15.エリクサー量産して驚愕される
王都近郊の森で、大量の薬草をゲットした俺たち。
王都の冒険者ギルド、【天与の原石】へ向かいながら、彗星の魔女マーキュリーさんは言う。
「こんな大量の薬草、どうするのよ……頼まれた量の何百倍もの量よ」
「採り過ぎってことです?」
「そうよ。ギルドだってこんな大量に、薬草が必要な事態なんて、滅多にないんだし。買い取ってはくれないわよ」
「うーん……そっか。過ぎたるは及ばざるごとし、ってことですね。次から採り過ぎには注意します」
ギルド会館へ戻ってきた俺たちは、ふと違和感に気づいた。
「なんかギルドが騒がしいですね」
「何かあったのかしらね? ニィナちゃんに聞いてみましょ」
受付に近づいていくと……。
赤い髪をした、派手な女性が、ニィナさんと深刻そうな話をしている。
「どうしたの、ニィナちゃん?」
「あ、マーキュリーさん! 実はジャスミン様が、緊急の依頼を……」
その赤い髪の女性はジャスミンさんと言うらしい。
受付嬢ニィナさんの呼び方から、たぶんこのギルドの人間ではないんだろう。
「緊急の依頼って、何があったんですか?」
「実は……薬草をキロ単位で大量に欲しい、とのことで……」
「「え? 薬草を……?」」
ジャスミンさんは、背が高く、大人の色香を持つ女性だ。
だがその顔はこわばっていることから、よっぽどの事態があったのだと思われる。
「ニィナ君。どうにか都合つかないだろうか。薬草が100キロ……いや、それ以上あると助かるのだが……」
「無理無理無理ですよ。さすがに大手のうちでも、そんな薬草100キロなんてストックは……」
「今すぐに、人海戦術で採ってきてもらうことはできないだろうか?」
「ううーん……困りましたねえ……」
なるほど、どうやらこのジャスミンさんとやらは、大量の薬草が今すぐに必要らしい。
「あの、俺、ありますよ。薬草」
「「!?」」
俺は魔法バッグを置いて、中から、ついさっき取ってきたばかりの薬草をこんもりと出す。
薬草の山を見て、ジャスミンさんたちが驚愕の表情を浮かべた。
「なっ、なんですかこの大量の薬草はっっっっっ!?」
「すごい……少年! これを譲ってもらえないだろうか!」
俺はうなずく。
ジャスミンさんは九死に一生を得たように、安堵の息をついた。
「助かった……!」
「あの、薬草これだけでいいんですか?」
「なに……ま、まさか……もっとあるのか?」
「ええ、まあ」
俺は取ってきた薬草の山をドドンッ! と全部見せる。
「えぇええええええええええええええええええええええええええ!? 取り過ぎですよ! なんですかこれはぁあああああああああああああああ!?」
「ニィナちゃん、気持ちはわかるわ……わたしもさっき驚いたもの……」
ジャスミンさんが「信じられない……」と呆然とつぶやく。
「あれ、足りないですか? であればもっと取ってきますけど」
「い、いや! 十分だ! ありがとう……全部、我が商会が買い取らせてもらおう。通常レートの倍……いや、3倍はだそう!」
おお、薬草が腐らずにすみそうだ。
しかも三倍の値段だなんて、やったね。
「リーフさん、ありがとうございます! 助かりました!」
ニィナさんが笑顔でそういう。
俺に優しくしてくれた人が、感謝してくれるのがうれしかった。
「リーフ……?」
ジャスミンさんが俺を見て、何か驚いてるように目を丸くしていた。
「もしかして……君は、リーフ・ケミスト君……かい? デッドエンド村出身の?」
「あ、はい。あれ、なんでご存じなんでしょうか……?」
するとジャスミンさんは、まるで神様を地獄のふちで見つけたかのように、表情を明るくする。
がしっ! と俺の手を握って言う。
「リーフ少年! ワタシにどうか、力を貸してもらえないだろうか!」
★
俺がやってきたのは、マーキュリーさんの店、【彗星工房】。
作業台の上に、俺は薬草の山を載せる。
「えっと、依頼内容の確認なんですけど、【解毒ポーション】と【治癒ポーション】がいるんですね? 大量に」
「ああ。知り合いの部隊が、モンスターに襲われてしまい、大勢のけが人が出ているんだ。しかも厄介なことに毒をもってる相手でね。【ヒドラ】っていうんだが」
マーキュリーさんが目を剥いて「ひ、ヒドラぁ!?」と叫ぶ。
なんか有名なモンスターなんだろうか。
「ヒドラの毒はとても強力で、治癒術師たちだけでは治療・解毒が間に合わない。そこで我らの商会に、ポーションの手配を頼まれたのだ」
「なるほど……それで解毒と治癒のポーションがいるんですね」
「ああ、頼む。まだヒドラは倒されていない。いつ討伐できるかわからない状況だから、可能な限り多くのポーションを作ってもらいたい。すべて、うちが買い取ろう」
さっきの薬草のときといい、この人結構なお金持ちなのかな。
商会って言ってるし……どっかの商業ギルドのギルマス(※ギルドマスター)なのかもしれない。
「じゃ、始めます。ちょっと時間かかりますので」
俺は調剤スキルを駆使し、注文通りのもの……つまり、治癒と解毒ができる、ポーションを作成する。
「ひ、ヒドラって……やばいじゃないの……? 街の避難は?」
「余計な混乱を招かないようにまだ街の住民には秘密にされている。だがこれ以上進行されると……もう隠しきれないだろう」
「でもヒドラをうちで倒せる人なんて……」
よし!
「完成しました!」
「「はやっ!」」
作業台の上には、大量の【ポーション瓶】が置かれている。
これだけあれば十分だろう。
しかし、ジャスミンさんが首をかしげる。
「少年、ワタシは治癒と解毒、2種類のポーションを注文したはずだ。しかし、このテーブルの上にあるのは、同じ色の液体……1種類のポーションしかないと思われる」
「あ、はい。ですから、治癒と解毒、一気にできるやつを作ったんです」
「両方を一気に治す……だと……ありえない。そんなことが可能な薬なんて……一つしかない……」
するとマーキュリーさんが、慌てて俺の作った薬を手にとる。
「【鑑定】……って、えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!? うそぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
またも、マーキュリーさんが叫ぶ。
なんかこの人、叫んでばっかりだな。ストレスでもたまってるんだろうか?
「し、信じられないわ……! これを、こんな短時間で、しかも、この量を作るなんて……」
「マーキュリー女史、これは、一体なんなのだね……?」
マーキュリーさんが、俺の作った【それ】の名前を言う。
「完全回復薬よ!」
「なっ!? え、完全回復薬だってぇ……!?」
今度はジャスミンさんも驚いていた。
え、何をそんなびっくりしてるんだろうか?
「ば、ばかなっ! 完全回復薬が作れるはずがない!」
「え、作れますけど」
「だってあれには、世界樹の雫という、超超超レアアイテムが必要なのだぞ!?」
「え、要りませんけど? ねえ?」
マーキュリーさんがぶんぶんぶん! と首を振る。
あれ?
「完全回復薬の原料には世界樹の雫! こんなの常識でしょ!」
「いや、確かにそれを使っても作れますけど、世界樹が近くにないと出来ないですし。俺の生み出した製法なら、世界樹の雫無しで、薬草を使って、完全回復薬を量産できますけど……」
あれ、二人とも固まってしまった……。
「俺、なにかおかしなこと言いました……?」
するとマーキュリーさんがまたも、ぴくぴくとこめかみをひくつかせる。
あ、これ知ってる。
「なにかおかしなことを……? おかしなことしか言ってないのよっ! どこの世界に! 薬草で完全回復薬を作れる人がいるのよ!」
「え、ここにいますけど?」
「だからそういうことじゃなくてぇえええええええええんもぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
頭を抱えてもだえるマーキュリーさん。
「どうしたんですか、頭が痛いんですか? 完全回復薬飲みます?」
「ちょっと頭痛薬要ります? みたいなノリで、超レアアイテムを勧めてくるんじゃないわよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
マーキュリーさんが叫ぶ一方で、ジャスミンさんは俺の前で……跪いた。
「リーフ・ケミスト君……いいや、リーフ様」
「さ、さまって……いいですよ、リーフで」
いきなりどうしたんだろうか……?
かしこまっちゃって……。
「君は、すばらしい。まさに救いの神だ。ありがとう……これで大勢の人たちが救われる。ありがとう!」
何度も何度も、頭を下げてくるジャスミンさん。
うん、まあ良かった。
ただ、一つだけ訂正しておかないといけないな。
「いえ、困ってる人がいたら助けろって、師匠から言われてますし。でも……一ついいですか?」
「なんだい! 君のためなら何でもするよ!」
「あ、いや……してほしいんじゃなくて、間違いが一つあって」
え? とジャスミンさんが首をかしげる。
マーキュリーさんは何かを察したような目になる。
「俺……救いの神なんかじゃありません。ただの……辺境の薬師です」
ぽかんとするジャスミンさんをよそに……マーキュリーさんが突っ込む。
「いやだから! ただの薬師が! 完全回復薬を量産する秘密の製法を知ってるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」