119.本当の自分
リーフが王都で邪教徒と戦う一方。
地下ではSランク冒険者エリアル、魔王ヴァンデスデルカによる、魔女マーキュリー救出劇が繰り広げられていた。
肉壁で周囲を囲まれた空間。
数え切れないほどの顔なしの化け物どもが、壁から這い出ては、異物であるエリアルたちに襲いかかってくる。
「ふぅ……」
かつてのエリアルなら臆して逃げていただろう。
だが……今は、一歩前に足を出せる。
彼が、特効薬をくれたのだ。
硬い自分の頭を、古い価値観をぶち破るための薬。
もうエリアルは……迷わない。
この姿が、本当の自分なのだ。
「まずはマーキュリーを助けますわ……! デルカさん、魔法でめちゃくちゃに爆撃し、少しでいいので敵を引きつけて!」
「りょ、りょうかいっす!」
魔王は手を広げて両手から爆撃の魔法を繰り出す。
化け物の気がそちらに向いた、一瞬だ。
本当の、一瞬。
マーキュリーが瞬きした次の瞬間、彼女の周りにいた化け物達は消え、さらに肉壁から救け出されていたのだ。
「な!? え、エリアル……あなた、今なにしたの!?」
「飛んだ、だけですわ」
「飛んだ……? 跳んだじゃなくて……?」
ばち、ばち……! とエリアルの背中で、何かが爆ぜている。
「雷の……翅?」
虫の翅がエリアルの背中から生えている。
それが彼女に力を与えている……ように見えた。
「魔法?」
「いいえ、スキルですわ」
「新しいスキルを、開花させたってこと!?」
たしかにスキルが新しく芽生えるという事例は、ある。
しかしスキル習得には長い修練が必要とされる。
一日二日では、無理だ。
しかし彼女の努力は一朝一夕ではない。
今までエリアルは影の努力を続けてきた。
けれど努力を続けてもスキルは発現しなかった。
それは彼女が、自分の力を信じきれなかったからだ。
自信。
彼女は自信のなさを、男装することで隠していた。
自分は女だから、弱い。
弱い自分を隠すための、男装。
そんなふうに自分の弱さから逃げていたせいで、彼女は自分の持つ力の本質に気づけなかったのだ。
発現する土壌はあったのだ。
足りなかったのは、自信だけ。
それを与えたのは、リーフの言葉と、そして特効薬。
「【疾風迅雷】……それが、わたくしの本当の力。この早さ……この姿こそが、わたくしの本質!」
ばちばちと雷の翅をはやして、空を舞う。
大変目立つ格好だ。
すごい早さで跳ぶせいで、摩擦の熱で服が黒焦げになってしまう。
その結果肌をさらすことになる。
前の自分ではできなかった。
しかし今はできる。
「人に見られる……こんな恥ずかしい姿を……! ああ! なんて、気持ちいいのでしょう!」
「ちょっとリーフ君! エリアルに変な薬飲ませたんじゃあないでしょうね!?」
「ええ、飲みましたわ!」
「ほらぁもおぉおおおお! 帰ったらお説教だからねぇええええええええええ!」
帰ったら、お礼を言おう。
熱い抱擁とともに。
この姿なら、自分は仲間を守れる。
そのきっかけをくれた彼に、最大の感謝を。
【★☆新連載スタート!】
先日の短編が好評のため、新連載はじめました!
タイトルは――
『伝説の鍛冶師は無自覚に伝説を作りまくる~弟に婚約者と店を奪われた俺、技を磨く旅に出る。実は副業で勇者の聖剣や町の結界をメンテする仕事も楽々こなしてたと、今更気づいて土下座されても戻りません』
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