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2-3 (幕間) ゲームの真相~並行世界~

(イリーナたちによって、乗っていたゴーレムごと倒された宰相の息子ムックは、16年の時を遡って日本に産まれ変わり、33年後に自身の前世の世界を美化してゲームにします。一方、そのゲームの話題に気を取られて逃げ遅れた葵は事故に遭い、33年の時を遡って、こちらの世界に産まれ変わり、そしてローズやムックに打ち勝つわけです。

卵が先か鶏が先か…)

「なんなの!あり得ないわ。」


 ヒステリックな声が聞こえる。私の目の前で青紫色の髪の女の子が執事に八つ当たりしていた。


 あれは…私っ!?どういうこと?


 戸惑う私を他所に、目の前のイリーナはサファイアのネックレスを投げつける。


 どうやら、お茶会に出るためのドレスアップでトラブルがあったみたい。


「しかし、お嬢様。先日、御用商人が来た際に、お嬢様が自らこれを選ばれたのでは…」


「今日はそんな気分じゃないの!バーク殿下がいらっしゃるのよ。来年学園に入学する下々もいる。私が最も輝かないといけないのよ!?母のダイヤを持ってきて。」


 無茶苦茶だわ…。それにしても来年学園に入学するってことは、セプテム・アルカナの始まりのお茶会のことだわ。典型的な悪役令嬢のように動く目の前のイリーナ。これは…ゲーム?ってことは夢?…なのかしら。


 場面が変わってお茶会の会場についた夢の中のイリーナ。結局、ダイヤを借りられなかったイリーナはイライラしていた。


 そんなイリーナの目の前を通りがかったのは、くすんだ白髪を伸ばした女の子…。顔は前髪に隠れて暗いし、服は地味すぎる。


 全然印象が違うけれど…ひょっとしてアリシア!?


「ああヤダ。あなた、田舎のにおいがプンプンするわ」


 そう言ったイリーナは、手に持っていたグラスを投げつけた。ブドウジュースを頭から被ったアリシアが泣きながら裏庭へと逃げていく。


(待ってアリシア!)


 謝罪の言葉を口にしたいのに、声が出せない。


 今の私には実体がない…。だだ、目の前の光景を見ていることしかできない。


 グレゴリー侯爵令嬢などの取り巻き3人と一緒になって高笑いをする夢の中のイリーナ。


 一方、裏庭に向かう途中でアリシアはゲームの主人公ローズと出会っていた。


「こんなところでどうしましたか?」


 黒い笑みを浮かべている。


(駄目っ。アリシア気が付いて!)


 叫びたいのに声が出ない。


 ローズはアリシアの手を引いて受付へと向かい、ドレスを借りる手助けをした。


 何度もローズに感謝を伝えるアリシア。


 夢の中のアリシアの家は貧しく、父と母は魔物に襲われて亡くなっているらしい。そうして突然領主にさせられて学園に通うことになった…とローズに打ち明けている。


 泣きながら話すアリシアを優しくなでるローズ…。


(やめて!アリシアを気軽に触れないで!!)


 その後の襲撃事件、やはりローズは青年たちを説得して見せた。多くの貴族子女から称賛の声を受けるローズと、キーキーと叫ぶイリーナの対比は見ていて辛いわ。


 入学までの1年間、ローズは教会で炊き出しの手伝いを行い、偶然お忍びで来ていたバーク殿下とばったり会う。屋台を巡ったり、街中を散策すれば、「これまで対等に馬鹿やって付き合ってくれる人が居なかった」と打ち明けられ、好感度がぐんと上がっているみたい。


 …これで第二王子の婚約者のイリーナが悪役令嬢で決定ね。


 同じ時刻のカエルラ公爵家では、第二王子が振り向いてくれなくなったことにイリーナが苛立ち暴れる。父は仕事を理由に家に帰らなくなり、母は父の不倫を疑い始め、不協和音が鳴り響いていた。兄イグノスはイリーナを恨むようになっていた。


 場面は変わり、ローズは買い出しに行き、練兵場のそばを通りかかったところで、俯いて座るソルティオークに声をかけた。


 自分はこのままで良いのだろうかと悩むソルティオークを励ますだけで、ソルティオークからの好感度はMax.になったみたい。チョロすぎないかしら?


 さらに場面は進み、学園に入学。


 初めての魔法の授業。それは、イリーナが魔法を行使した直後の順番だった。ローズは光属性への適正が判明し、注目を集める。


 ローズは第二王子の付き添いを受けながら、先生に連れられて行く。


 不満なイリーナは先生が居ない間に、ろくに魔法を使えない第一王子ネルソン殿下の婚約者を馬鹿にした。淡い黄髪の令嬢…ひょっとしてティア!?


「あら貴女、第一王子の婚約者なのに、その程度の魔法しか使えないの?」


 そう言って鬱憤を晴らすように闇の魔法を行使するイリーナ。


 ティアを掠めた“ダークアッシュド”。ティアの後ろ髪が見る見るうちに枯れていく。


(ひどい!なんてことを…)


 必死に“クリーン”の魔法をかけても髪は戻らない。


 次第に顔色を悪くするティア、それでも繰り返して“クリーン”を使い続ける。


 終いには魔素が尽きて倒れ込んでしまった。


 慌てて駆けてきたのは緋色の髪の令嬢…レベッカだわ。


 ティアの身体を支えながら涙目で抗議する。


 けど、ワザとらしく聞こえないふりをするイリーナ。


「ああ、事故ね。」


 そう言って高笑いをしていた。


 この場に残った誰もがイリーナには何も言えない立場だった。


 結局、ティアの命は助からなかった。


 レベッカは廃人になってしまったらしい。


 くっ。夢とわかっているのに胸が痛む。


 結果的に第一王子の婚約は白紙になった。


 そこに付け入るのがローズ。


 第一王子ネルソン殿下は元々暗い性格で、第二王子に対するコンプレックスを感じていた。ティアを守れなかったことも心の傷を深める要因となっていた。


 ローズは、そんな殿下に力強い言葉をかけ、これを機に変わろうとするネルソン殿下を応援する。


 第一王子の側近ムック・ビガー公爵令息は、親の操り人形だった。言われるがままに第一王子を利用しようとしたが、ネルソン殿下の変化を受けて、自分も変わりたいとローズに打ち明ける。


 ちなみに、ムックの告発により、ビガー公爵の陰謀が暴かれ、帝国との戦争を未然に防ぐことができたようだ。


 次の場面は家庭内の不和、妹の悪行などに悩むイグノスに寄り添うローズ。


 さらには毎週スニーフ先生から光魔法の特別レッスンを受けるローズ。


 全員のフラグを立てればハーレムルートの始まり。


 あとは攻略対象からの好感度をうなぎ登りに上げていく。


 一方のイリーナ。不機嫌さが加速し、周囲に当たり散らす日々。


 野外実習では、武術課程の生徒たちを「野蛮だ」と見下した。


 1体のゴブリンを取り巻きたちと集団でボコボコにして得意げになり、「魔物なんて大したことないわ」と息巻いていた。


 そして、イリーナの矛先は光魔法を開花させたローズへと向く。


 皆からチヤホヤされるローズを見て機嫌を悪くしたイリーナ。


 魔法の実技をさぼり、取り巻きたちとともに更衣室に忍び込んで、ローズの服を裂いたり、持ち物を壊した。いじめはエスカレートし、食堂では熱い茶をぶちまけ、ついには取り巻きの一人がローズを階段から突き落とす。


(お願い。もうやめて…。)


 私の呟きは声には出ず、目の前のイリーナと取り巻きたちの身勝手な行動は続いた。


 そんな中、魔の森や王都周辺のダンジョンに魔物溢れの兆候が見られはじめた。


 対策に追われる王子たち。


 根本的な解決のため、伝承にあるゴーレムに頼ることになった。


 起動するための条件が揃い次第…とか言っているけれども、既にキーとなる攻略対象は登場済みで、好感度も全て上がっている。


 ローズたちはゴーレムに乗って、王都東のダンジョン、西のダンジョンの魔物溢れを駆除し、スタンピードを未然に防ぐ。


 そして魔の森へ…。


 闇落ちしたドラゴンが魔物たちとともにゴーレムに襲い掛かる。


 あれは…フウガ?すっごく禍々しいわ。


 ドラゴンがゴーレムに組み付き、コントロールルームに大穴を開ける。


 中に手を伸ばし、ローズを掴もうとしたタイミングで一人が飛び出た。


「お父様とお母様の仇っ!」


 アリシアだわ…。


 叫びながら短剣を突き刺そうとしたところでドラゴンに捕まり、引きずり出されていった。「ローズ様、大好きです。」上ずった声を残して…。


(アリシア!フウガっ!…嫌!お願い止めて!!)


 こんなのもう見たくない。


 それに…夢だとしてもアリシアの心をローズに奪われたなんて胸が張り裂けそう。


 でも、私の想いなど届かず、物語は進んでいく。


 ドラゴンの注意が逸れた間に態勢を立て直したゴーレムはドラゴンに覆いかぶさった。


 ローズが光魔法で浄化する。降り注ぐ聖なる光。光に包まれたドラゴンが、周辺の魔物が消えていった…。


 そうして卒業式。第二王子の取り計らいで国王陛下が出席される。…断罪の場だわ。


 攻略した対象に発言の機会が与えられる。


 好感度がMax.に届いた攻略対象はローズへの愛の重さもあってか、完璧な証拠を出してイリーナの悪行を証言。


 国王陛下は、バーク殿下とイリーナの婚約解消を告げ、さらにイリーナの貴族としての身分を取り上げ、島流しとすることが宣言された。


 兄イグノスの温情で僅かばかりの魔石や装備を渡され、イリーナはゴルゴール男爵領の南の小島に流された。


 しかし、実はこの小島、海底ダンジョンへと続いているのだ。


 案の定イリーナは魔物の巣に連れ去られた。泣き叫び、助けを求めても誰も来るはずもない。


 悪役令嬢イリーナはいたぶられ、犯され、真っ暗な闇に飲まれていった。


(…。)


 言葉にならない。あまりにも凄惨で見たくなかったわ。


 場面が変わって王城。


 祝賀ムードの中、攻略対象たちと王都の街並みを見渡すローズ。


「改めて、ここから私と始めてもらえませんか?」


 そう言ったローズの顔に黒い笑みが浮かんだところで私の夢はブラックアウトした。


----------


「変電所設備にトラブルがあったようですが、復旧いたしました。列車動いた後ドアが開きます。ドア付近のお客様、ご注意ください。」


 目の前が急に暗転したかと思うと、喧騒に包まれた。


 あれ…。今度は前世の私、葵が居た。


「ねえ。異世界とか前世ってあるのかな?」


「どうしたの急に?」


 通勤途中の電車の中。スマホを取り出して同僚と話している。


 彼女が見せた画面には事前登録の始まったゲーム“セプテム・アルカナ~7人の望み~”に関する噂が載っていた。


「なんかさ、このゲームの製作者。異世界で生きていた前世を思い出したらしくって、その記憶をネタに今回のゲームを創ったんだって。」


「えー。逆異世界転生?」


「そうそう。例のやたらリアルな勇者とドラゴンの小説“叶えたい願いと叶わぬ運命”の世界から来たんだって。あ、そう言えばあの小説の作者も不思議人だったよね。意外と、世界が繋がってるのかもね。」


(えっ嘘!?そんな話してたっけ。)


 電車から降りた2人は改札を抜け、会社へと歩き出す。


「じゃあ、ゲームの内容って実際にあったことだったりして。」


「あ、製作者の前世はムック?って言うらしくって、『聖女様に味方しようとしたらドラゴンに襲われて死んだ。その世界がその後どうなったのかは知らない。あとは魂が感じたままに制作したって』言っているよ」


「何それ。スタンピード起こっちゃってるじゃん。」


 そんな馬鹿なと葵の笑い声が響いた。


「そうそう。ハーレムルートで好感度が足りないと、ゴーレムの起動が間に合わなかったり、悪役令嬢が生き残ったりして…、もっと酷いことが起きるの。」


「えっ?」


「悪役令嬢がトリガーとなって、なんと海からのスタンピードが…」


 直後、エンジンを唸らせて1台の車が突っ込んでくる。


(これっ、あの日のっ!)


「危ないっ。」


 葵が友人を突き飛ばす。


「(いやーっ!)」


 私と葵の叫び声が重なり、再び目の前が暗転した。


----------


「イリーナ様っ!イリーナ様。」


 気が付けば琥珀色の瞳が不安そうに覗いている。


「これは…夢?」


 起き上がって周りを見る。


 私がいるのは二段ベッドの下段側。周囲は真っ暗な個室。定期的に伝わる振動。


 ああ、そっか。私、皆と列車に乗っているんだっけ?


 ええっと、列車って前世?いや…確かアリシアが…。


 改めて頬をつねる。


 っ。良かった…痛い。


「夢じゃないわ。」


 ってことは、この列車は現実ね。


 前世は通勤地獄で身に染みた周期的な揺れ。今世では初めて身体で感じて…あんな夢を見たのかしら?


「悪い夢を見ていたんですか?大丈夫ですよ。今が現実で、私がそばにいますからね。」


 そっと抱きしめてくれるアリシア。…暖かい。


 悪夢の内容…、前世の記憶と今世の知識が融合して変なことになっているんだと思うけれど、アリシアに話してみた。


「夢だとわかっていても。ショックだったわ。」


「でも、イリーナ様の夢の中の私、ショボいですね。」


笑って言うアリシア。「現実の私なら、スタンピードが起こる前に潰しておくか、逃げていますので。それに、どうせ死ぬならイリーナ様を守って死ねよ。と。」


「…私を残して死んでしまうのなら、アリシアのこと嫌いになるわ。」


 明るい話題にしようとしてくれているのはわかる。でも、嘘でもそんなことは言ってほしくはないわ。


「ええっ。死んだ上にイリーナ様に嫌われるとか…酷い。では、もしそういう事態になれば、私はイリーナ様守った上で、敵対する全てを消し炭に変えることにします。」


 不敵な笑みを浮かべるアリシア。これが冗談ならいいのだけれど、たちが悪いことに、つい4ヵ月前にそれを実行したばかりですからね。


「でも、前世の世界と今世の世界が繋がっているのかもしれないのは面白いですね。そう言えば、『私が嫌々イリーナ様に従っているんだとか、ローズが私のことを必要だと言っている』って吹聴している令息がいましたね。最後の戦いで止めを刺したはずですが…あちらの世界へ行ったのでしょうか…。う~ん。」


「アリシアは…前世の世界に戻りたい?」


 私はいい思い出がなかったから…。でも、アリシアがそう望むなら…戻る方法を探す手伝いを…。アリシアに還ってほしくはないけれども、…アリシアが望むならば…。


「あ、お断りです。」


 そう…。即決ね。


 なんだか安心したわ。


「この世界を生きてわかったことがあります。前世の私の平凡な日々は、実は知らない誰かの日常を守っていた、何かを残していたのだと…。例えばレシートを受け取るときに“ありがとう”と言っていた癖。それは思い詰めたバイトの子の心に響いたかもしれない。たまに家の前に飛んでくるビニール袋を回収してたけど、それが引き起こす事故を防いで他人の日常を守ったかもしれない…。変わり映えのしない平凡な日々をまじめに生きた前世の私…。褒め称えるべきだと感じるようになったから。」


真剣な表情で言うアリシア。「それに今、私は皆と…イリーナ様と生きたい。」


「っ。」


 まっすぐに見つめられて感情が高ぶる。きっと私の頬は赤くなっている。


 アリシアが私の身体を押し倒すのを受け入れる。アリシアの呼吸が頬に伝わる…。心臓の鼓動が響く。


「アリシア…。私も…。」


「『おはようございます。7月7日闇曜日、朝5時45分です。』」

…。部屋に備え付けられた管から車掌さんの声が聞こえてきた。「『長らくのご乗車お疲れ様でした。間も無く列車は地上へと出ます。あと15分ほどで終点ミズホ市に着きます。お忘れ物なさいませんようご準備ください』」


 我に返ってそっぽを向いているアリシア…かわいい。


「ちなみに、便利な生活なら、こっちの世界でもできますよ。」


 そう言ってアリシアが立ち上がるのと、列車が地上に出るのがほぼ同時だった。


 黎明の空の下に広大な畑。何か動いている?よく見てみると…耕うん機!?


 さらには遠くの光の列。高速道路を行き交うトラックのライトだわ。


「むしろこっちの世界に来てくれる方、募集中。技術面では特に電信、それから繊維に詳しい方、文化面ではミュージシャンの方、衛生面で医薬に詳しい方、その他真面目に生きた方、大歓迎です。」


 ちょっとアリシア!?


(ゲームとは違い、現実では続編2-1話のとおり、どちらにせよ聖女の置き土産は爆発するんですけどね。

まずは普通に領内観光します。次回「昭和レベルまでチート済みの領でした」。よろしくどうぞ。)

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