14.薬草拾い(全自動)で驚愕される
元勇者パーティのメンバーだというウルガーさんを倒し、晴れて俺は冒険者になった。
受付嬢のニィナさんから軽く、冒険者について色々指導いただいたあと、最初の依頼に出発した。
「で、最初の依頼が……薬草拾いなのね」
俺と彗星の魔女マーキュリーさんは、王都郊外の森へやってきていた。
そう、最初の依頼は薬草を見つけてくる、というもの。
初心者はみんな、最初はこのクエストから始めるらしい。
「リーフ君のことだから、最初から古竜討伐みたいな、常識外れなこと言い出すんじゃないかって思ってたわ」
「そんなことするわけないじゃないですか。俺は、己の分をわきまえてますよ」
「分……って、それ英雄村での話でしょ?」
「はい。俺はあの村では最弱でしたからね!」
俺はデッドエンドっていう辺境の村の出身だ。
そこには魔女マーリンばーちゃんや、剣士アーサーじーちゃんなど、強い人がたくさんいた。
彼らと比べたら、俺なんてまだまだである。
しかしマーキュリーさんは疲れ切ったように息をついていう。
「あのね……だから、そのマーリンおばあさまも、アーサーおじいさまも、伝説の英雄なんだってば……」
マーキュリーさん曰く、あの村は引退したすごい英雄達の集まる、すごい村で通称【英雄村】という、らしい。
しかし説明されても、どうにも実感がわかない。別にマーキュリーさんの言葉を疑うわけじゃないんだが……。
じーちゃんばーちゃんたちは、俺が物心ついた頃から、ずっとそばにいたひとたちである。
確かに強いし、色々知ってる人達だけど、どうも近所のじじばばっていうふうにしか思えない。
長い間そばにいたからか、あるいは、彼らがこの世界に及ぼした影響を見たことがないからか……。
「ところで、なんでマーキュリーさんがついてきてるんです?」
ギルドで依頼をもらった後から今まで、マーキュリーさんが後ろから付いてきてるのだ。
彼女は大きくため息をついて説明する。
「うちはね、【バディ】ってシステムがあるのだ」
「バディ?」
「そ。相棒とか言う意味ね。ギルド天与の原石に入った初心者には、ベテランの冒険者がアドバイザーとして付くことになってるの」
「面倒を見る的な?」
「そう。無茶して危ないことしないように見張ったりとか、冒険のイロハを教えたりね」
なるほど……つまりは監視役と教育係ってことか。
しかし、良いシステムだな。
「これなら新人が無知故にやらかすみたいなこと、起きないですね」
「ええ……そうね……」
なんだかマーキュリーさんが、じとっとした目を俺に向けてくる。
なんだその目は?
「わたしは外部顧問みたいな立ち位置なんだけど……リーフ君の面倒を見れるのが、わたし以外いなさそうだったからね。しばらくは同行するからよろしく」
「なるほど! 迷惑かけないように頑張りますので、よろしくです!」
マーキュリーさんは引きつった笑みを浮かべながら「もうかかってるんだけどね……」と小さく何かをつぶやいていた。なんだろうか?
「さて、薬草拾いね。うちはどれだけ強くても、ランクはFからスタートだから、まあ妥当な仕事だとは思うけど……」
冒険者にはランクがある。
王都の冒険者は、試験でどれだけすごい成績をおさめても、最低ランクからスタートするらしい。
その後、ギルドへの貢献度に応じて、ランクがどんどんと上がっていくのだそうだ。
「リーフ君なら、薬草拾いなんて余裕よね」
「いやいや、薬草拾いって結構難しいですよ?」
「まあ、初心者ならね。普通の草と薬草を見分けるの難しいから」
え?
マーキュリーさん、何言ってるんだ?
「ただの草と薬草なんて、月とすっぽんくらい違うじゃないですか」
「いやそこまでじゃないでしょ……ベテランでも見分けられない人いるし、鑑定スキルがなかったら、わたしだって見分けるの難しい」
うーん、そんなに難しいだろうか。全然違うのに。
「とにかく、薬草とただの草との見分けは全く難しくないですよ。俺にとっては」
「へえそう。じゃ、お手並み拝見と行こうかしら」
どうやらマーキュリーさんはこれ以上口を挟まず、俺がどうやって薬草を採取するのか、見るに徹するらしい。
俺はうなずいて、右手を差し出す。
「来い」
と、一言。
すると……。
周囲一帯に、小さな緑色の光点が浮かぶ。
光の玉はふよふよと浮いていく。
光の点が次々と俺の足元にたまっていく。
やがて光が消えると、薬草の山がこんもりできていた。
「よし」
「よし、じゃ、ないわよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
うぉ、びっくりした。
となりで黙っていたマーキュリーさんが、急に叫ぶんだもの。
「どうしたんですか?」
「それはこっちのセリフよ! ええ! 今のなに!? 特殊スキル!?」
「いや、違います。薬草に呼び掛けたんです。来いって」
「呼びかけた……?」
「はい。俺、子供のころから薬草を採取し続けたんです。最初はただの草と見分けがつかなくて、そしたら師匠から、薬草の声に耳を傾けてみなさいってアドバイスされて……」
すると、俺はあるときから、薬草から、【声】が聞こえるようになったのだ。
「声ってあんた……それって幻聴じゃ……」
「いやでも、薬草と対話できるようになったら、薬草と一般の草、そして毒草を見分けることができるようになったんですよ」
そのあと、薬草と対話しまくった結果、こっちから呼びかけるだけで、薬草が採取できるようになった、というわけだ。
「ううん……もしかしたら、リーフ君は精霊と対話してたのかもね」
「精霊、ですか?」
「そう。この世界に存在する物質にはすべて、精霊が宿ってるといわれてるわ。風を起こすのは風の精霊、火は火の精霊みたいに。リーフ君の場合は草、つまり地の精霊と交信してたのかも」
「草なのに地の精霊なんですね」
「そうね、この世には精霊が、地水火風、闇光の6種しかないといわれてるから。植物の精霊なんて存在しないわ、絶対」
ううん、でも地の精霊って感じでもないんだよな。
大地に語り掛けても、答えてくれないし。
「高位の魔法使いは精霊と会話し、その力を得る。リーフ君もまた薬草に宿る精霊と交信することで力をかり、その結果、自動で薬草が、向こうから来たってところ……かもね」
「へー」
そんな理屈なんだな。知らなかった。
「って! なによこの山盛りの薬草!?」
俺の足元には、依然として薬草が、向こうからやってき続けている。
こんもりとした薬草の山が、いくつもできていた。
「え、ギルドに提出する用の薬草ですけど」
「こんなにいらないわよ!」
「でも依頼内容って、薬草をできるだけ採ってくるようにって」
あのねえ、とマーキュリーさんがあきれたように言う。
「普通ね、薬草と一般の草て見分けつけられないの。新人なら、1日で100グラムでもとってこれたら上等。こんな、キロ単位でとってくるのはおかしいの!」
「へー。みんなこんな作業に苦労するんですね」
「それ……ギルドで絶対言わないようにね。いらぬ争いの種を生みそうだから」
なんで怒るんだろうか……。
まじで簡単な作業なのに。薬草に耳を傾け、呼びかけるなんて楽勝なのに。
まあでも優しいマーキュリーさんがそういうなら、ギルドで言うのはやめておこう。
善意の忠告だろうし。無視はしたくない。
「わかりました」
「それがいいわ。って! まだ薬草が積まれてく!?」
薬草の山が次々とできていく。
「ほっとくとそこら辺にある薬草、全部勝手に集まってくるんですよね」
マーキュリーさんが恐る恐る、薬草の山に手を突っ込んで、鑑定スキルを発動。
「ええええええええええ!? や、薬草の品質が、S!? 超高品質な薬草じゃないの! なんで!?」
「さぁ……。ただ、手で摘むより、呼びかけて回収した方が品質がいいんですよね」
愕然としながら、マーキュリーさんがつぶやく。
「精霊がリーフ君に好かれようと、薬草の品質を上げてるのかしら……? だとしても、全自動薬草回収+品質超向上とか、異常にもほどがあるでしょ……」
「え、でも薬師ならこれくらい、当然できますよね?」
びきっ、とマーキュリーさんが額に血管を浮かべて……。
「できるわけねぇえええだろぉおよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
と全力で叫んだ。
この人いちいち驚くなぁ。
「薬師ってのは、基本、錬金術師の下位互換職なのよ! 薬材採取に補正、それと薬草からのポーション作成のみ!」
「えー? でも師匠はこれくらい普通に出来ましたよ?」
「だーかーーーらーーーーーーー! その師匠が、おかしいのよぉ……!」
え、そんな……。
「師匠はおかしな人じゃないですよ?」
「知らねえよ! 異常だって言ってんだよ!」
「心優しいいい人で、決して異常者なんかじゃないんですが……」
「人格を否定してるんじゃないのよ! 能力が異常だって言ってるの!」
「確かに師匠はすごいですけど」
「あんたもすごいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そうだろうか……?
でも師匠と比べたらすごくないし、村のじーちゃんばーちゃんたちは「もうええわ!」
マーキュリーさんがまたもつっこむ。
この全自動薬草採りおかしかったのかな……。
「え、じゃ、じゃあ……これもおかしいんですかね?」
「まだ何かするつもりなの……? もうつっこみ疲れたんですけど……」
俺はぐっ、と膝を曲げる。
両腕をぐっ、と曲げる。
「何する気なの?」
「薬草取り過ぎちゃったんで、生やそうかなって」
「は……?」
俺は膝を曲げた状態から、「ん~~~~~っしょっ!」と両手をあげて、飛び上がる。
すると……。
ボコッ!
「生えた!? 薬草が!?」
ボコボコッ!
ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコっ!
「よし」
「よしじゃねえええええええええええええええええええええええ!」
うぉ、びっくりした。
「何今の!?」
「採った分の薬草を戻しただけですけど?」
「薬草を戻すってなに!?」
「え、だから、薬草が生えてこいって、薬草に語りかけるんです。そしたら生える……え、生えますよね?」
マーキュリーさんが頭を押さえてしゃがみこんでしまった。
「あれ……俺、なにかやっちゃいました……?」
すると彼女がびきっ、と再び額に血管を浮かべて……。
「なにか? じゃねーよ! 全部! やりすぎ! なのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」