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2-11 辺境伯爵領の守り手たち

(2024年5月30日に本編の内容を大幅に改変しました。ついでに4.5話と8.5話も入れています。)

 サモナ諸島の沖合上空。


「『第五飛行隊、準備はいい?』」


 アリシアは海上で合流したワイバーンたちに“風通信”で呼びかけた。


 彼らは、サモナを監視していたブルードレイクを倒した後、私たちの応援に駆けつけてくれたプリムラ基地所属の第五飛行隊。


《第一から第四小隊スタンバイ!》


《第五、第六小隊スタンバイ!》


「『アリシア様。第五飛行隊のワイバーン24名、戦闘準備完了。』」


 “八重桜”から私たちを載せてくれたウシオが人間の言葉で教えてくれる。


「『最後の戦いよ。あらゆる手段を許可します。安全装置解除。交戦せよ!!』」


「「「グアゥ!!」」」


 ワイバーンたちが小隊ごとに分かれて敵へと向かう。


 前方で巨大な水柱が上がったかと思えば、海中から8つの首が出てきて、“フローズンブラスト”を放つ。海に潜ったかと思えば、今度は空高く上がり、高速で飛翔し始める。


 最後の敵、巨大な魔石を取り込んだブルードレイクは異形のブルーヒュドラになっていた。


 空中でフウガに組みあったブルーヒュドラが、フウガの足や翼に噛みついている。


「『フウガっ!』」


「『ぬっ。遅いぞ。我が主。』」


 念話でフウガに呼びかければ、フウガの文句が返ってくる。


「フハハハハハ。何故キサマは人間の味方をする?何故小娘を主とする?100年程度しか生きていない個体ではエンシェントドラゴンと言えども群れるしか能がないのか?我が敵ではないわ。」


「ふん。わからんだろうな。我は人間の味方をしているわけではない。我らが戦う理由は、我らがキルシュバウムの民であり、アリシアとともに進む者だからだ。」


 フウガが痛みに耐えながらブルーヒュドラをガッツリと掴む。


「『第五小隊、対甲誘導弾発射準備。』」


 振り返ってワイバーンに指示を出す。


 彼ら4頭が担いでいるのはお父様とヤクモが試作した120mm有線誘導噴進砲。


「『…撃て!』」


 ワイバーンたちが発射筒の引き金を引けば、勢いよくミサイルが飛び出す。搭載された火の魔石から“ファイヤーブラスト”を出して秒速85mのスピードで自推しながら進む。


 ミサイルの後方にはシルバーワームの糸が繋がっていて、ワイバーンたちが魔素の流れを調整すれば、推進方向の微調整ができる。


 放たれた4発はブルーヒュドラの背中に命中。


「なぁにぃいい!」


 5本の首を吹き飛ばされたヒュドラは海へと落ちていく。


 ワイバーンをフウガに寄せ、背中に飛び移る。


「フウガ!大丈夫?」


 翼に大穴が幾つも開いている。


 それでも飛行できているのは風の魔法で周囲の揚力を制御できているから。


「…しばし翼の修復に専念する。周りの気流の制御は任せたぞ。ユー、ハヴ、コントロール。」


 同じく闇魔法を使えるイリーナ様にお願いしようとも思ったけど、イリーナ様はフウガの翼の構造をまじまじと観察したことないからね。流石に“時戻し”は半端には使えない。


「了解。アイ、ハヴ、コントロール。」


 応えると同時にフウガが周囲の風魔法を切った。


 代わりに私の風魔法で周囲の空気をコントロールする。


 向かい風を捕らえ、翼の上の空気の密度を弄って調整する。


 久しぶりに制御を任されたせいで右へ左へと蛇行。


 運よく下方から飛んできた“フローズンブラスト”を回避できた。


「のわわわっ。アリシアぁ~」


 レベッカの情けない声が響く。


「ガハハハッ。何をやっても無駄よ。無駄無駄ぁ。」


 見れば、いつの間にかヒュドラの首が復活していた。


「フウガ、これ倒せるの?」


「凝縮太陽光線では無理じゃ。大規模だと追従性が悪い。小規模だと威力が足りずに首が復活してしまう。」


「私の“窒息”も流石に首8本の同時座標指定は無理よ?」


「うわっ!呑気に話してる場合じゃないぞ!!」


 再びの“フローズンブラスト”。今度は私たちをギリギリ掠めていった。


 …というか、ティアの“ファイヤーウォール”が防いでなかったら当たってたかも。


「フウガ、楽しんでいるでしょ。ほら、ユー、ハヴ、コントロール。」


「むう。気づいておったか。アイ、ハヴ、コントロール。」


 とっくの昔に翼の修復を終えたフウガ。さっさと仕事しなさい。


 それにしても…、


「全く、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる理論なわけ?」


 ヒュドラの8つの頭が狙いも付けず“フローズンブラスト”を撃ちまくっている。


 運悪く翼に当たったワイバーン1頭が半身を凍らせて落ちていく。


「『セイラン!今の子を連れて後方へ退避。第一から第四は、頭を狙って援護せよ!』」


《Fox-3!Fox-3!》


 4個小隊のワイバーンが12.7mm多銃身銃をぶっ放す。


 頭をうねうねさせながらのけぞるヒュドラ。


「『第六小隊、2発撃て!』」


《第六小隊1番、景雲(ケイウン)。Fox-2!》


《2番、暁雲(ギョウウン)、Fox-2。》


 第六小隊が対甲誘導弾2発を撃ち込むけど、直ぐに首が復活してしまう。


 一発で一気に消滅させるような何か…そうだ!


「フウガ、闇魔法で重力コントロールして、ブラックホールとか作れる?」


「む?ブラックホール??」


 あーもう、イメージ出来なければ、ぶっつけ本番は無理か。


「あ…私、それイメージはできるわよ。」


「ナイスですイリーナ様。」


「でも、魔素が足りるかどうか不安だわ。」


「大丈夫、私が魔素送るから。」


 イリーナ様と手を繋ぐ。


 ヒュドラを睨みつけながら考える。


「あとは、どうやって隙をつくるかね。」


「あ、あれイリーナに預けたままだったよね。」


 私の呟きにレベッカが思い出したように言う。


 え??旅行の時に買った無駄に使い道のない槍?


 イリーナ様の“影収納”に手を突っ込み、ミスリル槍を取り出したレベッカ。


 ジョイント部分を繋げ、4mの長さになった柄を軽々と持ち上げたかと思えば、無属性の魔素を流して刃を綺麗にコーティング。


「ホント、上達したわね。」


 あの旅行の時、私がレベッカの身体の魔素を目覚めさせてしまったみたいで、以来レベッカは無属性の魔素を積極的に扱っている。


「けれど、槍1本で隙をつくれるの?」


「ん~それはねぇ、この槍の売り文句だよ。」


「なるほど、どうやら私の出番のようですね。」


 不敵に笑うティアにレベッカがコクんと頷く。


 マジで?仕方ないな。


「『第六小隊。残りの誘導弾をぶっ放せ。他は援護せよ!』」


 掛け声と同時にワイバーンたちが再びヒュドラを取り囲む。


 第六小隊の2頭が120mm対甲誘導弾を撃ち込む。


 弧を描いて飛ぶ誘導弾。しかし、


「何度も同じ手が通用すると思うな!」


 ヒュドラは身体を捻り、胴体が回避を行う。


 同時に、8つの頭が“フローズンブラスト”で迎撃し、誘導弾を誘爆させてしまう。


 でも、それも織り込み済み!


「そこだっ!」


 体勢を崩していたヒュドラの胴に向かい、身体強化したレベッカが槍を投擲。


 重力の勢いも加わり、ヒュドラの胴に深く突き刺さる。


「“雷霆(ケラウノス)”!」


 ティアが雷の最上位魔法を行使する。


 青白い神の剣が避雷針となったミスリルの槍に集中して落ちる。


「があああアア。おのれ。人間の分際で。何故歯向かう!?」


「『私たちが戦う理由はある。』」


 世界の人間がどうなったところで知ったことではない。


 でも、


 キルシュバウムに手を出すならば、領民たちは皆立ち上がる。


 私の守りたいものに手を出すならば、私も力を行使する。


「『お前は我が領に危害を加えた。私の大切な親友を傷つけた。だから、私たちは戦う。守るために!』」


 イリーナ様の手をギュっと握る。


 頷いたイリーナ様が静かに言葉を紡ぐ。


「“超重力場(ブラックホール)”!」


 ブルーヒュドラを中心として空気が渦を巻き始める。


 海面が盛り上がり、波が吸われはじめる。


 重力場を纏った闇の塊が形成されていく。


 中心付近にあったヒュドラの肉体はへしゃげ、内へと吸い込まれていく。


「っつ…。」


 なんとか制御を保つイリーナ様を支え、ゆっくりと魔素を送り続ける。


 8つある頭も、なすすべなく闇に捕らえられる。


「なぁああァぁぁ…」


 ヒュドラの驚愕の声を伝える空気さえも重力場が捕らえ、中心へと引き込んでいく。


 怨嗟の籠った視線を向けられるが、痛くも痒くもない。


 例え第二、第三のヒュドラが出てきて、キルシュバウムに、親友に…私の大切なものに手を出そうとするなら、私は…私たちは何度でも戦おう。


 決意と共に睨み返す。


「これで終わりよ。」


 イリーナ様が制御を止めると、回転していた闇の重力場がパッと散った。


 後には何も残らず、ただ静寂な海が広がっていた。


----------


 後に南海事変と呼ばれるようになったサモナ沖での軍事衝突から半年。


 戦いを繰り広げた海域に3列の航跡が伸びる。


 空母“葦原”から飛び立った艦載機が、宙返りをした後、後方の補給艦“近江”の上を越え、再び“葦原”に戻って来る。右斜めへ傾いたアングルドデッキに見事に着艦すれば、甲板で見守っていた観客から拍手が沸き起こる。


 カエルラ公爵、船を降りたら今日の記憶は忘れるという約束、ちゃんと守ってくださいね?イグノス公太子殿下もですよ?


 続いて、“葦原”の前方を進む護衛艦“八重桜”と“橘”が、4基ある12cm56口径単装砲を互い違いに向けて3斉射。格納庫の左右のシャッターを開けて、“八重桜”所属のワイバーンのウシオとセイランも火球を吐いて祝ってくれたわ。


 サモナ王とリカルド王太子殿下は轟音に驚いて目をひんむいでいたけど…。


 さらに、後方から高速で進んできた受閲艦隊の巡視船群が4隻ずつに分かれ、“葦原”の左右を追い抜いていく。3基ある40mm57口径速射砲を天に向け、6連射の空砲が撃たれる。


 暫くすると、プリムラ基地から飛来した8機の双発爆撃機“花雪”が5発ずつの60kg爆雷を投下していく。艦隊の左右に派手な水柱が立ち、フィナーレを演出する。


 上空で見守ってくれていたフウガが“葦原”の飛行甲板に優しく着地。…って言うか、厳密には十数センチ浮いてホバリングしている凄い芸当ね。


 観客の皆に手を振った後、フウガの背中に乗って急上昇。


 上空で待機する第五飛行隊の24頭のワイバーンにも笑顔で応える。


 そのまま見送られ、フウガが音速の2倍まで加速すると、あっという間に大陸が見えてくる。


 真っ白な港、大きな2基のガントリークレーンを備えた造船所。


 崖の上にはプリムラ基地の飛行場。菜の花の咲き乱れる丘陵地帯に3000mの滑走路と駐機場は目立つわね。


 そのまま高速で北上。幾つかの他領の街や村、すっかりスラムと化した旧王都上空をパスし、何もない草原の上をひたすら進めば、ホルスト山脈の手前に、巨大な壁が見えてくる。


 壁の向こうには一面の小麦畑。冬を越して青々としている。


 しばらく進めば、ミズホ市の市街地。線路脇や、住宅地、工場の敷地に点在するのは私たちの領のシンボル…白銀の桜。


 そう、今年も桜の季節がやって来た。


 土手沿いに桜の咲き乱れるオウミ湖の上を通って、キルシュバウム辺境伯爵領最北の街チトセ市に向かえば、2本の3000m級滑走路が見えてくる。


 駐機場にはたくさんの人だかり、物凄い歓迎を受けた。…ちょっと二度見してしまったわね。


 チトセ基地の一角で降ろしてもらい、大鳥居の下をくぐる。


 先ほどまでの騒がしさから一転して静まり返る境内に足を踏み入れる。


 いつも私に勇気をくれた桜の大樹が、今年も変わらずに私を包んでくれる。でも、今年から少し変わらないといけない。私は守られる存在から、守る存在になるのだから。


 まずは社に祀られている初代キルシュバウム辺境伯爵に御報告。


「初代様。私は本日より正式に領主としての1歩を踏み出します。」


 両手を合わせて思いを馳せれば、一陣の風が吹いて、花びらが舞う。


 代々伝わる神器を受け継ぐ儀式を済ませ、この地を守り抜いた先祖の御霊に一礼し、花吹雪に包まれながら飛行場へ向かう。


 騒がしくお祝いしてくれる皆に囲まれながら滑走路に到着。


 皆の希望に応えて今日だけは一般開放してみたら、3000m級の滑走路を人が埋め尽くしていた。…これ、大丈夫なの?まあ、すごく嬉しいけれども。


 私が用意された台の上に登れば、ワァっと歓声が巻き起こる。


 続く静寂を待って、風の魔法で声を拡大して宣言する。


「『皆の先祖が代々118年に渡って守り抜いてきた我らが領。ついに本日、私が継ぐことになりました。』」


 この土地は、ここに住む全ての民が代々協力して守り抜いてきた。今日から私は、その代表としての重責を負う。


「『初代は力で安定をもたらし、2代目は技で成長をもたらし、3代目は知恵で経済を回し、4代目は科学で発展を促した。』」


 本当に、マジで代々チートの系譜だわ。


 でも、それぞれが自分のやり方で、努力してきたからこそなのよね。


「『私、アリシア・ラナ・キルシュバウムは、先祖の偉大な功績に敬意を表し、キルシュバウムの民とともに、一致団結し、仲間とともに更なる飛躍を目指します。』」


 幸いなことに私には頼れる皆が居る。


 共に歩んでくれる仲間がいる。


「時代は内外問わず、激動の流れを見せている。私は、カエルラ公爵家、ミニアーノ侯爵家、さらにはサモナ王家とも連携し、皆の平穏と安定を守ることを約束し、第5代キルシュバウム領主となることを宣言する!」


 見渡せば、多くの人が声援を送ってくれている。


 私の隣にはお父様、お母様、執事のワイズマンさん、メイドのユーリ、護衛のマーティン。そして反対側には親友のイリーナ様、ティア、それにレベッカ。


 万歳三唱とともに、祝砲が撃ち上げられる。


 フェンリルやフォレストウルフたちの遠吠えが響き、フウガが歓喜の雄叫びを上げる。


 空を見上げれば、50頭のワイバーンが白いスモークを引いて軌跡を描く。


 ここから新しい時代が幕を開ける。


 きっと辛い決断をくださないといけないこともあるでしょう。


 でもどんな荒波がきても、私は、皆と…このキルシュバウムの民とともに乗り越えていく。


 新たな門出を祝うかのように、満開の桜が舞っていた。








(ありがとうございました。

続編、完結です。

でも、ここから、ようやくアリシアによる統治が始まるんですね。

ひょっとしたら、次は更に近代化した帝国編かなーなんて。


未だの方、是非ともブクマ&評価、よろしくお願いいたします!)


(追記

※2-6~2-11までの間に活躍したワイバーン飛行隊の小説を書き始めてしまいました。https://ncode.syosetu.com/n4800hx/です。よかったらそちらもどうぞ。)


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