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2-4 昭和レベルまでチート済みの領でした

(ブックマークして頂いた方、ありがとうございます。

未だの方、是非ともよろしく。)

 レールの継ぎ目の振動が心地良い。


 先ほどまで時速60km/hくらい出してたけど、今は半分くらい。盛り土の上を走っていることもあって車窓が良く見える。


「『間もなく、終点ミズホ市です。お乗り換えのご案内をいたします。環状線外回りは2番乗り場からー』」


 部屋に備え付けの伝声管から車掌さんの案内が響く。


 列車が地上に出て数分。北側から環状線の線路も合流。オウミ湖が見えてきた。


「おおきな湖!まるで海みたい!」


 隣の部屋から来たティアとレベッカが、左の窓にかぶりついている。


 これがお父様の造った人造湖なんて言ったら、もっと驚くかな。


「美しい白い船が浮かんでおりますね。」


 悠然と停泊しているのは、新鋭の桔梗型の巡視船。実は若竹型だったけど、可愛い名前がいいってリクエストしたら全船が花の名前に変わった。


 今見えている船は、船首に濃紺色で書かれた番号がP05だから“杜若(かきつばた)”ね。

 

「わっ!?」


 レベッカが驚いたのは隣の環状線を走る電車がすれ違ったから。


 ミズホ市を出た2両編成の茶色い電車がユフ市へと向かっていく。


 私が前世を思い出したころは蒸気機関車だった。魔の森に逆侵攻して新しい魔石の鉱床を見つけ、バッテリーモータ車になった。そして今は専用の発電所から送られてくる電気を架線から取り入れる電車になった。


 列車はセタ川鉄橋を渡る。増設を重ねた巨大な水力発電所が見える。


「アリシア…これは発展させ過ぎだわ。」


「領の皆の笑顔を見ると、もっともっとってなるんだよね。」


 暫くすると、今度は2本隣の線路に貨物列車が。荷物を満載している分スピードを抑えているみたい。追い抜いていく間、コンテナの壁が延々と続く。


「なんと…これほどの荷物。一度に運べるのも驚きですが…それだけの取引があるのでしょうか。」


「うん。一応、領都だからね。多分、この列車の左側の線に入るから、左はずっと並走状態だよ。レベッカ、右の通路の扉、開けていいから。」


 私が提案するや否や、レベッカが部屋の通路側の扉をあける。


「鉄の馬車が走ってる!」


 高速道路を走るのは生鮮食品や魔物の素材を運ぶトラック。


「ねえ…今、フォレストウルフがトラックを追い抜いて走っていったわよ?」


 それは速達の郵便だね。


 ウチの領、ドラゴンやワイバーンもそうだけど、フェンリルやフォレストウルフとも共存しているから。彼らにも戸籍や選挙権はあるんだよ?


 そんなことを説明していると、ちょうど上空を警備中のワイバーン2頭が近くまで降りてきた。


「あの子…」


 イリーナ様、わかるんですね。


「ゴーレムとの戦いの際に私たちを助けてくれた第二飛行隊のワイバーンです。そして最終決戦の際にイリーナ様を連れてきてくれたのが彼。」


 イリーナ様が手を振れば、2頭はバレルロールして応えてから上空へと戻っていく。


「『―7番線に停車します。貨物をご利用のお客様。貨物車両切り離し後、留置線にて貨物を降ろしますので車内にてお待ちください。さくら2号のご利用ありがとうございました。よい1日をお過ごしください。』」


 列車が、さらにスピードを緩める。ミズホ市のレンガ調の街並みが広がりはじめる。


「おおっ。建物が延々と続いているぞ!」


「これがアリシアの街なのですね…」


 ミズホ市だけで旧王都の1.5倍の人口15万、領の全て合わせれば24万人が暮らす辺境の地…。さあ、私たちが守り続けたものを見てもらいましょう。




 ミズホ駅についた私たちは2番乗り場に移動する。


 ホームには工場勤務の人たちの列。ちょうどそこへ2両を2つ繋げた4両編成の電車が入ってきた。乗っていた人が殆ど降りたのを待って、順々に乗り込む。


 座席は埋まっちゃったけど、立つ空間は十分ある。一応、ウチの公営企業の定時は農林水産業が7~16時、工業が8~17時で、学校関連が9~18時、公務・サービス業が10時~19時とずらしているので満員電車となることはない。通勤地獄ダメ絶対。


 再びオウミ湖湖畔の水田群を抜け、環状線で1時間弱。西のユフ市へ。


 街の景色も一変して、魔の森の木材を全面に出した木造住宅が大部分を占める。


 駅の留置線には、大量の角材や、魔石を積んだ貨車が止まっていた。


 この街の産業だからね。


 他にも製紙工場もあるよ。あ、でも化学薬品は使いません。お父様の話だと、なんか、無茶苦茶臭くなるんだって。公害はダメ絶対。工場排水も領内では川に戻しません。


 改札を出ると、駅前のロータリーには熊ぐらいの大きさの魔石が置かれていて、「魔の森の街ユフ市へようこそ」と垂れ幕がかかっていた。


「本当に…このような大きさの魔石があったのですか…」


 ティアが啞然としている。一度、貴女に見せたかったの。


 魔素の欠乏症を患っていたとき、ずっと探してたんだよね。でも、大きすぎて持ち帰れないでしょ?


「なんて…綺麗…。」


 気づけばティアとイリーナ様が虚ろな様子で魔石に近づいていた。


 マズイ。2人とも吞まれている。慌てて魔石に手を当てて、細い回路を繋ぐイメージをする。魔石が私のコントロール下に入る。


「あ、れ?」


 戸惑う2人。


「ごめん。皆に耐性がないの忘れてた。…なんでレベッカが大丈夫なのかは不思議だけど。」


「ん~なんでだろうね。」


 巨大な魔石は、周囲に場を形成し、魔素持ちの生物を引き込む。それに呑まれて無意識に触れて共有しまうと、容量の差で一気に魔素を引き抜かれてミイラ化してしまう。いわゆる初見殺しってやつ。


 まずは、自分の意識をはっきりとさせること。そして、魔石と魔素を共有しようとしないこと。ウチの領民は正しい扱い方を義務教育で習うもんだから、うっかりしてたわ。


「なるほど、では、領民の皆さんは、どのように扱い方を習うのです?」


「そもそも、魔石の大小にかわらず、共有ってイメージじゃないんだよね。必要な分だけを制御して流すイメージで使うの。」


 この考えは、予め何かの属性を帯びさせた魔石を扱うのにも適している。属性が付与された魔石から必要な分だけ魔素が放出されるように制御して、その属性の魔法に変える。


 一方で、無属性の魔石なら、必要な分だけが自分に流れるように制御して、自分の適正の属性を付与して放出し、魔法に変える。


「必要な分だけ流すってのは、他人に魔素を譲ったり、他人から回復してもらったりするときの流れに似てるわね。」


 そうだ。


「とりあえず、私と手つないで。」


 これは、ウチの領で親から子に伝えるおまじない。


 自身の身体を回路に見立て、魔石と子を繋ぐ。魔素の流れを絞る抵抗の役割、そして逆に引き抜かれないように方向を制御する役割も兼ねる。


「“ウォータボール”とかの初級魔法なら、このくらい。」


 必要な分だけをティアに送る。


「なるほど。」


 そう言ってティアは受け取った魔素だけで“ウォータボール”を撃った。


 イメージがつかめたかな。そのまま魔石に直接触れて魔素の出し入れをしている。


 それからイリーナ様、レベッカの順で。


 レベッカは適性属性が顕れてないから、魔素の流れを意識したことが無いんだよね。まずは手を繋いで…、


「ほわわっ!なんだか身体が火照ってきたぞ。今ならレッドコングと素手で戦えそうな気がする!!」


「ふふっ。何それ。」


 どうか3人に御加護がありますように。


 祈りを込めて、巨大魔石の扱い方講座?は終了した。


「ところで…、あれは?」


 頃合いを見てイリーナ様が魔石の横にあるブロンズ像を指さした。


「あ~やっぱり気づく?ごめん。あれ10歳の頃の私。」


 あの時、フウガの力を借りて、歴史上で初めて魔の森の中心部までを制圧することが出来た。溢れそうだった魔物の数は半減。おかげでキルシュバウムの人々は魔の森からのスタンピードの脅威から解放された。で、その功績として、何故かフウガと契約していた私が英雄として祀られちゃったんだ。


「へぇー人気者だね!」


「にしては、この領の皆さん、普通にされてますね。」


「一応、公務の時にこれでもかってくらい手を振ってる分、私用の時は皆もそっとしておいてくれてるみたいで、そこは感謝しているわ。」


「英雄ってよりは、なんだかアイドルみたいね。」


 もう…恥ずかしいから、移動しよ!


 とりあえず駅前のベーカリーに皆を連れ込む。


 朝食はオーク肉サンドで。あ、公国の貨幣は使えないから。ウチは独自の円貨なので、皆にお小遣いあげときます。


 通りに面した席で外を眺めながらの朝食。


「おおっ!?なんか、同じ服を着た黄色い帽子のちびっ子たちがいるよ!?」


 通学中の小学生の列が店の前を横切る。女子はジャンパースカート、男子は短パンにシャツの制服。ランドセルを背負って無邪気に歩いていく。


「あれは小学生ね。ウチは7歳から義務教育だから。着ているのは学校の指定服よ。」


 ちなみに中学生になると、女子セーラー服、男子は学ランになる。大学校では男女ともにブレザーだ。


 こちらに気づいたみたいで、元気に挨拶して通っていくので、手を振って返してあげる。


 さあ、そろそろ工場が稼働している時間だよ。


 バスに乗って魔の森の採掘場に近い選別場まで移動しましょう。


 路線バスは駅から選別場まで続く貨物線に沿って快走。


 前世と同じシステムとはいえ、貼られた表から迷いなく運賃を理解して投入箱に入れるイリーナ様。ティアとレベッカが「おおー」って感心してたわよ。


 まずは工場見学ね。


 魔の森でフォレストウルフたちが掘り起こした魔石がダンプトラックに積まれて運ばれてくる。


 金網の分別機で何度か振るいに掛け、こぶし大以上の石が残る。ここからは人の目で、ただの石を取り除き、コンテナに積んで貨物で出荷となる。


 巨大なものは軍で管理される。大きなものは大体雷属性を付与され、航空機や車、農耕機械などに、中くらいのものはクーラーやコンロなどに使用される。


「ほえ~」


 口をあけたままベルトコンベアを眺めるレベッカ。


 お土産もあるからね。


 出荷に至らなかった魔石も土砂から選別して加工される。護身用に携帯したり、ライターとか腕時計に使う。そして、


「好きなの選んでいいよ!」


 選別場に併設してある工房では、小ぶりな魔石でアクセサリーも作っている。


「お、自分はこれにする!」


 レベッカが選んだのはカラビナタイプ。実用的ね。


 一方で、ティアはプラチナのチェーンをつけたネックレスタイプのもの、イリーナ様はシルバーワームの糸で編まれたブレスレットに付いているのを選んだ。


 イヤリングやヘアバンドに加工したものもあるのだけれど、重いかしら?


 じゃあ、私はピンで留めるブローチにするわ。


「ティア!火属性を込めてよ!」


 早速レベッカが属性を付与させようと動く。1-2回で壊れるんだから覚えといてよ…。


 でも、いい考えね。ならば私はイリーナ様の闇属性を付与してもらうわ。


「…アリシア。わたくしにも。」


 はいはい。ティアには私の風属性を付与するから。イリーナ様は、…ティアの雷属性ね。


 お揃いのお土産というわけではないけど、皆で自身の属性を付与し合った護身具を持つってのもいいわね。




 再び環状線に乗り、時計回りに北を目指す。


 沿線には桑畑。続いて養蚕小屋や製糸場を通過していく。


「リーナタベルナに納品しているシルクはここで作ってます。」


「そうなのね。本当に品質が良くって、いつも助かってるわ。」


 でしょ。ちなみに、普通のカイコガから作る絹糸は全て輸出用だったりする。


 えっウチ?もう少し西側にシルバーワームの養蚕場があって、その絹糸が領内向けってなってる。


 電車に揺られること1時間。北の軍事都市チトセ市に到着。


 殺風景な鉄筋コンクリート造りの建物が並ぶだけで、観光する場所はないんだけど、ちょっと目的がある。


 まずは昼食の野菜ラーメンと餃子に舌鼓。ティアとレベッカも箸を上手く使い、啜って食べている。残念ながら驚いたり戸惑ったりは無いわね。まあ、一緒にうどん作ったりしたもの。


 でも、流石に自転車はどうかしら?


 軍人さんの基地内の移動のために、駅前には自由に使える自転車が置いてある。


 …いやいや魔法じゃないって。イリーナ様乗りこなしてるでしょ。前世の記憶があるからだけど。


「ぐぬぬ。絶対に乗りこなしてやる。」


 レベッカ…、その様子だと今日中では無理そうだわ。あとでティアにもプレゼントするから。


 結局自転車を押して移動することになった。


 さて、1つ目のゲートを抜ける。事前に話は通してたからスムーズ。あ、今日は私人として来ていますので。余計な出迎えの作法はいらないわ。


 向かう先も、基地内部じゃなくて、併設してる兵器工場と製作所だから。


 じゃあ、またまた工場見学よ。


 ゴーレムたちが機械的な動きで溶鉱炉の湯にワイバーンの鱗の粉体を混ぜる。


 量産工場のラインでは、ここから銃弾や砲弾頭の鋳型に流し込んでいく。この数年で鱗の在庫が増えすぎたため、ついに消耗品にまで使用対象が拡大。おかげで銃弾の魔物への貫通力が増したの。


 そして隣の製作所はハンドメイド。ちょうど錬金術士のヤクモさんが作業をしてた。


 板状で流れてきた素材が熱いうちに鍛錬を行い、不純物を取り除く。予め用意していた炭素鋼棒を熱し、鍛鉄で挟んだら形を整える。最後に焼き入れをして剣の完成。ちなみに剣以外にも槍や盾なども取り扱っている。


「興味あるものがあれば、遠慮なく。レベッカは今の長剣にドラゴンの鱗の粉末を塗布してもいいよ。まあ、初めから混ぜて打ったもののほうがお勧めだけど。」


「一般の人も武器持てるの?」


 いやいや、この世界では普通でしょ。と言いたいけれども、ウチの領民は免許がないとダメです。イリーナ様、前世の感覚に戻ってますね。


「今回は、私が許可出しますのでOKです。」


 さて、レベッカが興味深そうにしているので、いくつか長剣を出して振ってもらう。ついでにバックラーも試着。


 装備をかえて仲間を強化していくRPGかな?魔石のアクセサリーも買ったしね。


「ところで、このミスリルの槍?安くない?」


 レベッカが指さすのは、店の端に立てかけてあった4mもの長さの槍。


 一応はジョイント部分から4分割できるみたいだけど…。


「もっと便利な長距離用の武器があるから、中途半端に長い槍は逆に人気ないのよね。」


 値札の横には避雷針にでもどうぞって書かれている。


「避雷針?」


「地面と繋いで、雷をそちらに逃がすためのものだね」


「う~ん。よくわかんないけど。槍なら母さんか兄さんに聞けるし、これも買いで!」


 いろいろと買ってホクホク顔レベッカ。満足してくれたなら嬉しいよ。


 店を出てゲートへと引き返す。


「アリシア…あちらは?」


 ティアが奥の大鳥居を指さした。


 無骨な建物に囲まれる中、静寂を保った一角。


「この領の平穏を守るために亡くなった全ての人の御霊をお祀りしている神社です。」


 代々繰り返されていた魔の森のスタンピードから領民を守った勇士の慰霊碑や、先の内戦で平和のための犠牲となった王都の市民に捧げた碑もある。


 本殿の裏側には初代キルシュバウム辺境伯爵…先代の勇者をお祀りしている小さな社。私が誓った満開の桜は既に4ヵ月を経て青々と茂る葉桜になっていた。


「アリシアのご先祖様…。お参りしてもいい?」


「うん。」


 ありがとう。


 小さな社の前で皆で手を合わせる。


(初代様、今日は私の親友を連れてきました。私は日常を取り戻し、今を楽しんでいます。この領の皆と、私の親友に祝福を。)


 改めて、不思議と暖かい風を感じる。


 きっと、見守ってくれているんだね。



(そう言えば、本編第6話の最後に銅像を立ててましたね。

キルシュバウム辺境伯爵領の観光は続きます。次回「大切な皆をチートに巻き込むことにしました」。アリシアの言うとおり、皆の強化が進む進む。この2-4、2-5話での諸々が後々の戦いで活きてきます。一体、何と戦うのだか…。)

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