ませんでした。それはつまり……不死鳥さんの炎でウイルスが死んでいたのです。死の灰は……副産物ですよ」
と言ってもたしかに死の灰はエルフの里に被害を出していた。
でも……。
「あのウイルス、致死性の高いものでした。感染したら数日と保たなかったでしょう」
「そ、そっか……死の灰は呼吸器をやられるけど、即死性はなかった……」
マーキュリーさんの言う通りだ。
「不死鳥さんは、病気で苦しんでいるなか、エルフの民たちを守っていたんですよ」
……じわり、と不死鳥さん、そして、イージスさんの目に涙が浮かぶ。
『薬師殿……わらわのことを、かばってくれて……ありがとう……!』
「リーフ殿! 不死鳥殿の真意を汲んで、教えてくださり、ありがとうございます!」
うんうん、良かった。
誤解したまま、仲違いだなんて嫌だもんね。
「リーフ君、やるじゃない。あなたにもちゃんと人の心とかあったのね……って、何してるの?」
俺は薬瓶を取り出して、そっ、と不死鳥さんの目元に持って行く。
ぽちゃん……と瓶の中に不死鳥さんの涙が入る。
「え、素材採取ですけど……?」
「はぁ!? 素材!?」
「はい! 不死鳥の涙はすごいレアな素材で、それだけでどんな傷も癒やす万能薬になるんですよ!」
アスクレピオス師匠から教えてもらったんだ。
実物は見たことなかったんだよね。
だからほしかったんだ!
「ま、まさか……泣かせたのって……素材採取のため?」
「え、違いますよ。何馬鹿なこと言ってるんですか? ついでに採取しただけに決まってるじゃあないですかー」
「てめえに馬鹿って言われたくねえよぉおおおおおおおおおおおお!」
「……!」
「嬉々として頭痛薬だすんじゃねえぞおごらぁあああああああああああ!」