114.理解不能な化け物(※化け物視点でも)
リーフ・ケミストが王都へとやってきた。
その様子は、高台にいる邪教徒も見ていた。
「なんだ……? あのガキは……?」
上空には、赤い獣に騎乗する黒髪の少年の姿があった。
地面をぶち破って出てきたあたり、パワーは強そうである。
「はんっ! いくら力が強かろうが関係ない! 邪神様より授かりし力! 顔無しどもにはいかなる攻撃も通用しないからな!」
邪教徒には精神的な余裕があった。
顔無しには打撃も斬撃も、魔法すら効かない。
まさに無敵の存在だ。
「あんな弱っちそうなガキがひとり出てきたところで、何にも意味は無いね! がははは!」
……と、邪教徒が笑っていられてのもここまでだった。
リーフは杖を掲げると、王都中に緑の光を振りまく。
光は一瞬で王都を包み込むと……。
どざり、と王都民たちだけが倒れたのだ。
「ん? なんだあのガキ、なにしやがった……? まさか、顔無しに攻撃を……?」
邪教徒と顔無しの化け物たちとは、感覚を共有している。
倒れたなら痛みやそのほかの感覚が伝わってくるはずだ。
それがない。ということは……。
「なんだあのガキ? 顔無し以外を眠らせやがったのか……? 器用なマネをする……。しかし、なんのために?」
敵を明確にするためにだと、邪教徒の思考はそこまで届かなかった。
リーフは地上へ降りる。
起きてる顔無しの化け物に対して、杖先を向けた。
「【調剤:特効薬】!」
「ちょうざい……薬だぁ……? いったい何を言ってるんだ……? 薬なんぞが邪神様に、効くわけないだろバーカ!」
そのときである。
……邪教徒は、愕然とした。
彼は高台からリーフを見張っている。
リーフが杖を向けられた顔無しは……。
ドロドロと溶けたのだ。
「…………」
最初、何が起きてるのか、頭が処理しきれなかった。
顔無しが形を変えたのだと思った。
しかし溶けて、水たまりとなった顔無しが、いくら待っても復活しない。
「え……? う、うそ? うそうそうそ!?」
いくら目をこらしても顔無しが復活することはない。
つまり……。
つまり……?
「え、なに? やられ……た? 無敵の、邪神様の力が……?」
やっと邪教徒は状況を把握した。
原理はわからない。でも事実として、邪神の分身ともいえる顔無しが、やられたのだ。
あらゆるものに化けることができて、どんな攻撃も効かない、恐るべき殺人兵器が……。
あっさりと、負けたのだ。
「はぁああああああああ!?どういうこと!? 何が起きてるのだぁああああああああ!?」