107.潜り込むスパイ
リーフ・ケミストが王都へ向かう一方、
冒険者ギルド、天与の原石。
ギルド会館に、ギルメン達が集められている。
みな、ギルドマスターであるヘンリエッタの言葉に耳を傾けていた。
「みな、今宵、王都を危機が襲う。よくきいてくれ」
集まったギルメンは総員50名。
元々天与の原石は少数精鋭だ。さらに外部に出張中の冒険者もいる。
ヘンリエッタは集まった50人に概要を説明する。
顔無しの化け物が王都を襲うこと。
敵には変身能力があること。
「変身能力だって……?」「そんな……」「じゃあ、ここに居る連中も、仲間かどうか保証できないわけか……」
ざわ……と周囲がざわつく。
だがそんななかでヘンリエッタは、ギルメン達を安心させるように言う。
「今、リーフがこっちへ向かってきておる。あやつは変身者が化け物か、そうでないかを見分けられるし、さらに化け物への特効薬を持っている」
おお……! とギルメン達が歓声を上げるとともに、その瞳に希望の光がともる。
「だがリーフが来るまでには時間がかかる。それまで我らが、踏ん張るのじゃ」
「でも……ギルマス」
受付嬢のニィナが不安そうな顔で、手を上げる。
「私たちに見分ける力は無いですよね? 仲間同士で疑心暗鬼になるんじゃあ……」
「うむ……ニィナの言うとおりじゃ。そこで、わしは対策を考えた」
「対策?」
ヘンリエッタは左手を持ち上げる。
そして、手の甲に、朱で×印をつけていた。
「このように、手に印をつける。そしてこの上から包帯を巻くのじゃ」
くるくる、とヘンリエッタが包帯を巻いて、手の甲を隠す。
「味方と夜道で再会したときは、この印を見せ合うのじゃ。印があるやつは仲間、ないやつは敵……じゃ」
「なるほど……! さすがギルマス」
相手は変身能力がある。だが、こういう取り決めがあったことまでは知らない。
つまり、味方の印がないやつが、敵と言うことだ。
「わはは! わし天才! わしの策に穴は……ない! 絶対! なぜならわしはあの伝説のギルマス、アクト・エイジの娘なのじゃからなー!」
と、調子に乗るヘンリエッタ。
「ともあれ、みな用心するように。わかったかの?」
「「「はい!」」」
「うむ。では二人一組を作り、王都を警備するのじゃ!」
うなずいて、ギルメン達はペアを作り出す。
ヘンリエッタは安堵の息をつく。
「ギルマス。黒銀さんは……こないのですか?」
ニィナが言うところの、【黒銀】とは、このギルドに所属するSランク冒険者のひとりだ。
かなりの手練れであり、いればかなり心強い。
「残念じゃが、あやつは今日はこれん。海外任務中じゃ」
「へえ……そう」
ニィナが、にやぁ……と邪悪に笑う。
ハッ……! とヘンリエッタが気づいたときには……遅かった。
しゅる、と凄まじい早さでニィナの腕が蛇のように伸びる。
「しま……!」
ヘンリエッタの口を、ニィナの腕が塞ぐ。
呼吸ができなくなり、ヘンリエッタが気絶する。
「あれ? ニィナさん。ギルマスどうしたんすか?」
近くに居た、エリアルの弟がニィナに尋ねてきた。
「ギルマス、ちょっと疲れてるみたいなの。少し休むって。さ、いきましょう」
ニィナがヘンリエッタに肩を貸して、2階へと上る。
左手の甲に、×印。なるほど、確かに相手がそれを知らなかったら有効だったかも知れない。
「相手が知らなかったら……ね」
ニィナの顔がぐにゃりと変わり、ヘンリエッタの姿になったのだった。
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