113.あなたに狙いを決めて
俺、リーフは暴動が起きるらしい王都へ向かって急行していた。
『まずいのである。王都に全然近づかないのである、主よ!』
俺が乗っているのはベヒモスのタイちゃん(足がジェットになってる)。
しかし俺たちの居る通路が、顔無しの化け物になってる。そのせいか変幻自在に形を変えて、かなりのタイムロスを喰らっていた。
「こうなったら強行突破だ! タイちゃんストップ!」
俺は胸からぶら下げてる首飾りに……。
「装填!」
魔法カバンの中身を充填する。
この胸飾りは、天目薬壺といって、薬を作るスピードをめちゃくちゃ速めてくれる。
「【調剤】!」
薬壺のなかに薬が完成。
薬師の神杖を取り出して、それを投与する。
杖の先端を頭上に向けると……。
ちゅどどどどどどどどどどどどどどおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
『!? れ、連鎖的な爆発が起きてるのである! 主よ、これは一体!』
「爆薬だよ! 普通の!」
『いや普通の爆薬で、迷宮の破壊不可能な壁を壊すことはできないのであるー!』
「できる!」
できるから、できるんだ!
酸素と結合し連鎖的に爆発し、しかも指向性を持たすことができる。
迷宮の硬いらしい壁も床も粉砕しながら、地上へ一直線の道が完成する。
「タイちゃんれっつごー!」
『ああもう! 主はやはり、規格外であるな!』
「それってどういうこと?」
『相も変わらず化けものじみてるということだっ!』
まあ化け物はうちの村の(以下略)。
タイちゃんジェットは垂直方向に凄い早さですっ飛ぶ。
ダメ押しに、さっきつくった火薬をタイちゃんにも投与した。
その結果、通常の何十倍もの早さで飛び……。
ちゅどおぉおおおおおおおおおおん!
「地上だぁああああああああああああああああああああああああ!」
タイちゃんが王都上空へ到着する。
『吾輩がベヒモスで無かったら、体がバラバラになっていたところだぞ!?』
「ありがとう! 頑丈で!」
『危ないから使っちゃ駄目って意味であるからな!?』
さて、俺はタイちゃんの背中の上から、周りを見渡す。
地上ではギルマスのヘンリエッタさんが言ってたとおり、暴動が起きていた。
あちこちで、ケンカしてる人たちがいる。
「血のにおいだ……でも死人はでてない。よかった」
『わかるのであるか?』
「うん。死んだ人は、細胞が徐々に腐っていくから、その腐敗の匂いでわかるんだ」
『なるほど……しかし、死者は出てなくても、この乱痴気騒ぎを収束させるのは、なかなか骨が折れそうであるな』
どこを見渡してもケンカしてる。
みんなから憎しみの匂いがした。
たぶん、顔無しの化け物が周りに迷惑をかけているのだ。
「王都には顔無しが変装した人間と、普通の人間。その二種類がいる」
『ケンカが殺し合いに発展しないのは、天与の原石のメンツが頑張ってとめているからであろうな』
現状はだいたい把握した。あとはこの事件を収束させるだけだ。
よかった、思ったよりも酷いことになっていなくって。
『主よ、どうする? 広域に顔無しへの特効薬を投与するか?』
「ううん、それはさすがに材料がなくなっちゃうよ」
顔なしへの特効薬は、1個作るのに結構時間がかかるうえ、材料に特殊な物を多く含まれている。
王都民全員に投与するだけの量はない。
『ならばどうする?』
「特効薬は全員分作れなくても、それ以外の薬なら、いける! 【調剤:睡眠薬(改)】!」
俺は緑の精霊(※自然界に存在する、植物などに含まれる精霊)を変りて、王都中に睡眠薬を投与した。
『眠り薬など投与してどうなるのだ? 顔無しには効かぬぞ?』
「そう……でも、効かないのがいいんじゃないか」
王都民たちがその場に倒れて、ぐーぐーと寝息を立て出す。
でも……その中には、起きている人たちもいる!
『なるほど! あの睡眠薬は人間用の。顔無しにはきかない。つまり、起きてるやつが顔無しの化け物ということだな! やるな主よ! さすがだ!』
俺の鼻でひとりひとり嗅ぎ分けるようり、こうして効能で分別したほうが効率が良い。
「敵はこれでハッキリした……さ! 治療の時間だよ!」