176.まずは落ち着け
俺たちはエルフ国アネモスギーヴにきている。
死の灰をまき散らす元凶、不死鳥の治療に来たのだった。
「あれが……不死鳥? 図鑑で見たものとは違うわね。ちょっとみすぼらしいっていうか……」
大樹の根元にうずくまってる、不死鳥を見て、マーキュリーさんがつぶやく。
確かに、不死鳥ってもっと綺麗なイメージだった。
しかし眼前にいるのは、毛の抜けた鶏にしか見えなかった。
羽毛は抜け、痩せ細り、今にも死にそうだ。
でも……。
「不死鳥様は、死ねないのだ。不死の鳥……だからな。たとえ不治の病にかかっていたとしても……」
道案内のエルフ、イージスさんが辛そうに顔をゆがめて言う。
……たぶん、不死鳥とは親しい仲だったのかも知れないな。
友達が病に苦しんでいる姿を見て、辛い気持ちになっているのだろう。
……優しい人だ。
そんな彼女のために、俺は直してやりたいなって思った。
「何より、まずは診察です。マーキュリーさん、着いてきてくれますか?」
マーキュリーさんには鑑定眼がある。
不死鳥の不調の原因を突き止めるためには、マーキュリーさんの目が必要だ。
マーキュリーさんはやれやれ、とつぶやく。
「もちろんよ。てゆーか、ギルドの依頼で来てるんだから、行くに決まってるでしょ?」
「マーキュリーさん!」
やっぱりこのお姉さんは、優しい人だなぁ……。
困ってる人がいたらほっとけないんだからさ。
俺とマーキュリーさんは一緒に、不死鳥の元へ向かう。
瀕死の不死鳥は、俺たちが近づくのを感じ取ったのか……。
『わ……ら……わ……に……ち、か……づ……く……なぁぁ……!』
「! マーキュリーさん!」
俺はカノジョを押し倒す。
ごぉお……! と灼熱の炎が、俺たちの居た場所を通り過ぎていった。
「なになに!? なんなの!?」
「反撃です。相手は手負いの獣。近づく物を条件反射で襲ってくるのでしょう。うちの野良犬と野鳥もそんなかんじでした」
「……ちなみに野良犬と野鳥って?」
「フェンリルとヤタガラスですが?」
「伝説の獣……!!!!!!」
うちの田舎の野生動物たちもそうだった。
ケガしてると襲ってくるのだ。
「マーキュリーさんは伏せててください。俺がまずは、鎮静してきます」
俺はマーキュリーさんに、マジックバッグから耐火性のマントを取り出す。
ばーちゃんが入れてくれてたマントだ。
「って!? これ火鼠の衣!? 激レアアイテムじゃあないの!?」
「え、ばーちゃんが縫ってくれたお手製マントですよただの?」
「伝説のレアだっつってんだろぉ!?」
ばーちゃんのマントなら安心安全だね!
俺はイージスさんにも同じ物をなげ、不死鳥の元へ向かう。
ごぉ……!
熱波が俺を襲う。
「リーフ君! 焼け死ぬ……って、えええええええええええ!? なんで無事なのぉおおおおおおおお!?」
日焼け止めを貫通するほどの熱波。
しかし俺は平気だった!
「経口補水液のんでますから!」
「け、けーこー、ほ、ほすい……?」
人間の体液は水分だけでできていない。
ナトリウムっていう成分が含まれている。
これが失われることで、体の不調を起こしてしまう。
だから、熱中症の時は、失った水分だけでなく、ナトリウムも体内に摂取しないといけないのだ!
「俺の作った経口補水液には、水分だけじゃあなくて、ナトリウムもたっぷりはいってます! だから、いくら暑い環境にいても、へいちゃらなんです!」
「いやそれ……火傷に強い説明になってないから……!!!!!! 脱水症状と、この不死鳥の熱波……同じじゃないから!」
「? 同じじゃないんですか?」
「ばけもんがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
とにかく!
俺の作った補水液があれば、どんな暑いなかでも、平気!
俺はずんずんと不死鳥のもとへむかう。
『に……げ……ろぉ……!』
ああ、やっぱり。
この子もまた……優しい鳥なんだ。
自分に近づいたら、あぶないと、忠告してくれる。
「ありがとう……でも、俺は君を治す! そのためにはまず……落ち着け……!」
俺は十分に接近し、スキルを発動。
「【調剤:麻酔薬】!」
びくん! と不死鳥は体をこわばらせると、その場で意識を失う。
熱波は収まった。ふう……よし!
「とりあえず、落ち着いてくれましたよ! マーキュリーさん!」
するとカノジョは立ち上がって走ってくると、俺の頭をはたいた。
「補水液で、不死鳥の炎のなかへいちゃら? んなことできるわけねええだろぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「? 現に出来ましたけど……? 何見てたんですか?」
「あああああああああああああああああああああああむかつくぅうううううううううううううううううううううううううううううう!」
「…………」すっ。
「無言で頭痛薬わたしてくんなやぁああああああああああああああああああああ!」