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129.新たなる化け物



 リーフ・ケミストの秘めたる力のおかげで、王都での騒動が一段落してから、しばらく立ったある日のこと。

 ここは、旧ヴォツラーク領に隣接する、大森林【奈落の森(アビス・ウッド)】。


 古竜をはじめとした、強大な力を持つ魑魅魍魎が跋扈する森は……。

 今、驚くほどの静かであった。


 この森には今、恐ろしい【化け物】がいるからである。


「いち! に! いち! に!」


 ゆっさゆっさ、と何かが揺れている。

 それは奈落の森(アビス・ウッド)のなかにある、御神木とよばれるひときわ大きな木だ。


 岩山と見間違うほど立派な木。

 風に吹かれてもびくともしない大樹が……。


 ゆっさゆっさ、と揺れている。


「いち! に! いち! に!」


 巨大な木の根元に誰かがいた。

 赤銅色の髪の毛をした、小さな男の子である。


 その男の子が……持ち上げていたのだ。

 御神木を。


 そして、それであろうことか素振りをしていたのだ。


「いち! に! ふぅ……! うむ! 素振り、終わり!」

「これ、【ローレン】やい」


 少年を呼んだのは、奈落の森(アビス・ウッド)にほど近い村、デッドエンド村の村長……アーサーである。


「おお! アーサー殿!」


 ローレンと呼ばれた少年は、ぱぁ……と笑顔になると、ダッシュでアーサーの元へ向かい……。


「ぬぅうん!」


 そのまま強烈なボディブローを放つ。


「甘いわぁ!」


 だがその一撃をアーサーが受け止める。

 その余波で、奈落の森(アビス・ウッド)の木々が軽く吹っ飛んでいく。


「ぬぅうううん!」

「ふぐぅううう!」


 ふたりが押し合いへし合いすると、それだけで地面が陥没する。

 ばっ! とふたりは離れる。


 そして……。


「どっせい!」


 アーサーが腰を入れて、逆の手でローレンに一撃入れる。


 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ!


 吹き飛ばされたローレンは、森の木々をへし折りながら、森の外れまで飛ばされてしまった。


「っくはー! やはりアーサー殿はお強いなぁ!」


 これだけの大ダメージを受け、未だ無傷。

 ローレンという少年はかなり頑丈な身体をしているようだ。


 そこへ、縮地を使って、アーサーが一瞬で距離を詰めてくる。


「いやお見事よの、ローレン。腰の入った一撃なんて、久しく使っておらんでな。あいてててて……」


 アーサーが腰を触りながら顔をしかめる。


「だ、大丈夫か!? 死ぬのか!?」

「腰痛ごときで死なぬわい。いてて……ローレンよ、これをわしの腰に貼ってくれるかい?」


 アーサーは腰の魔法カバンから、湿布を取り出す。

 ローレンはうなずいて彼の腰に湿布を貼った。


 するとみるみるうちにアーサーの顔色が戻るではないか。


「ふぅ、やっぱりリーフちゃんの湿布は格別に効くねえ」

「リーフ! アーサー殿がよく話していた、ものすごい少年のことだな!」


 ものすごい少年といえば、ローレンもたいした物だ。

 偉大なる英雄、アーサー。

 

 彼は大昔、世界を悪しき神から救った過去がある。

 その後は世間には極力関わらないよう、デッドエンド村に引きこもっていた。


 彼が村長を務める村、通り名を【英雄村】という。

 引退した英雄たちの住まう憩いの村だ。


 強すぎる力の持ち主は、しかしこの世界にとって異物イレギュラーとなってしまう。

 ゆえに村からはでず、生活するという掟の下生活してるのだ。


 そんな村で育ったのが、リーフ・ケミスト。

 異次元の効果を発揮する薬を次々と作り、さらに規格外のパワーを持つ少年だ。


「おれも、会ってみたいな!」

「うむ、もうすぐ迎えがくると思うぞ。おお、ちょうどきたようだ。おおうい」


 馬車がこちらに向かってくる。

 アーサーたちの前に止まると、なかからは、銀髪の美しい女性が降りてきた。


「お久しぶりでございます、アーサー殿」


 ヘンリエッタ・エイジ。

 冒険者ギルド【天与てんよの原石】のギルドマスターだ。


「おお! ヘンリエッタちゃん! 久しぶりだなー!」


 ローレンは笑顔で、ヘンリエッタに気安く話しかける。

 まるで、知り合いかのような話しぶりだった。


 ひくひく……とヘンリエッタが口元をひくつかせながら、アーサーに言う。


「ろ、ローレン君を迎えに来ました。けど……そのままデッドエンド村に居着いてもらってもいいのですよ! ほ、ほら……彼もその、同類に囲まれていたほうが楽しいかなって!」


 ローレンをアーサーに預けたのは、このギルマスだ。

 彼女はとある事情があって、ローレンを育てることになったのだ。


 しかし、ローレンは見ての通りの化け物。

 自分の手には余る。


 そこで、同じく化け物揃いのデッドエンド村に、ヘンリエッタはローレンを預けることにしたのだ。

 ヘンリエッタの思惑としては、このままデッドエンド村に永住してもらって、自分が面倒を見ないですむようにしたかった。しかし……。


「おれは王都にいくぞ! 天与てんよの原石に、入りたいぞ!」


 ローレン少年は、天与てんよの原石、つまり王都へ行く気まんまんのようだ。

 ヘンリエッタが両手で顔を覆う。


「ま、わしとしてもこの子を預かるのにはやぶさかでもない」

「ほんとうですかっ?」

「しかし当の本人がこう言っておるからのぅ」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 終わった……とヘンリエッタがぐったりうなだれる。

 このローレンという少年は、デッドエンド村の村長に、その強さを認められるだけの男。


 つまりは……リーフ・ケミストと同じく、化け物だ。


「……ただでさえ、今のギルドには厄介な連中が多いというのに」


 彼女が言うところの、厄介な連中とは、Sランク冒険者たちのことだ。


 辺境の薬師、リーフ・ケミスト。

 規格外の召喚術士、黒銀こくぎん

 こないだ覚醒したSランク冒険者、エリアル。


 Sランクとは最高位の冒険者のこと。

 強い力を持つがゆえか、彼らにはとがった個性、そしてなにより常識外れのパワーを持っていた。


 そこに、デッドエンド村長が太鼓判を押す、異次元の力を持った……ローレンが加わる。


「わし……心労で倒れちゃうぅうううううううう!」


 ヘンリエッタがもだえる一方で、アーサーがにこやかに笑いながら、ローレンの頭をなでる。


「おぬしはわしらの仲間になれる資格を持つ。いつでも、村に帰ってきたよいのだぞ?」

「ありがとう! アーサー殿! でもおれは、彼に会ってみたいのだ!」


 ローレンが言うところの、彼とは。


「リーフ君に、会ってみたいんだ!」


 ……かくして、ヘンリエッタのギルド、【天与てんよの原石】に、また一人厄介な化け物が加わることなるのだった。


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