115.化け物は無双する
リーフ・ケミストが王都へ到着し、街にあふれる化け物たちを相手取る。
「タイちゃん! ゴー!」
『承知した!』
ベヒモスに騎乗したリーフ・ケミスト。
彼は懐からナイフを取り出す。
それは彼のスキルを付与できる、特殊なナイフ……薬神の宝刀だ。
「【調剤:特効薬】……付与!」
タイちゃんが風のように走り抜ける。
襲い来る顔無しの化け物達。
体を鞭のように変化させ、目にもとまらぬ早さでリーフに襲いかかる。
けれどタイちゃんはその動きを凌駕する速度で、回避し……。
「せやあ……!」
リーフは特効薬付与のナイフを振る。
ナイフが顔無しのばけものをかすめる。
かすめただけで、化け物はボロボロと体が崩れ落ちていく。
エリアルの攻撃は、急所を切断しないと倒せなかった。
リーフの作ったばかりの薬は、たとえ少量だろうと化け物達には猛毒たりえる。(時間が経つと薬は劣化する)
タイちゃんという機動力に加えて、リーフの作る桁外れの特効薬。
みるみるうちに、王都民に偽装していた化け物達の数が減っていく。
……その様子を高台から気配を消して見ているのは、邪教徒の男。
「ふざけるなふざけるなふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
目の前の理不尽な暴力の嵐を前に、ただ、彼は子供のように当たり散らすしかなかった。
「なんだあれは!? 邪神様の分身体を、まるでスライムのように容易くたおすなんて! おかしい! なんだ、なんなのだあいつは……!?」
そのとき伝書鳩の言葉を思い出す。
『あのギルドには、化け物がいます。油断なさらないよう』
そうはいっても、人間の尺度で測った化け物だと思っていた。
古竜とか、その程度かと。
しかし……違った。
リーフ・ケミスト。やつは、邪神すら滅ぼす力を持つ……。
「我らの、天敵……!」
このままでは無為に顔無しの数を減らされてしまう。
「そうはさせるか!」
邪教徒は命令を出す。彼が王都の外に待機させていた、顔無しへの伝令。
それはモンスターの大群を率いて、この王都を襲撃しろ、というもの。
「眠ってる王都民すべてをまもりながら、邪神さまの分身を相手にできるかなぁ!?」
一方、タイちゃんはピタリとその場に立ち止まり、耳をそば立てる。
「どうしたの、タイちゃん?」
「離れた場所から、大量のモンスターの足音がする。おそらくは敵だ。しかもかなりの数!」
リーフに鋭い嗅覚があるように、タイちゃんにも鋭敏な耳がある。
地面を伝ってやってくる足音を聴き取ったのだ。
「タイちゃん、そっちはお願い。俺は残りの雑魚を片付ける」
『承知した!』
たんっ、とタイちゃんは地面を蹴り空をかける。
邪教徒は「しめた!」と邪悪に笑った。
ひとりになった。今が、チャンスだと思い、邪教徒は力を発動させるのだった。