177.鳥フル
俺は不死鳥の病気を治しに来た。
「それでリーフ君、これからどうするの……? 不死鳥を治すって言うけど」
「まずは問診ですね」
どんな病気も、まずは患者の主訴をきかないとね。
アスクレピオス師匠がそう言っていた。
『ごほごほっ……! ぜえぜえ……わ、わらわに近づくでない! 後生だ……』
「近づかないで……ってどういうこと?」
『わらわに近づけば主らも……』
そのときだ。
「ごほっ! ごほごほっ!」
「イージスさん?」
同行者であるエルフのイージスさんがその場にうずくまる。
何度も咳をして、息苦しそうに呼吸をしていた。
『ああ……すまぬ……わらわのせいだ……やはりそうだ……わらわの病がうつってしまった……』
「不死鳥から病気が感染したってこと!?」
……鳥。
感染。
そして、呼吸器障害。
『わらわは……ごほごほ……不死の鳥。だから死ぬことはない……だが……そこのエルフは……げほげほ! すまない……エルフの民よ……すまない……』
「あなた……悪い鳥じゃなかったのね……病気がうつるから近づけないようにしてたのね……リーフ君、なんとかしてあげられない?」
うん、そうだ。
あれかもしれない。
「マーキュリーさん。多分この鳥は、ウイルスに感染してます!」
「う……うい……? なにそれ」
「目に見えない、ほんとうに小さな生物です! それに感染されて居るんだと思います」
「そ、そう……なんだかわからないけど、そのウイルスってどうやって治せば良いの? 完全回復薬をのませるとか?」
「なんで頭痛薬をのませるんですか? 頭痛でもおきてないのに」
「頭痛薬を頭痛薬っていうなや!!!!!!!!!!」
ウイルス感染に対する対処法。
ワクチンをつくることだ。
「ワクチンを作るために、不死鳥さん。少し血液を分けさせてください!」
『か、かまわぬが……ごほっ! なおせるのか……? そこな、エルフを』
ああ、この不死鳥さん、凄く優しいひとだ。
自分よりも、自分のせいで病気をうつしてしまった、イージスさんの体調を気にしている。
そんな優しい鳥を……俺は殺させやしない!
「大丈夫です、俺はあなたも、イージスさんも救ってみせます!」
『……そうか。わかった。頼む』
俺は直ぐに小刀を取り出し、不死鳥の足を少し傷つける。
そこから採取した血液を、薬師の神杖に数滴垂らす。
「血中に含まれているウイルスを調べ、それに対するワクチンを……調剤!」
カッ! と杖の先端が光り輝く。
よし、出来た……!
「いきます! 投与、ウイルス・ワクチン!」
杖に充填されたワクチンを、俺は不死鳥、そしてイージスさんに投与する。
(薬師の神杖は適切な方法で、体外から薬を投与できる)
みるみるうちに、イージスさん、そして、不死鳥さんの体調が良くなる。
『し、信じられぬ……治った。呼吸がすごくらくになっておる!』
「す、すごいわ……リーフ君。未知の病気を、一発で治しちゃうなんて……」
マーキュリーさんが感心したようにつぶやく。俺は嬉しくなって言う。
「え? 薬師ならこれくらいできて当たり前ですよねっ?」
「いや、まあ、うん。君に知ってる薬師=薬神なんだけど……ま、いいか」
「あれ? 頭痛薬いらないんですか? いつもみたいに?」
「煽ってんのかてめえええええええええええええええええええ!」
「…………」すっ。
「嬉々とした顔で頭痛薬だすなや!!!!!!!!!!」