132.ギルマス脅す
リーフ・ケミストの保護者役である、魔女マーキュリー。
彼女はリーフ、そして新しいギルメンである少年、ローレンを連れて、冒険者ギルド天与の原石へとやってきた。
ここは王都にある、最高ランクの冒険者ギルド。
当然実力者が集まるし、依頼も多い。
賑わうギルドの中を、マーキュリーはずんずんと進んでいく。
受付へと向かうと、そこには黒髪の、背の高い少年がいた。
「……あ、ま、マーキュリー、さん。お久しぶり……です」
「こんにちはキルトくんギルマスいる? いるよね? 出せ」
「……は、はひぃい」
この気弱そうな少年、名前をキルト・インヴォークという。
受付嬢、ニィナ・インヴォークの兄であり、【とある秘密】を抱えているのだが……まあそれは本題には関係ない。
マーキュリーは一言言ってやりたかった。
ギルマスに。
キルトはうなずいて、いったん奥へ下がって戻ってきた。
「い。今は居ない……って、答えろと……」
「いるのね。わかった、直接乗り込むわ」
マーキュリーは少年二人を引きずりながら、2階ギルマスの部屋へとやってくる。
ばんっ! と扉を開く。
しかしギルマスのヘンリエッタの姿は無い。
「……いない」
「え、居ますよ?」
くんくん、とリーフが鼻を鳴らす。
彼は鋭い嗅覚を持っているのだ。
マーキュリーには知覚できないが、彼が言うなら、この部屋にヘンリエッタはいるはず。
「ゆけ、猟犬リーフ君! ギルマスを見つけ出すのよ!」
「わんわんっ!」
リーフはノリで犬のように吠えた後、「調剤!」とスキルを発動。
ふわ……と甘い香りが周囲に漂う。
「ふぎゃぁああああああああああああああああああああ!」
天井から何かが落ちてきた。
ヘンリエッタが、鼻を押さえて悶えていた。
「なんつーにおいじゃ! これはなんじゃ!」
「南国の花を使った香水です! 獣人にはちょっときついかも知れないですね」
「くそぅう……わしの完璧な隠蔽を見破るとは、さ、さすがリーフじゃなっ。見事な嗅覚じゃ!」
一方で、マーキュリーは額に怒りの血管を浮かべながら、小娘の頬を手で挟む。
「ふぁ、ふぁふぃ?」
「ギルマス、どういうことかしら? なんで、わたしがこの化け物2体の面倒を? ん?」
笑顔のマーキュリーからは、絶対許さないというすごみを感じた。
後ろでローレンおよびリーフがが「化け物? どこだ?」「どこだろうね?」とボケを噛ましていた。
ヘンリエッタはマーキュリーから離れて、椅子に座る。
「こ、こほんっ。マーキュリー。おぬしに依頼を」
「NO」
「まだ何も言ってないのじゃ!」
「この子らの面倒見ろってんでしょ? じょーーーーだんじゃないわ!」
だんだんだん! とマーキュリーが机を激しく叩いて抗議する。
「リーフくんひとりでどんだけ手を焼いてるって思ってるの!?」
「う、うむ……し、しかしのぉう。ほら、化け物を一匹手懐けていられるのじゃから、二匹も変わらないんじゃ……」
「ストレスで死ぬわ……! ああもう! リーフ君!」
わかってますよ、とばかりにリーフが近づいてきて、頭痛薬を渡す。
ごくごくと飲んで、マーキュリーがドスのきいた声で言う。
「……こっちはね、ただでさえ面倒ごと、増えてて大変なんだから」
「う、うむ……詐欺のやつじゃろ?」
今王都で、詐欺事件が横行してるのだ。
「そう。買ったのが贋作か本物か、見極めて欲しいって……次から次へ依頼がくるのよ!」
マーキュリーには鑑定眼がある。
そのため、偽物のアイテムや武器を簡単に見抜くことができるのだ。
「せ、盛況で何よりじゃな?」
「あ゛? ぞ?」
殺すぞ? って言いたいらしいマーキュリーに気圧される、ヘンリエッタ。
「とにかく、化け物二匹はむり! むりむりむり!」
「しかし他に面倒見てくれるものなどおるまいて……」
「エリアルとかいるでしょ。なんだったらギルマス……貴女でも? ねえ」
「い、いやわしは……ギルマスじゃし……」
「じゃあ面倒見てくれるひと探して。今すぐ、なう」
「わ、わかったのじゃ……ふぇええん……」
ふんす、とマーキュリーが鼻息を着く。
そこへ、リーフが潤んだ目で見上げながら言う。
「マーキュリーさん……俺……迷惑、ですか……? そばにいたら……」
「うぐ……」
正直おまえが一番迷惑かけてるよ、って言いたい。だがマーキュリーは、リーフに惚れている。
惚れた弱みで、リーフにはそう強く物が言えないのだ。
ツッコミは入れるけれども。拒むことはできない。
「め、迷惑じゃ無いから……ただ私ひとりじゃ手に余る、化け物だから君」
「そっかー! よかったー!」
化け物って言ったのに喜んでいるリーフ。
ほんと、変な子と思う一方で、笑ってる彼をかわいらしいって思う。
「は、話がついたぞい!」
どうやら通信用の魔道具を使っていただろう、ヘンリエッタが言う。
「プリシラ殿が手伝ってくれるそうじゃ!」
プリシラとは、グラハム公爵家の令嬢で、リーフがかつて助けた貴族娘である。
「そ。じゃ、いくわよ二人とも」
「はーい!」「うむ!」
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