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2-9 (幕間) 留守を任された者たちもチートの影響を受けました

(続編も大詰めです。

ちなみに、ヒースリー先輩は2-2話で初登場したAランク冒険者です。)

「アリシア様のことですか?いいですよ。ちょうど手が空きましたし。」


 一段落して塹壕に寄り掛かった俺は、居合わせた先輩からの問いに答える。


「アリシア様は…、アリシア様たちは良い意味で、全く貴族っぽくないですね。」


 威張りもしない、ヒステリーに叫んだりもしない。金や権力に執着せず、そして無駄に力を行使しない。一方で、庇護するものたちのために率先して身体を張る。


 え?既に金や権力を持っている余裕から?…いや、説明が難しいですが、そういう話じゃないんですよ。


「私がアリシア様を初めて見かけたのは2年前、セントレア学園53期入学生の顔合わせのお茶会の時でした。」


 元々は只の平民…荷運び家を営んでいた両親の息子の俺は、偶然にもミニアーノ侯爵の目に留まり、士官候補として侯爵家に召し抱えられた。


 3年ほど指導をいただき、ある程度の経験を積んだところで、侯爵からセントレア学園への入学を打診された。広く見聞を広めることと、御令嬢のレベッカそしてレベッカの(あるじ)であり、御友人となるサモナ王女のティア様を学園内で見守ることと言われた。


 あの時、侯爵はティア様とレベッカが交流を始めたキルシュバウム辺境伯爵令嬢…アリシア様のことを意識していたのだと思う。


 キルシュバウム辺境伯爵家は謎が多い。社交の場には滅多に出てこないし、唯一出席する年賀式ですら、顔を出すだけで直ぐに帰る。余程貧乏なのだとか、逆に国家転覆を諮っているのだとか様々な噂がある。


 そして、その令嬢も、これまで一切、社交界には顔を出しておらず、謎に包まれていた。


 ティア様の魔素の欠乏症を治し、上級魔法を指南し、さらにはお転婆だったレベッカに落ち着きが出てきたのもキルシュバウム辺境伯爵令嬢のおかげだと言うから余程の人間かと思っていた。


「しかし、第一印象は余りにも美しく、そして儚い御令嬢でした。」


 紺色のシンプルドレスに身を包む姿。じゃらじゃらとした宝石とコテコテした派手なドレスの令嬢が多い中、それは際立って美しく見えた。


 バランスを崩してレベッカに介抱されている姿は儚げに見えた。


「ですが、今思い返してみれば、あの日からアリシア様は、俺たちのよく知るアリシア様でした。」


 グレゴリー侯爵令嬢の挑発に面倒くさそうにしていたかと思いきや、身内を貶された瞬間にガチでヤバい経済制裁をほのめかす。


 侵入した賊に第二王子殿下を人質に取られ、誰も動けない状況の中、アリシア様だけはティア様とレベッカを守ることを最優先し、躊躇なく賊のリーダーの首をかき切った。


「15歳の美しい令嬢が返り血を浴びても顔色一つ変えない様には身震いしました。」


 賊とは言え人間。15歳のころでなら俺でも躊躇したか、吐いていただろう。


「まあ、そして入学してからはいろいろありました。」


 入学式では相手が王族であっても怯まずに対峙し、放課後の対決では上級生たちを打ちのめした。エンシェントドラゴンを従えていることは俺たちだけの秘密だけどな。


 武術課程では実力がものを言う。例え、アリシア様が貴族令嬢であって、魔術課程の人間であったとしても、俺たちは従うことを決めた。そして、魔術課程の人間は武術課程を馬鹿にしがちだが、アリシア様は違った。何時も「私、魔術課程なんだけど?」とボヤキながらも対等に接してくれた。


 レベッカは置いておくとしても、貴族令嬢が、魔法無しで俺たちの鍛錬に付き合ってくれるんだぜ?だから俺たちも、自分が苦手でも、使えなくても、魔術のことをよく知ろうと思った。


 ちなみに、アリシア様と仲の良いイリーナ様、ティア様とレベッカが揃った日には、魔術士の戦い方を見せて貰った。いや、もう勝てるとは思わなかった。


「よくわかったのは、魔術士というものは1人いただけで圧倒的な戦力となること。でも、魔術士も万能ではなく、チャージ中とかに守ってもらえないと集中して魔法を使えないということ。」


 制御に失敗して座標が狂ったときには大惨事だ。


 そうしてアリシア様たちから色々と学びながらの野外実習の日。俺たちの目の前でスタンピードが起こった。素早く立ち直り、的確な指揮を執るアリシア様の姿は、今でも俺たちの目に焼き付いている。


 あの学園での経験が今の俺らの行動基準になっている。


 ん?“一般人とは基準がかけ離れている”ですか?そりゃあ、貴族っぽくない令嬢4人とともに培った経験が俺らの行動基準ですからね。…そうじゃない?


 ほら、イグノス殿下とリカルド殿下も言ってやってください。妹のイリーナ様と姉のティア様が非常識な人間扱いされてしまいますよ?


 え?何も知らなかった1時間前に戻りたい?先輩、酔狂ですね。




-----1時間前-----


 ダットの目の前の海岸線で繰り広げられるのは文字通りの死闘。


 カエルラ公爵領の東の浜に上陸してくるディザスタータートルを兵士や冒険者たちが倒して回っている。


 浜に上がって動きの遅くなったところを雷の魔法で狙い、痺れて弱らせたところで頭を武器で切り落とす。


 ただ、倒しても倒しても次の群れがやってくる。


 終わりの見えない戦い。


 前線で戦う者たちの得物は折れたり、刃こぼれを起こしたりと、使い物にならなくなっていく。


 疲労が蓄積し、集中力が切れた者は、複数のディザスタータートルに囲まれ、手足を捥がれ、しまいには食い尽される。


 厭戦ムードが広まる砦内で、しばらくして裏門から小さな歓声が上がった。


「ようダット。まだ生きてたか。」


 ハルバードを担いで陣内に入ってきたのは悪友のヌアクだった。


「こんにちは、チェリー商会運輸部です。カエルラ公爵から伝言とお届け物です。サインお願いしまーす。」


 続いて武器や包帯、薬草が満載された2台の荷馬車が入ってくる。


 周りには武術過程の同期卒の奴ら全員が警護についていた。


「公都の民の避難は終わったので、後方の兵士を前線に出せるそうです。『他の海岸線もなんとか押しとどめているので、堪えてほしい。』とのことでした。」


「ああ。よく来てくれた。少なくない犠牲を払ったのだろう?怪我人が居れば手当しよう。」


 この防衛線の指揮を執っているヒースリー先輩が受領のサインをする。


 ヒースリー先輩は、公国防衛大臣ミニアーノ侯爵の副官としての肩書と同時に、Aランク冒険者としてギルドで教官を務めている肩書も持っている。


 学園を途中卒業した17歳の若手たちは、さぞや疲労困憊しているのだろうと思ったのだろう。


「?初めから自分たちだけですよ?皆、無傷です。」


「え、そうなのか?…最近の学生は随分と優秀なんだな。」


 ディザスタータートルの群れはここで完全に押しとどめることはできていない。何十頭かは後方に抜けられてしまったし、情報によると河川から遡上している群れもいるらしい。


 魔術士なしで荷馬車を守りながら前線まで来れたということに先輩は驚いていた。


「いえ、自分たちは総隊長…アリシア様から習ったことを実行しているだけです。未だ未だアマちゃんですよ。」


「…ふむ。良い教官に恵まれたということかな?」


「え?教官…なのかな?アリシア様は俺たちの同期で…」


「ライバルであって、師匠であって、雇い主であって…」


「ん?そのアリシア様とやらは、キルシュバウム辺境伯爵令嬢のことか?」


「そうです。この武器を新調してくれたのも、総隊…アリシア様です。」


 ワイバーンの鱗が塗布された黒鋼の得物。他の全員がチェリー商会に就職して、アリシア様から直々に貰っているのに、同期の中で唯一、俺だけがミニアーノ侯爵家に仕えたため、貰えなかった…。少し羨ましいのは認める。


「ヌアクなんか表面に魔素を通わせて、ディザスタータートルの甲羅を真っ二つだぜ。」


「ああ、この前、レベッカに会ったときに、教わったんだ。アイツ、ここ最近、急に魔素を扱えるようになったらしくって、身体強化も加えて岩を割ってたぞ。」


 ヌアクが得意げにハルバードの刃先を光らせて言う。「最近、何かあったのか?」って聞いたら、「多分、アリシアのせいだよ。」って笑っていたらしい。


「お、おう、なるほど?(レベッカ嬢が岩を割る?アリシア嬢のせい?…聞き間違えだろうな。)」


理解が追いつかなかったヒースリー先輩は話題を変える。「では、帰りに彼らと、その近衛を護衛して行ってくれないだろうか。初戦では有難かったが、戦況が悪化しつつある今、ここに居るのは危険だ。」


 そう言って詰め所に居るイグノス・カエルラ公太子殿下とリカルド・サン・サモナ王太子殿下を連れてきた。


「すみません。お手数をかけます。」


 申し訳なさそうにするリカルド殿下だが、そんなことはない。姉のティア様から学んだという水の治癒魔法で、救護所では大活躍していた。


 彼は「姉様が安心して頼ってくれるように、もっと成長したい。」と言っていたが、なかなか十分だと思う。


「まあ、そろそろ私も邪魔になっているのではと思っていたところだ。」


 一方で、イグノス殿下も実は妹のイリーナ様に、安心して外に出てもらうための実績作りのために戦場に来ていた。いや、しかし影で縛り付けるだけでなく、ディザスタータートル同士を戦わせるような魔法は凄かった。


 極秘だが、先の内戦でカエルラ領に侵攻する巨大ゴーレムを倒した功績がティア様とイリーナ様にもある。しかし、彼女たちを英雄として国に縛り付けたくない、好きに自由に生きてもらいたいという姉弟、あるいは兄妹の想いが彼らを戦場に駆り立てたのだろう。


「おい、待て!帰るのか!」


 会話に割り込んで叫んだのは剣が折れて撤退してきた5人のBランク冒険者パーティ。


 我先にと運ばれてきた武器類を物色していたと思ったら、大剣を振り回し、火の魔法を手の平に宿して周囲をけん制しながら荷馬車の1つを奪い取る。


「あーちょっと、積み下ろし作業残ってるので邪魔しないでくれません?場合によっては排除しますよ?」


 同期の奴らが面倒くさそうに応対する。


「帰るなら俺たちが優先だ!来たばっかりの奴らが帰るなど許さない。」


 訳の分からない理論を展開し始める。そもそもこの戦場にいる兵士たちは軍として防衛の任務についているが、お前ら冒険者たちは貼り出された依頼を受けたから来たのだろう。


 前金の2倍の違約金を払えば、依頼を降りるのは自由だが、チェリー商会の馬車に乗って帰るのは話が違う。


 チェリー商会に所属するヌアクたちが受けたのは、物資を戦場に送り届け、そしてこれからは殿下たちと近衛兵を乗せて帰るという依頼だ。


 特に負傷したわけでもない、任務を降りた冒険者を乗せる依頼は受けていない。


「あのー、乗って帰りたいなら、正規の依頼を出してください。」


 同期の1人が冷静に声をかけながら歩み寄る。


「うるさい!寄るな!!」


 そういったBランクパーティのリーダーは馬に鞭を入れ、急発進。


 パーティの魔術士が裏門に“ファイヤーブラスト”を飛ばして門を吹き飛ばし、あっという間に脱出した。砦から伸びる坂道を勢いのままに駆け下りていく。


「あー、あの馬、気性が荒いからな。」


 そういう声がつぶやかれた直後、荷馬車が小川の橋の欄干に衝突、脱輪した。


 ちっ。という舌打ちとともにヌアクが指笛を吹く。


 すると遠方の茂みから2頭のフォレストウルフが現れた。


 ヌアクの来いという身振りに反応し、風のように駆けてくる。ちゃっかり途中で荷馬車の御者台の固定金具を踏み壊し、馬を開放。暴れ馬は荷馬車の金具だけを引きずりながら走り去っていった。


 直後、小川から出てきたのは3頭のディザスタータートル。荷馬車から放り出された拍子に負傷した5人に襲い掛かる。


「ひっ…ひいいい!」


「ああああっ、た、すけ…」


 阿鼻叫喚を上げながらディザスタータートルの胃袋に呑み込まれていった。


「やっぱ初動で排除しとけばよかったか?」


「いや、アリシア様なら放置しただろう。“面倒くさい”の一言で。」


「確かに、こんな時に人間同士で消耗するのは愚策だな。」


「けっ、馬車の損害賠償は誰に請求すればいいんだろうな?」


 おぞましい光景を同期の皆は平然と眺めていた。


「あー君たち、随分と落ち着いているが、帰り路が塞がったことに焦りとかはないのかな?」


 ヒースリー先輩が頭を書きながら言う。


「んー。目と鼻の先でスタンピードが起こったわけでは無いですからね。」


 全員の脳裏に浮かぶのは「あの時」。あれを基準とするならば、今の状況は全然マシといだろう。


「う、うわわああぁ!!」


「落ち着け!」


 一方で、砦の内部に侵入した2頭のフォレストウルフに対し、近衛兵たちが慌てて得物を構えるのをヒースリー先輩が宥めている。


「申し訳ないですが、近衛兵は自力で帰ってください。殿下たちはフォレストウルフの背中に乗っていただきます。」


「あ、ああ…わかった。いや、そうではなく…、この、フォレストウルフは…。」


 苦笑を浮かべながら2頭を指さすヒースリー先輩。


「ウチの従業員の明林と深山です。」


「あー、だよねぇ。レッグバンドしてるものねぇ。」


 おや?ヒースリー先輩は、どこかでキルシュバウム家のフォレストウルフに会ったのだろうか?


 ともかく、ヌアクたちには、脱出してもらおう。そう思った矢先、


「『“ヤタガラス-5”より各隊へ、“ヤタガラス-5”より各隊へ。』」


「な…なんだ?」


 上空より拡大された声が聞こえてきた。見上げれば、遥かな高さに黒い影。あれはワイバーンだな。


「『姫は無事だ。王女を奪還した。』」


「声?」


 兵士や冒険者たちはわかっていないようだ。しかし、理解したリカルド殿下の顔が明るくなる。


 この大陸でティア様が拉致されたことを知っているのはレベッカから直接事情を聴いたイグノス殿下とリカルド殿下。そして報告を受けたカエルラ公爵やミニアーノ侯爵とその側近の限られた人間だけだからな。


「『我らが主は御怒りだ。白銀の花に仇為す敵に鉄槌を下す。各隊は最寄りのベースに至急戻り、状況を確認せよ。繰り返す…』」


「…御怒りね。」


 これから何が起こるのかを想像したイグノス殿下はため息をついた。


「『“ヤタガラス-5”、こちらチェリー商会運輸部第三輸送隊“ワカバ”。繰り返す。こちら“ワカバ”。現在位置、海岸線の砦。トラブルが発生した。至急の移動は困難だ。』」


 ヌアクが背嚢の魔道具を起動して上空のワイバーンにコンタクトを取っているようだ。


「『“ワカバ”、こちら“ヤタガラス-5”。10分後に海上および海岸線のディザスタータートルを爆撃する。退避が叶わない場合は発煙弾にて位置を示せ。』」


「『“ヤタガラス-5”、“ワカバ”了解。』」


 気が付けば、サモナの方角に向かって飛ぶワイバーンの群れが見える。遅れて人造の翼竜が続いている。空を埋め尽くしそうな数…ヤバいぞ。本気だ!


「ヒースリーさん。キルシュバウムが本気でキレました。あと10分で海岸線は地獄に変わります。突出している冒険者たちを少し後ろに下げることをお勧めします。あと、土魔法を使える方を集めてください。」


「もう、好きにしてくれ…。」


 同期の奴らがフォレストウルフと協力して馬車を移動させ、海に向かって横倒しにする。木製のパレットとかいう荷役台で補強もしている。


「あっ!アイツ、土魔法使える奴だ!」


「何っ!」


 1人が指さした先には、魔素切れで砦に戻ってきていた魔術士の集団。皆、苦々しい顔でヌアクたちが運んできていた薬草を噛んでいた。


「ええっ!?」


「あーすまんが、彼らに協力してくれ。」


 ヒースリー先輩に促されて渋々出てきたのは俺たちと同年代の女魔術士だった。


「塹壕だ。えーっと、ここら辺に一帯に幅1m、深さ2mくらいの溝を張り巡らせてくれ。」


「はぁ!?無茶言わないで!」


「海岸線一帯じゃなくて、この砦の中の、ここら辺だけでいいんだ。」


「それが無理だって!!何本の苦い薬草を飲ませるつもり!?」


「ヌアクくん、だったかな?いや、魔術士が一度に行使できる魔法にも限界があってだね…」


 怪訝そうな顔で女魔術士を庇うヒースリー先輩。


 いや、それくらいは皆、知っている。だからヌアクもこの辺だけでいいと言ったのだが…。


「えーっと、1度に掘れる穴は“グランドニードル”と同じくらいの大きさとして、6回くらいで彼女の魔素が切れる。」


「えっ?この場で冗談は要らないですよ?」


 真顔で答えるヌアク。


「あと5分だぞ!」


 時計を見ていた1人が急かす。


「ぼ、僕がやります。“ウォータブラスト”!」


 リカルド殿下が凄まじい水流で地面を掘り返す。さっすが、ティア様の弟。同等の威力もしくは少し上かもしれない。あっという間に3本の深い溝ができる。


「明林、深山、頼んだ!」


 2頭のフォレストウルフが前足で一気に穴を広げ始めた。


「あー、リカルド殿下、凄いですね。」


予想外の光景に呆然と佇むヒースリー先輩。「…、いや、これ十年に1人クラスの導師か何かの威力じゃね?」


「「「?」」」


「いや、その理論でいけば、ティア様と、それにイリーナ様が百年に1人の導師ということになっちゃいますよ?」


「僕の姉様なら、今の溝ももっと綺麗に仕上げていましたね。もっとも、姉様の師匠であるアリシア様には敵いませんが。」


「イリーナも、なんだかんだ言って重力?とやらの魔法でやりそうだな。…まあ、アリシアさんに救われたおかげで、魔法の応用の幅が広がったみたいだし。」


 殿下方が頷く。


「じゃあ、アリシア様は千年に1人の導師ってか?俺たちとつるむようなそこら辺の令嬢が、そんなわけないだろ。」


「まあ、でも、アリシア様なら一瞬で海岸線一帯に巨大な溝を作りそう。」


「いや、巨大な壁を作って、ディザスタータートルの群れは見なかったことにするんじゃね。」


「よし、わかった。お前らの基準にしているアリシア嬢…キルシュバウム辺境伯爵令嬢がおかしいんだな。」


 何かを諦めたような先輩。促されるままに、完成した塹壕に潜って姿勢を低くする。


「来たぞー!」


「っ!」


 ヌアクが慌てて緑色の煙を焚き始めた。


----------


 それは、予想外…空からではなく、海からの援護だった。


 沖合から真っ白な2隻の船が迫る。ヌアクから借りた双眼鏡で見れば、それぞれの船の側面には“P12ばしょう”と”P13なでしこ”の濃紺色の文字。


 進路上に居たディザスタータートルの甲羅を押し割り、力強く掻き分けながら前進してくる。


 船尾から何かを投下し始めたかと思ったら、数十秒後、船の後方で巨大な水柱が立て続けに上がり、海が赤く染まる。


 船員が操舵室の左右に装備されている小さな筒を海面に向ければ、筒が火を噴き、船の周囲のディザスタータートルを蜂の巣にしていく。


 そうして、海岸線と並行になった2隻。ついに船首に1基、船尾に2基搭載している大筒をこちらに向けてきた。40mm速射砲とかいう兵器らしい。


 激しい閃光の直後、海岸線のディザスタータートルが文字通り消し飛んだ。残っているのは汚いミンチ肉だ。


 これ以上の観察は流石に危険だった。


 塹壕に籠り、武器を磨くことにする。


「え?何、平然としているんだ?」


「いえ?手持ち無沙汰なもので。」


 俺たちは只終わるのを待っていればいい。当たり前のことを答えたつもりだったが、ヒースリー先輩は何とも言えない表情をしていた。


「やっぱりお前らの基準はおかしいわ。そのアリシア様って、いったいどうなってんだよ…。」


(次回「サモナ諸島沖海戦」。

キルシュバウムに仇なす敵に出し惜しみはしない。私たちは総力を持って立ち向かう!)

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