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104.Sランク冒険者、化け物に心折られる



 マーキュリーたちが肉壁に飲み込まれた、一方。

 リーフ・ケミストとSランク冒険者エリアルは、顔無しの化け物の親玉の元へ向かっていた。


 滝の裏に存在したアジトの中を進んでいく一行。

 だがエリアルの足取りは重かった。


「…………」


 村で出会った顔無しの化け物。

 謎の存在を前に、エリアルは何もできなかった。


 リーフがいなかったら今頃全滅だったろう。

 そう……結局は、リーフがすべてを片付けてしまった。


 同じ、Sランクなのに、自分より、年下の男の子なのに……。


「…………」


 エリアルは、修行した。強くなりたいから努力した。

 けれど、前を歩くリーフとの距離が、詰まった感じは一ミリもしない。


 悔しいという気持ちを、最初は抱いた。でも、だんだんと力量の差を見せ続けられて、辛くなってしまってきた。


 誰かが耳元でささやく。


『もう、諦めてしまえ』と。そう、諦めてしまえば楽になれるのだ。化け物と肩を並べるのがそもそもの間違いだと、そう受け入れられたら、どれだけ楽か……。

 どれだけ……。


「エリアルさん! 止まって!」


 でも、諦めきれない自分がいる……。


「エリアルさん!」


 ハッ、とエリアルが立ち止まって顔を上げる。

 リーフが険しい表情で正面を見つめていた。


 赤髪のベヒモス(の人間の姿)、タイちゃんもまた、警戒をあらわにしてる。

 一人のんきに考え事をしていたのは、自分だけだった。


 馬鹿が。本当に、ナニをやってるのだ……!


「何か来ます!」

「なんであるか……あれは? 肉の……壁?」


 鼻の良いリーフがまず気づき、次にタイちゃんが気づく。

 こちらに不定形の壁のようなものが、猛烈な速度で迫ってくる。


 正体は不明だ。だが……ここで足を止めるのは、駄目だ。


「私が行く!」

「あ、ちょっと! エリアルさん!」


 エリアルは……彼女は、焦っていた。

 今までも冒険で、ずっとリーフの足を引っ張っていた。


 同格であるはずの、自分が。一番このパーティで足手まといである。

 なにかしなくちゃ、なにか、したい。そして……認められたい。


 自分もまた、Sランクにふさわしい人物だって。


「せやぁああああああああああ!」


 走りながらエリアルは2本の剣をぬいて、肉壁に攻撃する。


「武技! 【裂空連斬れっくうれんざん】!」


 武技とは、職業ジョブから派生する、特別な攻撃スキルのことだ。

 地獄の特訓で身につけた、エリアルの必殺技。


 高速で回転しながら、敵に切りつける。 その回転の速さは、伝説の魔獣であるタイちゃんの目をも凌駕する。


「なんという早さ! これなら……」

「せやぁああああああああああ!」


 高速回転しながらの連続攻撃。

 ただの攻撃じゃない。証明する一撃だ。

 自分の努力を。

 積み重ねてきたものが、無駄ではないのだという、証を。


 だから、外さない。これで困難を打ち砕く。

 そう、どんな困難も、理不尽な力で破壊してみせる、リーフのように……。


「当たれえええええええええええ!」


 しかし……。


 パキィイイイイイイイイイン……!


「そ、そんな……!?」


 2本の刃が、粉々に砕ける。


 必死になって身につけた奥義が、肉壁に全然通用しなかった……。


 その事実が、彼女の心に深いダメージを負わせる。

 そのまま呆然としていると、肉壁がエリアルを飲み込む。


「いかん! エリアル殿が肉壁に取り込まれた!」


 ああ……駄目だった……。

 頑張ったのだけど、駄目だった……。


 ごめん、リーフ君……君みたいにはなれなかった……。

 せめて、自分がかせいだ時間で、逃げて……。


「そい!」


 ずぉおおおおおおおおお…………!!!


「は……? え……? に、肉壁が……消えて、く……?」


 エリアルは目を剥いていた。今、自分を覆い尽くしていた肉の壁が、みるみるうちにしぼんでいくではないか。


「やっぱり! この壁も、あの顔の無い化け物が変身していた姿だったんだ!」


 あの化け物は食べた相手に成り代わる力があった。

 迷宮の壁を食べれば、壁になることはできるだろう。

 

 ……気づかなかった。その事実に、リーフはいち早く気づき、対応したのだ。


 そしてあの、顔無しの化け物をたおす薬を使ったのだ。

 なんて、的確な判断。なんて……自分よりも……。


「あ! え、エリアルさん! 前前!」

「へ……? あ」


 そのとき、エリアルは気づいた。

 ……自分が、下半身丸出しになっていることに。


「~~~~~~~~~~~!」


 どうやらあの壁に、ズボンを食われてしまったらしい。

 ばっ、とエリアルは局部を隠す。


 バレた……見られた! みんなに隠していた。自分が、実は女だってことが……バレてしまった!


 リーフもさぞ困惑しているだろう。マーキュリーが作った、認識阻害の魔道具の効果もあって、自分を完全に男だと誤認していたはずなのだから……。


「どうぞ!」

「へ……?」


 リーフは身につけてる、白い外套を、素早くエリアルの下半身にかける。


 男だと思っていた人物が、女だった。そんな衝撃的なシーンを目の当たりにしたはずなのに、あまりに、立ち直りが早かった。


「ど、うして……? 私は、女……だったんだぞ?」

「え? そんなの最初から知ってましたけど?」


 ぽかーん……と、エリアルが間の抜けた表情になる。


「ど、して……?」

「え、男女って匂いで違いがわかりますよね?」


 ……わかるわけがない。どんだけ鋭い嗅覚を持っているのだ。


「…………」


 気づけば、エリアルはぽたぽた……と涙を流していた。

 恥ずかしいやら、情けないやら。


 いろんな感情がない交ぜになって……。

「び、」

「び?」

「びえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!」


 いつもの大人な彼女からは、想像できないほど……。

 あまりに子供っぽく、エリアルは泣いてしまった。


 その姿にリーフは激しく動揺する。 


「え、ええ!? お、俺何かしちゃいましたか!?」

「あびゃぁあああああああああああああああああああああああ!」

「ああどうしよう! どうしようタイちゃん!」


 タイちゃんはあきれたように、小さく息をつくのだった。

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