12.ギルド登録で魔力測定
マーリンばーちゃんのお孫さん、彗星の魔女マーキュリーさんの家に厄介になることになった。
その後、俺はマーキュリーさんに冒険者ギルドまで案内してもらった。
随分と立派な建物である。一瞬ここが噂の王城かと思ったけど、どうやらただのギルド会館らしい。すげえな王都。
「ここが王都冒険者ギルド、【天与の原石】よ」
「てんよの、げんせき? ギルドに名前なんてあるんですね」
「ええ。冒険者ギルドって言っても、かなりの数あるし。特に王都はね。ここはわたしの知り合いがギルマスやってるから、顔が利くのよ」
全く知り合いのいないギルドに行くよりは、知人の知人だろうと、知ってる人のところに入るほうが気が楽だ。
ここまで面倒見てくれるなんて、良い人だなぁマーキュリーさん。
「なに? その生暖かい目は」
「いや、優しいなぁって思いまして」
「……あなたに何かあったら、おばあさまに殺されるからよ」
おばあさまに、殺される?
マーリンばーちゃんが?
「何言ってるんですか、マーリンばーちゃんめちゃくちゃ優しいですよ。殺すなんてことしないですってば」
「……あなたはね、ばーちゃんに特別好かれてるのよ。男の子の子供が欲しいって昔から言ってたから、特に溺愛してるのよね」
「へえ……そうなんですね」
「そうなの。だから、わたしはここでしっかりあなたの面倒を見る義務があるんです。下手なことしてあなたに何かあったら、わたしが……」
がたがたぶるぶる、とマーキュリーさんが体を震わせている。
大げさな。あの人が怖い?
いっつもにこにこしてる、優しいおばあちゃんじゃないか。
まあたまに、虫が家の中に出るたび、家を木っ端微塵にしていたけども。
まあいつものことだしな。
「さ、いくわよリーフ君。まずはギルドに登録ね」
「はい! お願いします」
俺は冒険者ギルド、天与の原石の中に入る。
なかもかなり立派だった。
めちゃくちゃ広い、吹き抜けのホールが目の前にある。
手前は食堂、奥が受付カウンターという構成。二階に行く階段があって、これもまたしゃれている。くるんとらせんを描いているのだ。すごい。
中は結構にぎわっている。人間以外の種族も見られた。エルフとか獣人とか。
ほどなくして俺たちは、一番奥のカウンターまでやってきた。
「ニィナちゃん。久しぶり」
「マーキュリーさん! お久しぶりです!」
白髪のかわいらしいお姉さんが、こちらを見てニコッと笑う。
背が高くて、やさしそうなまなざしが特徴的だ。
使い魔なのか、肩の上に小さな竜を乗せている。
「先日は鑑定ありがとうございました」
「いーのいーの。困ったときはいつでも言ってね」
「はい!」
マーキュリーさんは俺を見て説明する。
「わたしもこの天与の原石のメンバーで、鑑定士をしているのよ」
「あ、なるほど、そういう関係なんですか」
彼女は冒険者がとってくるアイテムとか遺物を、鑑定しているらしい。
「あ、そうそう。彼、リーフ・ケミストくん。このギルドに登録したいらしいのよね」
「なるほど。では、書類に必要事項をご記入ください」
ニィナさんから渡された羊皮紙は、年齢や性別、所属、そして自分の職業を記入する、という簡単なものだった。
職業。つまり、この世界に生まれて、女神さまから与えられた能力のこと。
「できました。ニィナさん、ご確認ください」
「はいはい。んー……薬師? ここ、冒険者ギルドですけど?」
「え、あ、はい」
どうしたんだろうか。何か不都合でもあるんだろうか。
マーキュリーさんが息をついていう。
「ニィナ、この子ちょード田舎出身だから、一般常識が少々、かなり、めちゃくちゃ欠けてるの」
そんなに欠けてます?
ニィナさんからの説明によると、薬師の職業もちの人は、あまり冒険者になろうとしないらしい。
それよりは商業ギルドや錬金術師ギルドに所属するのだそうだ。
……違いが、わからん。
「リーフくん、ほんとに冒険者ギルドでいいの? 冒険者は傭兵みたいなことするし、戦闘系じゃない職業もちはきつい気がするけど」
この人は別に、俺を拒絶してるわけじゃないんだ。薬師はたしかに、戦闘力がない。だから入っても、埋もれていくだけだと、善意の忠告をしてくれているわけだ。
いろいろ面倒を見てくれるマーキュリーさんといい、俺は人に恵まれてるな。
「ご心配ありがとうございます。でも……俺は冒険者がいいんです。自由で、何にも縛られない生き方がいいんです」
「なるほど……まあ商業や錬金術師だと、どうしても権力者とのつながりが出てきますし……わかりました。余計な口出しすみません」
さて、とニィナさんが一息ついて言う。
「それでは、【適性試験】を行います」
「適性試験?」
マーキュリーさんがうなずいて答える。
「このギルド、すごい人気が高いのよ。だからものすごい数のギルド希望者がくる。その人達を全員面倒見れないから、適性でふるいにかけるのよ」
「そうなんですか……大丈夫かな……」
生まれてこの方、試験なんて受けたことなかったからな。
なんだろう……すごい不安になってきた。
「大丈夫ですよ。マーキュリーさんの推薦もありますし。それに試験と言っても魔力測定と戦闘力測定ですから」
「魔力……戦闘力……」
どうだろう、どっちも今まで正確には測ったことないんだよな。
「まずは魔力測定から行いますね。バイスちゃん」
ニィナさんの肩に乗っていた、使い魔の幼竜がうなずく。
げろ、と幼竜が口から水晶玉を吐き出した。
どうやら使い魔の腹の中にものを詰めておけるようだ。ストレージってスキル持ちなのだろう。
「これは魔力測定水晶。文字通り、ここに魔力を込めることで、体内に保有する魔力の量を測る水晶です。色によって量がわかります」
「なるほど……魔力を込めるって、大丈夫なんですか? 壊れないですか?」
見たところ、たんなるガラス玉っぽいし。
魔力なんて吹き込んだら壊れるんじゃないか?
「大丈夫ですよリーフさん。これは彗星の魔女マーキュリーさんが作った、特別な魔道具で、絶対に壊れない仕様になってますので」
「そうよリーフ君。絶対壊れないわ。見てなさい」
マーキュリーさんが水晶にぺたり、と触れる。
カッ……! と黄金色に輝きを放った。
「おお、きれいですね!」
「ふふん、でしょう? これがランクSの魔力保有量……。この王都でわたし以上に魔力を持ってるものはいないわ」
なるほど、最大値をたたき出したマーキュリーさんが魔力を込めても、壊れないのだ。
じゃあ水晶は俺が触っても、絶対壊れないな。
「じゃあ……測ります」
俺は水晶に手を触れ、そして……魔力を込める。
カッ……!
「!? 水晶が一瞬で黒く……」
「ま、マーキュリーさん? なんか水晶玉……ひびが入ってないですか!?」
「ま、まさか……ニィナちゃん見間違いでしょ……壊れるわけが」
びき……びきききききっ!
ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
……気づけば、水晶が大爆発を起こしていた。
「なんだなんだ!?」「爆発!?」「どこのどいつだ、魔法なんて使ったやつは!?」
天与の原石の冒険者さんたちが、俺に注目しだした。
そりゃそうだ。いきなり爆発をおこしたら……。
「あれ? でも……壊れないんじゃないんですか?」
「し、信じられません……鑑定水晶が壊れるなんて……前代未聞です!」
ニィナさんが戦慄する一方で、マーキュリーさんが俺に詰め寄る。
「どういうこと!? わたしよりも魔力量が多いだなんて! なにしたらそんなに魔力量が手に入るの!?」
「え、別に特別なことはしてないですけど……」
「嘘おっしゃい! 魔力量は生まれてすぐ決まってる。職業に魔力量は依存するといっていいわ。魔法職でもないあなたが、こんな馬鹿みたいな量の魔力を持つわけがない! 一体何食ったらそんなに魔力量が増えるの!?」
特別なことってしたことないんだが……。
あ。
「しいていえば、昔から魔物を食ってましたね」
「「ま、魔物を食うぅううううう!?」」
ニィナさんとマーキュリーさんが驚愕する。あれ? そんなに驚くことだろうか。
「俺、毒が効かない体質じゃないですか。だから絶対に腹下さないんですよ。で、ある日森の中で倒した魔物を食ったことがあって……それから確かに魔力が増えた気がしますね」
調剤スキルには、結構な魔力を必要とする。
その効能が高い薬ほど、作るのに魔力がかかるのだ。
幼い頃はすぐに魔力がつきてしまったけど、魔物を食らうようになってから、いくら調剤しても魔力が減らないようになったな。
「魔物を食らうなんて……そんなこと可能なの? 魔物には体内に魔素……人間にとっての毒が含まれてるのよ」
「はい。でもまあ毒無効なんで、魔物食っても平気なんです」
なるほど……とマーキュリーさんが戦慄の表情を浮かべながら、しかし納得いったようにうなずく。
「魔物は体内に魔素……魔力の源を持っているわ。それを食らうことはつまり、魔物の魔素を体内に取り込むと言うこと。それなら、この尋常じゃない魔力量も納得ができるわ……」
「で、でもマーキュリーさん。そんなこと、普通不可能ですよね?」
ニィナさんの言葉に、マーキュリーさんが神妙な顔つきでうなずく。
「絶対無理ね。そもそも魔物を食べた時点で、腹を下すどころか、下手したらその毒で死んでしまうもの。毒の効かないリーフ君だからこそできる芸当ね……」
「す、すごいです……」
ええと、結局魔力測定は、大丈夫だったんだろうか……?
「不合格、ですかね」
「「は? なんで……?」」
「だって、測定不能ってことは、はかれないって意味ではゼロと一緒じゃないですか? じゃあ適性ないのかなって……」
するとビキッ、とマーキュリーさんが、また額に血管を浮かべて叫ぶ。
「そんなわけないじゃないのよっ! どうしてそうなるのよ!」
「でも測定器ぶっ壊したの、前代未聞なんですよね? 前例がないんじゃ、雇ってくれないかも……」
マーキュリーさんが、その場にしゃがみこんで、はぁ~~~~~~っとため息をつく。
「……だめだこの子。英雄村の出身だから、完全に感覚が狂ってる。これは……しばらく一緒に居て見張ってあげないと、とんでもないこといつかやらかすわ……」
ニィナさんが引きつった笑みを浮かべながら、「だ、大丈夫ですよ!」と明るく話しかけてくる。
「リーフ君はすごい魔力量を持ってるんです! 適性ゼロなんてことにはなりませんよ!」
「おおっ、まじですか」
「たぶん!」
いや、多分なのかい。