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126.神



 リーフ・ケミストと王都にて、戦いを繰り広げていた邪教徒。

 優勢かと思われたそのとき、リーフが突如として謎の言葉を発した。


 自分は、毎晩薬を飲んでいると。

 忘れてしまったら、とんでもないことが起きる、と。


 ……0時になった瞬間、邪教徒の意識は途絶えた。


「かは! はぁ……はぁ……はぁ……! こ、ここは……?」


 邪教徒は周囲を見渡す。

 そこは見覚のない、荒野だった。


「荒野……? 転移魔法か……? 強制的におれを、て、転移させたのか……?」


 さっきまで、王都にいたはずだ。

 美しい町並みが広がっていた。


 王都の周りには緑豊かな草原が広がっていたはず。

 しかし今は、周囲一帯に草一本も生えない、荒野があるだけ。


人外魔境スタンピードにでも、飛ばされたのか……?」


 この国にある秘境のひとつだ。

 草の一つも生えない、人の住めない土地だと聞く。


 そこへ飛ばされたのかと……思った。

 だが……違和感を覚えた。


「あのガキが、もし転移魔法を使えるんだったら、なぜ最初から使わなかった?」


 リーフ・ケミストは遅れて王都に到着した。

 転移が使えるのなら、それはありえない。


「な……は? はあああああああああ!?」


 そのとき、邪教徒は信じられない物を目の当たりにした。


 視界の端っこに、何かがあった。

 大きなオブジェクトだ。


 最初、岩山かと思った。

 だが違った。


「王都の……と、時計台……だ……」


 中央にあった時計台が、そこにはあった。

 ただし、ボロボロだった。


 ちょんと、つついただけで崩れ落ちて砂になった。


「ひぃい! な、なんだ……なにが起きてるんだ!?」


 邪教徒は尻餅をつく。

 そして自分の手を見て……驚いた。


「じゃ、邪神様のお力が……! 消えてる!?」


 彼はさっき、伝書鳩ピジョンからもらった邪神の肉片を食べた。

 これを食べたら最後、もう二度と人間には戻れないといわれていた。


 しかし今はどうだろう。

 彼の体は、元の人間の姿に戻っているのだ。


「なんだ、なんだよ、なんなんだよぉおお!?」


 砂と化した時計台。それを見て、ひとつの馬鹿馬鹿しい考えが浮かんだ。

 ここが別の場所では、ない。


 王都なんじゃないか……という考えだ。

 ……つまりだ。


 何ものかが王都を、この荒野に変えてしまったのだという可能性だ。

 誰が?


 そんなの、一人だけに決まってる……。

 あの、怪物フリークスに。


「……ん?」


 ふと、上空に何かがいるのに気づいた。

 空には満月があった。

 

 その影を背に、なにかが、空中に立っているのだ。


「な、そ、そ、そんな……その、姿は……ま、まさか……」


 邪教徒の目に映る、それを見て、彼は驚愕の表情を浮かべた。


「ば、ば、ばかな……それが……リーフ・ケミストの、正体だというのか……?」


 おそらく、通常の人間は今の彼の姿を視認できないだろう。

 しかし、邪教徒は見える。


 邪神の力を取り込んだから。

 そのおかげで、その力に対する耐性ができたから。


 ……空に浮かぶ、その黒いシルエット。

 まぎれもなく、彼が……信奉したものの、それ。


【それ】は、右手を前に差し出す。

 手の先からなにかがこぼれ落ちた。


 黒いシルエットからしたたり落ちた、美しい雫。

 ぴちょん……と乾いた大地に落ちた瞬間……。


 ずぉおおおお! と全てが元に戻った。

 全てとは、全てだ。


 なにもない荒野は、緑豊かな草原へ。

 崩れ落ちた王都の街は、元通りに。


 消え去った生命達は、一瞬で、すべて元通りになった。


「は、はは……あは、あはははははあ!」


 邪教徒はただ笑うしか無かった。


「なるほど! そういうことですか! これは、勝てるわけがありませぬ!」


 リーフ・ケミストの、本性。

 彼の隠していた、真実。


 それを目の当たりにした邪教徒は……何を思ったか、祈った。

 膝を突いて、手を組んで、頭を下げる。


 ふわり、とリーフ・ケミストが着地する。

 すっ、と手を伸ばし、邪教徒の頭に触れる。


「■■■■」


 リーフは、人間では聞き取れない言葉を発した。

 その瞬間、邪教徒は気を失った。


 ……そして、リーフ・ケミストの姿はまた人間へと戻る。


「はれ? ここは……?」


 きょとんとした顔で周囲を見渡す。

 夜の王都の街が広がっていた。


 みんなが寝ている。

 街も傷一つ無い。


 王都に混乱をもたらしていた、顔なしの化け物達はいっさいが消え去っている。

 ただ目の前には、さっきまでバトルを繰り広げていた邪教徒がいるだけ。


「うーん……ま、いっか!」


 ……リーフ・ケミスト。

 彼は薬によって、自分の力を制御してる。


 1日に1度、薬を飲まねば、真の力を解放する。

 全てを滅ぼし、全てを造る。


 まさしく、その姿は……。

 その、正体は……。


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