109.羽化
リーフ・ケミストと分かれて、マーキュリー救出へと向かう、Sランク冒険者のエリアル。
そして、魔王ヴァンデスデルカ。
「先輩、大丈夫っすか。顔色わるいっすけど……」
ヴァンデスデルカの先導でダンジョンを下っていく。
後ろをついて行くエリアルの表情は硬い。
「大丈夫だ……私は、私なら……できる……」
鍛えても結局肉壁(顔無しの化け物)にやられて、自信を消失してるエリアル。
だが、彼女は友であるマーキュリーを助けたい一心で、己を鼓舞してここまできた……のだが。
正直まだちょっと、スランプから抜け出せないでいた。
「! 先輩、敵っす!」
「顔無しの化け物……」
村人に変身した化け物達。
だが変身が不完全なのか、のっぺらぼうのようになっている。
「結界!」
魔王が結界を発動させる。顔なしの化け物が行く手を阻まれてうろちょろしている。
「リーフ先輩からもらった袋の中に、こいつらに効く薬入ってるらしいっす!」
「…………」
彼から渡されていたのは、小さな袋だった。
小型の、魔法カバンのようである。
その中に手を突っ込むと、1本の薬瓶が入っていた。
【元気が出る薬】
「元気……」
今自分は、敗北の苦い思い出によって、戦う気力をかなり削られている。
戦う元気が、ほしい。
瓶にはラベルが貼られてる。そこに、リーフの書いた文字が並んでいた。
『これを飲めば悩みなんて吹っ飛びます!』
「…………」
あの化け物が作った薬だ。正直、飲むのは躊躇われた。
しかし、好きな子からもらったプレゼント。むげにはできない……。
「防壁魔法も限界っすよ!」
「……リーフくん。力……借りるよ」
彼女はリーフの作った元気の出る薬を飲む。
体が、かあぁ……と熱くなる。なんだか気分が良くなってきた……。
「ふ、」
「ふ?」
「ふ、ふひひ、おーーーーーーーーーーーーーーーーーほっほっほぉおおお!」
急に気分が大きくなってきた。なんだかよくわからないが、何でもできる気がした。
「せ、先輩どうしたんすか?」
「先輩~? なにそれぇ」
据わった目で、ヴァンデスデルカをにらみつける。
顔が少し赤く、目が潤み、口からは少しの酒の匂いが……。
「酒?」
リーフがわたしたのは、蜂蜜と、ちょっぴりのアルコールが入ったドリンクだ。
体を温かくする効果がある。内部から体を温めれば元気が出るから……という狙いだったのだが。
「私は……王様よぉ!」
……このエリアルという女。
実は、とんでもない……酒乱だった。
「女王様とお呼びなさい!!!!」
エリアルは、折れてしまった剣のかわりに、予備で持ってきていた短剣を取り出す。
「ちょ、そんなちっこい刃じゃ相手を……」
「おだまりなさい……! 女王に命令するんじゃあないわよぉおおおお!」
ぐっ、と体を縮めると……。
エリアルは今までとは桁外れの早さで動く。
「なんてしなやかな動き……!」
元々エリアルは柔軟な関節と、柔らかい筋肉を持っていた。
しかしその持ち味をいかさず、力だけで剣を振り下ろしていた。
その戦いでは自分の素質を十分にいかせていなかった。
だが、今は腕をしならせ、鞭のように短剣を振る。
すぱんっ! と顔なしの化け物の首を一刀両断した。
ボロボロ……と崩れていく化け物。
「す、すげえ……なんつー高速斬撃……」
「おほほほ~! たーのしですわぁあああああああああああああ!」
すっぱんすっぱん、とエリアルが敵をこなみじんにしていく。
刃にはリーフの渡した、対化け物用の薬が塗布されている。
敵は自分の体の材質を変化させられる。硬くしているはずなのだが、それをエリアルは容易く斬った。
エリアル、酒で酔って無駄な力が抜け、思考が単純になったことで……覚醒する。
リーフのもたらした、元気の出る薬によって。
彼女は……羽化したのだ。
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