105.二つの危機
【★おしらせ】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
俺、リーフ・ケミストは顔なしの化け物の本拠地にやってきた。
落ち込んでいたSランク冒険者の、エリアルさんを慰めた後。
タイちゃんが、何か来ると忠告してきた。
俺は彼女に連れられて、少し広い場所に出てきた。そこには……。
「「ぎゃおぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
「二体の……ドラゴン?」
まったく同じ見た目の、巨大なドラゴン同士が争っていた。
鏡写しのようである。
「どういう状況だったの、タイちゃん?」
「うむ。一匹の竜が吾輩に気づいて近づこうとしたところに、顔なしの化け物がこのドラゴンに変化し、邪魔をしたのだ」
つまり、どちらか一匹が、このドラゴンに変身した偽物ってわけか。
ドラゴンの正体はわからない。でも、悪意の匂いは感じない。
「どちらが顔なしの化け物……」
「そーーーーーい!」
俺は顔無しの化け物に効果抜群の薬を作って、片側に向かって投げる。
瓶が壁にぶつかって割れると、中身がぶちまけられる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアス!」
「あ、うん。君は匂いでわかるんだっけね……」
エリアルさんが達観したような顔で言う。
俺は嗅覚が鋭いらしい。顔無しの化け物は、匂いがまったくしないのだ。だから、どっちが化けてようとすぐにわかるのである。
片側はみるみるうちにしおれていき、水たまりになって消えた。
もう片方のでかいドラゴンは、ぽんっ、と音を立てると……。
「あれ、君たしか……ニィナさんのペットのドラゴンじゃん!」
俺の所属するギルド、【天与の原石】。そこの受付嬢のニィナさんの肩に乗ってる、幼い竜だった。
竜は近づいてきて、俺の手のひらの上に乗る。
かぱっ、と口を開く。
『リーフよ! 良かった、つながったのじゃ!』
「え、ヘンリエッタさん?」
俺たちのギルマス、ヘンリエッタさんからの声が、この手乗り竜から聞こえてきたのだ。
『分けあって王都をでれぬでな。ニィナのサーヴァントであるこのヴァイスに行かせたのじゃ』
サーヴァント。使い魔って意味だろう。
なるほど、とエリアルさんがうなずく。
「サーヴァントなら五感が共有されてる。遠くに居ても会話ができるってわけですね、ギルマス」
『そのとおりじゃエリアル。聞け、二人とも。王都が、大変な事態になろうとしてる』
「!? 王都が……? 大変な事態に……ですって!」
驚くエリアルさん。俺は、それより【なろうとしてる】っていう言い方がきになった。
「現状やばいってわけじゃないんですか?」
『うむ。近い未来の映像が、わしに見えたのじゃ』
「未来の、映像?」
なんのことだ……?
エリアルさんが補足する。
「ギルマスの目には、近くの未来を見通す力があるんだ」
「へえ! 未来視ですか!」
『ふふん、すごかろう?』
「いや、田舎のばあちゃんたちも使えてたんで、懐かしいなって」
『未来を見れるババアの村なんてあってたまるか!』
あるんだけどなぁ。
まあ、それはさておき。
「大変なことって何が起きるんですか?」
『王都で住民たちが暴徒となって、集団で暴れる事件が起きるようじゃ』
王都の人たちが、そんなことをするとは思えない。
エリアルさんも同意見らしく、うなずく。
「それって、顔無しの化け物の仕業ではないでしょうか?」
『む? どういうことじゃ』
エリアルさんが俺たちが見た者を伝える。
なるほど、とギルマスは得心いったように言う。
『わしのとこにもきたぞ。変身の力を持った化け物が』
「! そう、だったんです」
『うむ……エリアルよ。これでわかった。おそらくはその変身能力を持った化け物が、王都民と入れ替わり、王都で暴動を起こすのだろう』
だから、王都で暴動が起きる未来が見えたんだ。
『人手が居る。すぐに戻ってこれるかの?』
「いえ……今はその化け物のアジトに潜入中です」
『なんと。ううむ……困ったのじゃ』
と、そのときである。
「はあ! はあ! た、助けてくれぇ!」
俺たちの居る部屋に、見知った顔が走ってくるではないか。
あれは……。
「デルカさん!」
つい最近仲間になって、マーキュリーさんの家で一緒に住むことになった、ギルメンのデルカさんだ。
彼女は大汗をかきながら言う。
「大変っす! マーキュリーさんが、捕まっちまったっす!」
「! どういうこと!?」
俺は思わずデルカさんの肩を掴んで揺する。
「デルカさん! マーキュリーさんが捕まったって!? てゆーか何で君ここに!?」
「お、おちついてリーフ君」
はっ! そ、そうだ。常に冷静にならないと。
助けられる命も助けられないって、じーちゃんが言っていた。
俺は完全回復薬を飲んで気を落ち着ける。「いや超レアアイテムを、そんな気付け薬みたいに飲むのはどうかと……」とタイちゃんがなんか言っていたけどどうでもいい。
「実は……」
デルカさんからの報告を聞いた。どうやら王都の廃墟から、この地下空間へとやってきたらしい。
そこで迫り来る肉壁に捕まってしまった、と。
「君はどうして無事だったの?」
「……マーキュリーさんが、逃がしてくれたんす。身を挺して」
「そんな……」
人を助けるために、自分を犠牲にしたのか。
優しいあの人らしいけど……くそ!
「マーキュリーさんを助けて欲しいっす!」
「しかし、地上では、暴動がもうすぐ起きてしまうぞ」
……冷静になれ。
ここが、分かれ道だ。
マーキュリーさんも、助けないといけない。
でも地上の人たちも、助けないと。
どうする、どっちに行けば……。いや、答えは決まってる。
「エリアルさん」
俺は、ばっと頭を下げる。
「マーキュリーさんを、お願いします!」
「! いいのかい……マーキュリーは、君にとっての……大切な人だろう?」
そうだ。大切な人だ。でも。
「地上にあふれた大量の化け物どもを倒すには、俺の作る薬がたくさんいります。また、見分けられる鼻も」
『なるほど……どちらもリーフ・ケミストにしかない特殊な技能じゃ。一方、マーキュリーを救出するだけなら、特殊技能はいらない』
無論戦闘にはなるだろうけど……。
「しかし、私では……」
「大丈夫、エリアルさんは、大丈夫です!」
この人は、強いから。
「俺と同じSランク。どんな困難でも、乗り越えられるくらいの強さはあるから!」
「リーフ君……」
「ね!」
俺は知ってる。彼女は悩んでいたけど、強いって!
彼女は、ぐっ、と涙をこらえるような表情になる。
だが、ぐいっ、と目元をふく。
「ああ! マーキュリーは、私に任せてくれ!」
「お願いします! タイちゃんと俺は、地上へ向かいます」
デルカさんはエリアルさんと一緒に、マーキュリーさん救出へ。
「エリアルさん。これを」
俺は、魔法カバンから、小さな箱を取り出す。
「これは?」
「きっと、役に立ちます。持ってってください」
「……わかった。ありがとう」
役割分担は決まった。俺、タイちゃんは地上へ。
デルカさん、エリアルさんは、地下にとらわれてるマーキュリーさんのもとへ。
『では、行動開始じゃ!』
「「「応!」」」
【★新作の短編、投稿しました!】
タイトルは――
『聖剣学園の特待生は真の力を隠してる(と思われてる)~聖剣を持たない無能と家を追放された俺、大賢者に拾われ魔法剣を極める。聖剣を使わない最強剣士として有名になるが、使わないけど舐めプはしてない』
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