125.お薬の時間
リーフ・ケミストと相対する邪教徒。
彼は今邪神の力と同化することで、神に等しい力を手にれていた。
左手は、触れた物を別の物へ強制転換する。
すなわち、触れれば即死の一撃。
そして……。
「右手はこうだぁあああああああああああああ!」
彼が王都の建物に、触れる。
その瞬間どろり……と建物がとけた。
顔のない、ゲル状の存在へと変換される。
「どうだ! 右手で触れた物は、邪神様の化身となる! 無条件で!」
邪教徒が拳で地面を叩く。
するとリーフ・ケミストの立っている地面がゲル状へと変わる。
そのままズブリ……と体が沈みそうになる。
そこへ、邪教徒が接近して、左腕で殴りつける。
「!」
リーフは両腕で敵の攻撃をガード。
しかし左手で触れられたので、両腕が消え去る。
「腕が無ければ薬も作れまい!」
「【調剤】」
ばしゅ、と失った両腕が生えてきた。
彼の足下には、薬師の神杖が転がってる。
足で踏んで、神杖に充填されていた薬を自分に投与したのだ。
「なんて多彩な攻撃を繰り出すガキだ。だが、いつまで持つかな!」
彼の周囲の建物が、ゲル状に変わる。
襲い来る巨大顔なしの化け物。
リーフ・ケミストは地面を拳で砕き、穴を開けてそれを回避する。
地面を拳で砕いて、地上へと出る。
邪教徒の背後に回って拳を繰り出そうとする……。
だが……。
スカッ……!
「ひゃははあ! おれの体もゲルのように自在に変えられるんだよぉ! おらぁ!」
邪教徒が左腕を振りかざしてくる。
攻撃を両腕でガード。
追撃から逃れるためリーフは距離を取った。だが……。
びちゃっ!
「!?」
振り返ると顔なしの化け物が待ち構えていた。
触手で体をぐるぐる巻きにされる。
そして化け物は一瞬で、神威鉄に体質を変えた。
「ひゃはは! おわりだリーフぅ……! 貴様は神杖がなきゃ、自分に薬を投与できない。貴様の両腕はさっきのおれの攻撃で消滅してる……!」
両腕を失い、神杖も近くにない。
神杖も、腕もなければ、彼は薬を使うことができない。
「ひゃはは! しょせんは薬師! 薬がやばいだけで、てめえ自体はたいしたことねえ雑魚なんだよぉ!」
邪教徒がリーフに近づく。
「さんざんコケにしてくれたなぁ……てめえはいたぶって最後に、配下にかえてやる。この右腕でぇ」
にたにたと笑う邪教徒。
しかしリーフは、冷静だった。
「なんだ、そのツラは……?」
「ううん……もうすぐ、【薬の時間】だなぁって」
「ああ? 何言ってるんだてめえ……」
はぁ……とリーフはため息をつく。
「アスクレピオス師匠から、言われてたんだ。俺は、毎日、決まった時間に【薬】を飲みなさいって。でないと、大変なことになるからって」
「薬を……飲む?」
「うん。俺はね、ちょっと特殊体質なんだ。でも、薬を飲むことで、症状を抑えている」
時計台の針が、まもなく0時を告げようとしてる。
「俺は、0時になる前に薬を飲まないといけないんだ。でも、もう間に合わない。本当の……力が、解放されちゃう」
彼は、邪教徒に目を向ける。
それは……哀れみの目だった。
「ごめんね。【あの状態】になった【僕】は、自分を制御できないんだ」
0時を迎える。
時計の針が、重なる。
……その瞬間。
リーフの体から、すさまじい力の波動が発せられた。
……そして、王都は消滅した。
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