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104.悩める乙女



 リーフ・ケミストたちは、顔なしの化け物の本拠地に乗り込んでいる。


 迫り来る肉壁に捕まったエリアル。それをあっさりと助けたリーフ。

 今まで張り詰めていた緊張の糸がぷつんと千切れ……。


 エリアルは大泣きしてしまった。


 話は、その数分後。

 リーフたちは横穴を見つけ、そこで休憩を取っている。

 タイちゃんは周辺を見張ると言って出て行った。今は、リーフとエリアルの二人きりである。


 リーフは魔法バッグから魔法コンロを取り出してお湯をわかし、お茶を淹れた。

 それをエリアルがすすると……一瞬で気分が落ち着いた。


「おいしい……」


 さっきまで荒れ狂っていた感情の波がみるみるうちに収まっていた。

 今、エリアルはリーフが持っていた着替えのズボンをはいてる。


「それは良かったです」

「…………」


 エリアルは、自分が女であることを隠していた。

 だがさっき下半身を見られてしまい、あげく、女だと最初から知っていた、と言われた。


「その……ごめん。リーフ君。みっともない姿を見せてしまって」

「いえ! きれいでした!」

「そ、そう……」


 褒められても、全然嬉しくなかった。エリアルにとって、女らしさを評価されても。


「…………」


 気分が落ち着いたけれども、まだ心の中のモヤモヤは晴れない。

 いや、むしろ悪化している。


「どうしてそんな暗い顔してるんですか?」


 リーフが心配そうに尋ねてきた。

 原因はおまえだ……なんて、言えない。命を助けてもらった相手、しかも子供だ。そんな大人げないマネはできない。


 代わりに、エリアルは弱音を口にする。


「……ねえ、リーフ君。どうしたら君みたいに化け物じみた強さが手に入るんだい」

「え、俺化け物じみた強さなんてないですよ?」


 ……嫌みか? 嫌みなのか? いやでも、あんな純粋な目をしてる若者が、嫌みなんていうわけがない。


 おそらくは、本当に強いなんて思ってないんだ。

 じゃあ……強いってなんだ。どうすれば、強くなれるんだ。

 

「私は……強くなりたいよ」


 どれだけ頑張っても、本物の強い人間にはなれない。

 リーフや、黒銀の召喚士のような、異次元の強さを持つ人間には。


 ……彼女は努力した。より強くなろうと、自分の称号に見合うだけの強さを身につけようと。

 でも、その結果が、これだ。


 子供に助けられて、情けない姿を見せて、いじけている。

 ……ふと、ある考えが頭をよぎった。


「なあ……リーフ君」


 弱々しく、エリアルがつぶやく。

「私は強くなりたいよ。そうだ……飲んだら強くなる薬、だしてよ」


 ……何を言ってるのだ。

 そんなことをリーフに言ってどうする?


 八つ当たりもいいところだ。それに、飲んだら強くなる薬なんてあるわけが……。


「はいどうぞ」

「あるんかい!!!!!!!!」


 リーフの手には1本のポーション瓶が握られていた。

 中身は、血のように鮮やかな赤い色の液体で、ボコボコと沸騰している。


 しゅうしゅうと白い湯気を立てて、しかも硫黄のような匂いを出している。


「こ、これ……薬なのかい?」

「はい。飲めば強くなる薬です!」

「の、飲んで大丈夫なものなの?」

「大丈夫じゃないです!」

「大丈夫じゃないのかよ!!!!!!!」


 そんなものを取り出して、何がしたいのだこいつは……?


「飲めば、確かにものすごく強くなれます。けど、理性を失って暴走し、最後は枯れ木のように細くなって死にます」

「こわっ! そんなやばい薬飲みたくないよ!」

「でしょうね。この薬は命を代価に、強い力を手に入れる薬ですから」


 リーフが魔法カバンにポーション瓶を戻す。


「……君は何が言いたいの?」


 嫌がらせだろうかと一瞬思った。でも、こちらを見るリーフの目からは、そういう卑しいものはなかった。

 とても真剣な表情で、こんなことを言う。


「強さなんて簡単に手に入らない。そう言いたいんです」


 リーフはそう言って、自分の手を差し出してきた。

 そこには何も握られていない。ただの手のひらが……いや、違う。


「これは……」


 近づいて、リーフの手を見つめる。その手は……華奢な見た目に反して、ゴツゴツしていた。


 手の皮が、かなり分厚い。また、固い。マメが出きている。剣を握って何度も何度も素振りしたのだろう。剣のまめだけじゃない。


 その手はいくつもの切り傷や、変色してる部分もある。薬草を触ったときについたのだろうか、緑色にそまった部分がいくつもあった。


 彼の手には、歴史があった。長い長い修練を積んできたのが、よくわかる。努力の跡が、そこにはあった。

 言葉で語らずとも、その手を見ればわかる。苦労をしてきたのだ。いつもとぼけた面をして、万能薬を差し出してきた彼だけど……。


 そこに至るまでに長い努力をしてきたのだ。その集積が、今なのである。


「…………私は、馬鹿だ」


 ぽたぽた……と涙が流れる。恥ずかしかった。なんて愚かだったのだろう。

 リーフを勝手に天才だ、何の努力もせず強くなった人だと、勘違いしていた。


「君も……努力してきたんだね」


 顔を上げる。リーフは微笑んで、ハンカチを取り出して、目元を拭ってくれた。


「天才なんて、この世には一人も居ないですよ」


 彼の手を見る前だったら、その言葉は耳に届かなかったろう。でも、今は違う。

 苦労を知ったからこそ、届く言葉がある。


「あなたは強いです。ここで諦めるのは、もったいないなぁって、俺は思います。せっかく、ドアは開きかけてるんですから」

「どあ……?」

「はい。あなたも、なれますよ。あなたが憧れたその姿に」


 リーフが手を握って、微笑む。その顔を見て、ドキッと、不覚にもしてしまった。

 弱い部分を見られて、弱音を聞いてくれたからだろうか。


 今までよりも彼を、近くに感じた。

 ……彼が欲しいと思ってしまった。押し殺していたはずの、女としての自分が……顔を出しそうになる。


「だ、駄目だ。私は……女を捨てたんだ」

「? 女でしょ」

「いや、そういう意味じゃなくて……女である自分を否定するというか」

「どうして? あなたは、逆立ちしたってあなたでしょう? どうして否定する必要なんてあるんですか?」


 きょとんとした顔で彼が言う。


「自分を否定してるうちは、前に進めない。じいちゃんも言ってましたよ」


 はっ、とさせられた。何かを、掴んだ気がした。

 そのときだ。


「主よ! 敵が、襲ってくる!」


 タイちゃんが慌てて戻ってきた。

 リーフは魔法カバンを背負い、手袋をはめる。


 エリアルもまた、たちあがった。こんなとこで、しゃがみ込んでる暇はないのだ。


 ……リーフに悩みを聞いてもらえたおかげで、彼女の心は晴れやかになり、そして……。


 そして、何かを掴んだ、ような、気がした。


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