2-2 新たに受け取った領は絶賛チート改造中です
(イリーナ視点で、新しい領へと向かいます。
途中からはアリシア視点で。土木工事や金属の加工まで…土魔法って便利ですよね。)
翌日。仕事のあるダットさんヌアクさんとは別れ、私たちはアリシアの馬車に乗って東へと向かう。周囲は、マーティンさん等キルシュバウム家の護衛の方たちが固めてくれている。
ちなみにカエルラ家の護衛はついていない。というか、つけていない。
まあ、上空にはワイバーンまで旋回しているし、万一もありえないわね…。
さて、私たちの目的地は隣の旧男爵領。アリシアによってプリムラ地区と名付けられた。つまり桜草って意味ね。小さないけれども桜のような花が咲くようにとの願いが込められているんだって。
アリシアの家に引き渡してから3か月。一体どんな風になっているのかしら。
もうすぐ私の実家のカエルラ領とプリムラ地区の境に差し掛かるのだけれども、既に先ほどから気になることはあるわ。
「なんだか、チェリー商会の馬車多くないかしら?」
もちろん私たちの領都が公国の首都になったから人やモノの流れは変わるのでしょうけれども、ここ、キルシュバウム本領から300kmも離れているのよ?
「ああ、名誉会長のお爺様が陣頭指揮を執ってるからねー。」
御者を務めながらアリシアが答える。「ちなみにさっきすれ違ったのは、ウチで製造した上質紙とか本、絹糸、雑貨の輸送隊。今、前からきているのは冷蔵車だから野菜とかフルーツとかビールとかかな。」
指さされた先、真四角の箱が積まれた荷馬車が向かってきている。
れ…冷蔵車って…。
「密閉性を高めた箱で、上部の棚には氷が入っていているタイプです。帰りは海の幸を積んでキルシュバウム領に戻ります。」
「サモナに売ってください。島の漁船に積みます。」
ティアが真面目な顔で言う。
「え、別にいいけど、氷…。あ!ずるい!」
氷を出すのは水属性の中級魔法。結構な魔素を消費するけれど、一般的な人の約8倍もの魔素を保有しているティアなら余裕でバンバン出せるわけね。
「では、チェリー商会の氷は、魔法で出したわけではないのですか?」
「うん。水に適正のある人もいるけど、ティアのような理不尽なほどの魔素保有量はないわ。魔石でやろうと思えばできるけど。中クラスの魔石は全部バッテリーに引き当てられててね。」
えっと?バッテリー??ああ、きっと魔素の保有タンクにするということね。
ちなみにチェリー商会では天然の氷室から切り出した氷を使っているらしいわ。
そんな話をしていると、馬車は領境の小川に差し掛かる。
いつの間にか立派な橋が架かっているし、関所が設置されている。
その門の前で首を傾げる6人の冒険者が居た。
あら、そのうち1人は武術課程側の同期生の子ね。
レベッカが手を振る。
「やっほ~。4日ぶりだね。仕事?」
「いや、今日は休みだから副業だ。全く、チェリー商会様様だよ。」
そう言ってアリシアに頭を下げた。
ああ、そう言えば同期生の子は殆どアリシアにスカウトされたんだったわね。
「えーっと、ひょっとして新しい領主のキルシュバウム辺境伯の御令嬢で?」
リーダと思しき男が近づいてきたので、アリシアが馬車を降りて対応する。
「ここ立入禁止になりましたので、ミニアーノ侯爵領へ行きたい場合は街道を使ってください。」
草むらしかないこの地区に入るのは村民か、ミニアーノ侯爵領へのショートカットに使う冒険者くらい。今、村民は0だから、ショートカットしたいのでしょう。申し訳ないけれど、プリムラ地区を通らなくてもミニアーノ侯爵領へは行けるのだから、街道を使って欲しいわ。日頃から馬車はそちらを使っているわけだし。
「いや、ここ3ヵ月、急にフォレストウルフが出没するとの調査依頼があってだな…」
男がAランクと記されたギルド証を出し、私たちに説明してくれた。
彼らが見つめる先…。関所の脇では、2頭のフォレストウルフが丸太の杭を打ち込んで延々と柵を築いている。もう2頭が鉄のワイヤーを張っていた。
「フォレストウルフに土木工事…。」
思わず突っ込みを入れてしまったわ。
「土木工事なのかよっ!?」
「ほら、言った通りではないですか教官!」
信じられないという表情の5人に対し、同期の子が頬を膨らませている。
あら、ということは、彼は予想が付いていたのね。
「そうです。足元のレッグバンドを見てください。彼らはキルシュバウム辺境伯爵領に所属していますので大丈夫です。ただし、領境を無断で越えると襲いますからね。」
アリシアが胸元からCランクと記された自身のギルド証を見せる。「冒険者ギルドには私からも伝えておきます。」
「あ、あんたサブマスが要注意って言ってたっつつ!?」
女魔術士が声を上げようとしてリーダの男に捕まった。
「すまん、こいつも新入りでな。それなら俺たちは帰るわ。じゃあな。」
「皆様、お元気で!」
「ちょ…ちょっと。あんた!知り合いなのっ、後で話聞かせなさいよ!っていうか放しなさいよ!」
「いや~、今回の新人2人は話のネタが多いな!」
暴れる女魔術士が引きずられていく…。まあ、さすがはAランク冒険者のいるパーティ。しっかりと状況判断ができるんだわ。ちょっと謎なセリフもあったけど。
一方でアリシアがフォレストウルフに手を振る。4頭は「クォオン」って鳴いて答えてくれたわ。ああ、さらに関所の警備も担当させてるのね。
「3人には教えるけど、あの柵のワイヤー、最後に雷属性を付与した魔石と繋げるから。」
「…恐ろしいわね。」
関所を抜けると、目の前に広がるのは丘陵地帯。やはり海風が強いせいで低い木や草しか生えていない。何もない地だったはずなのだけれど。
「すごいね。ここ、いつから立派な道がついたのさ?」
レベッカが物珍しそうに眺める。だだっ広い真っ白な道路が丘に向かって真っすぐにのびていた。
「舗装は化け貝の殻を灰にして造ったの。沖合に爆雷投げ込んで網引いたら大漁でした。」
「…。突っ込みが追いつかないわ。」
「とりあえず、プリムラへようこそ!驚くのは丘2つ向こうからだよ!」
…そんなこと言われると期待と不安で複雑な気持ちだわ。
私たちの馬車は丘をのぼり、いよいよ向こう側に隠されたプリムラ地区の秘密へと向かって進み始めた。
-----30分後、アリシア視点-----
「うわー。広いぞ!」
2つほど丘を越え、馬車で30分。私たちの目の前に、意図的に平らにされた広大な敷地が広がる。敷地内には大きなテントがいくつも張られており、中ではワイバーンたちが休んでいる。ここからは見えないけど、テントの他にも倉庫や格納庫もあるよ。
えっワイバーンの繁殖地?いいえ違います。ほら、舗装された直線部分を見てください。イリーナ様は多分わかると思う。
「ワイバーンはジャンプして飛べるし…。まさか滑走路?これはひょっとして…」
「正解。飛行場です。」
「飛行場?ですか?」
ティアとレベッカに簡単に説明するなら、飛行機…騎獣なしに空を飛べる道具が飛び立ち、舞い降りる場所です。残念ながら開港したばかりなので説明できる実物がない…。
「オレンジで区切られた線は?」
「あ、それは艦載機?の練習用の線だって。」
簡単に言うと、大きな船で飛行機を運用する練習用の線だね。
「百聞は一見に如かず。海まで競争!」
こういう青春、やってみたかったんだよね。
今しか滑走路を歩けないんだから!
風の魔法のサポートも合わせて本気で南へと走る。
36と数字の書かれた端までくれば、断崖絶壁の下を覗ける。
「で、こっちは何?」
「ふえっ!?」
ピッタリ背後にイリーナ様が居た。
しまった、“影飛び”の魔法。ずるい!!
「ねえ、ここ、岩場じゃなかったっけ?」
「ええ。そのはずですが…。」
うん。確かに引き渡された3ヵ月前までは岩場だったよ。
「お父様が土魔法で港にしちゃいました。」
右側の岸壁には全長25mくらいの帆船が4隻横づけされている。チェリー商会の商船ね。
岸壁には大きなクレーン車が止まっていて、帆船から木箱を運び出していた。
「…まさかのクレーン車…」
だって、便利なんだもん。
「これは、なんとも積み荷の移動が捗りそうなものですね。わたくしたちも木の櫓を組んで滑車をつけてみましょうか。」
ティアとレベッカは目を輝かせている。
2人は船での交易で繋がりを持っただけに、港には興味深々みたい。
「あっちではもっと大きな櫓を造ってるよ!」
レベッカが左の岸壁を指さす。
イリーナ様、頭抱えてどうしました?
「やめて…敢えて現実を見ないようにしてたのだから…」
左側の岸壁は造船所になっている。
エンシェントドラゴンのフウガがいて、ガントリークレーンっていう造船用のクレーンを組み立てていた。
フウガと契約している私はフウガの魔素も使える。その膨大な魔素をすら、この地区の改造で使い切ってしまったので、フウガは地上でお仕事ってわけ。
「造船…ですか?こんな巨大な?」
「うん。ほら、フウガの後ろ見て。」
少し位置を変えれば、水の張っていない2つの巨大プールが見える。S2番船とS3番船の建造を行っているみたい。
組み立て手順は、分厚い鋼板の外殻をブロックのように組み、土魔法“アイアンウォール”の応用で接合。その内側に木材を当てる感じ。S3番船のほうはちょうどその作業中みたい。
船の先端側で、ワイバーンが鋼板のカーブに合わせて魔の森の木材を曲げ、複数の大工さんが鉄板から飛び出たボルトとナットで結合している。
一方で、後方側。まだ木組みの屋根の付いていない船体に、幅いっぱいを占拠している大きな三角形と円筒の箱が見える。
「お父様の話では、三角形のユニットには火属性の魔石で炭を燃やす混焼水管ボイラ?が、横に寝かした円筒の中には蒸気タービンが入っているそうです。要は、エンジンですね。今回はフウガが載せてくれましたが、次からはクレーンで搭載します。」
このボイラと蒸気タービンは、複数個所の火力発電所の新設をキャンセルして捻出された。
遠距離の送電は効率が悪いからって小型の発電所を発注していたのに…お父様の「船は男のロマン」理論で取られた。しかもS1番船と、同型船のS3番船に2セットずつ。
お父様の話では、船首側と船尾側に分けて積んで万一に備えるんだと。
これが別の型になるS2番船とS4番船は4セットずつ要るって言われた…。
ただ、6年も前から10分の1の模型を組んだり、実験してたなんて言われたら…、お父様の好きにさせてあげたいじゃない?
「でも、なんか細長くて転覆しそう。」
あらレベッカ。意外と物知りね。私も指摘したんだけど、あれ、船体中央部の左右に小さな補助胴を付けて、クラーケンに襲われても転覆しないようにするんだって。
「ほら、奥の岸壁に繋いでるS1番船みたいな感じに。」
2つのプールの向こう側、艤装岸壁って言うところに特徴的な三胴のシルエットが浮かんでいる。進水?を終えたS1番船の護衛艦“八重桜”は今、配管の接続とか、内装工事とかをしているんだって。
「…アリシア。完全にやらかしているわよね。これ自衛隊の戦艦よね?」
「う~ん。お父様はS1、S3番船は護衛艦、S2番船は空母、S4番船は補給艦だって言ってるけど?」
ちなみにS2番船は、“全長160m三胴船空母。支援戦闘機ムラサメ1個飛行隊を運用する。真ん中の胴は幅10mで、ボイラおよびエコノマイザ4基と4500馬力の蒸気タービン4基を搭載。煙突は右下に。左側の胴の上にあるのは艦橋。右斜めに向かうのが着艦用の甲板。ウチの複葉機のモータは左回りなので問題ない“ってお父様が言ってました。
「前世の記憶を持ってしても理解不能だわ。」
「まあ、私のお父様凄いってことです。あ、ちょうど来ましたよ。」
崖下で手を振っている集団が見える。
じゃあ、ついでだし下に行ってみようか。
皆を引き連れて格納庫脇の倉庫に来た。
壁のボタンでB3を押せば、縞々ロープで囲まれた床が下がる。
「おおっ!?」
ほら、レベッカ落ち着いて。確かに私も初めて体験したときは驚いたけどね。
エレベータがゆっくり降下。地下1階はホテル、地下2階はあとでのお楽しみ、地下3階がさっきの崖下の港に繋がっている。
トンネルから外に出れば、暮れかかる港湾の風景が広がる。
ちょうど通船を降りてきた4人は、私のお父様とお母様、それにお爺様とお婆様だ。
「貴方は!?」
「ふぉふぉ、ティアちゃんにレベッカちゃんか。久しぶりじゃのう。」
お爺様が笑顔で答える。え?知り合いなの?
聞くところによると、お爺様、ティアの恩人なんだとか。意外と世間は狭いのね。
「この方がアリシアのお爺様?」
おっと、イリーナ様には紹介しますね。
「私のお爺様、チェリー商会の名誉会長です。造船の監修と船員の訓練のために来てもらいました。」
海が大好きで、自ら舵を取ることも。そのせいで、ウチの領が発展してからも、一年の殆どをサモナの別荘を拠点に過ごしている。
プリムラ地区を手に入れたんだし、お爺様とお婆様のための別荘、こっちにも建てるから、もう少し頻繁に会えないかなぁ。
「親父には“八重桜”の艦長を、お袋には“八重桜”の航海長を務めてもらうことになっている。当面の間はウチに腰を据えて貰うさ。」
「にしても、帆の要らない船とは、世界は進んだのう。しかもかなり速いと聞く。」
でしょ。お爺様も便利な生活がいいでしょ。
「フジツボも付きにくいな。」
「ほう、船の速さを落とす厄介もののフジツボつかないのか?」
お婆様の言葉にお父様が答える。
「ああ、ヤクモがワイバーンの鱗の粉末を塗布してくれたんだが、表面がサメ肌みたいな感じになってる。」
へえ。知らなかった。フジツボって悪者なんだ。
っていうか、錬金術士のヤクモさん、ウチの開発に無くてはならない人だよね。同じ土魔法の使い手だけど、魔物の素材の扱いは、私やお父様とは比べ物にならないほど上手。
私の細剣をフウガの牙から打ってくれたのもヤクモさんだ。
私たちは、前世日本の建造物の知識はあっても、この世界の魔物の素材の扱いに関する知識は薄い。まあ、適材適所ってことかな。
そう言えば魔物の素材で強化…まるで、あの巨大ゴーレムを生み出した100年前の伝説の錬金術士みたい。確か私のご先祖様だって話だから、ヤクモさんも子孫なのかな?
「さて、じゃあ夕飯食べて帰るか。親父はどうする?」
「では、久しぶりに帰るかのう。ああ、ワイバーンの背中は止めてくれ。わしゃ空は苦手じゃ。」
あ、もうそんな時間なんだね。
じゃあ、夕飯のついでに、久しぶりにお爺様の冒険譚でも聞かせて貰おうかな。
崖の中に埋め込まれたホテルのレストランで夕飯を食べ、4人部屋で皆でくつろいだ。
ついでに備え付けのシャワーを浴びて寝る準備も整えれば、出発準備完了!
皆が「これから移動なの?」って不思議にしているけど、その通りです。
さっき秘密にしていた地下2階でエレベータから降りる。
明るいコンコースを通って改札へ。
ホテルとは違った雰囲気にティアもレベッカも興味津々。イリーナ様は気づいたみたいですね。そうです。地下2階は鉄道の駅です。
実は、この線路の先、貨物線が港の脇まで続いていたから、薄々予想していました?
駅員さんから終点までの切符を4人分購入して改札を抜ける。
ホームには既に列車が止まっていて、お父様たちが待っていた。
「まさか…地下鉄がキルシュバウムまで繋がっているの?300kmはあるわよ?」
お、イリーナ様、またまた正解。
「正確に言うと、キルシュバウム領内でも南端から領都まで100kmはあるので、終点まで400km。7時間半の地下鉄旅です。」
「地下鉄?ですか。この洞窟が延々とキルシュバウム領まで続いていて、この馬車?で移動するというわけですか。」
「このトンネル…土魔法?まさかアリシア、貴女が魔素不足になったのって…」
はい。大正解!
とは言っても私が造ったのは旧王都公館からこっちまでの100kmだけどね。突貫工事のせいでフウガの魔素まで使い切ってしまったわ。
お父様が一人で領都ミズホ市から旧王都公館までの300kmを5年かけて造ったのは、本当に凄いことなのだと思い知らされた。
円筒のトンネル掘って、上下半分に区切って、下に避難通路作って、上は土魔法でレールをせり上げて…その後で幅を微調整して…。
あ、旧王都公館からこっちは未だ架線を引けてないので、今日乗るのはモータ車です。って言ってもわからないと思うよ?お父様。
列車は10両編成。うち両端の2両はモータ車、中央の6両が貨物車両になっている。
キルシュバウムからプリムラに来るときは、真水や、建材だったり、公国で売る品々を積んでくる。イリーナ様のブランド店、リーナタベルナに納品する蚕糸も積んでいるよ。で、帰り便でリーナタベルナの化粧品を大量に領に持ち帰る。ミニアーノ侯爵領で採れた綿や、プリムラで水揚げされた海産物もだね。
残る2両が客車。全てベット付の個室タイプだよ。トイレはデッキにあるから。
早速乗り込み、ティアとレベッカを5番個室に案内する。私とイリーナ様は隣の4番個室だから、何かあったら言ってね。
「『お待たせいたしました。22時30分発、さくら2号ミズホ市行きです。』」
「『うわっ!?』」
「『途中の外宿に0時30分の到着、1時に発車し、ミズホ市の到着はー』」
部屋に備え付けの伝声管のこと言うの忘れてた。レベッカの驚く声が2号車全体に逆伝播しちゃってるわ。
イリーナ様も苦笑している。
「『発車します。ご注意ください。』」
車掌さんの笛の合図で列車が動き出した。
「『凄い!凄い!動いてるぞ!』」
相変わらずレベッカがはしゃいでいるのが丸聞こえ…。とりあえず、隣の部屋に行って、伝声管に蓋してきますね。
(本編2話のとおり、アリシアのお爺様(3代目キルシュバウム辺境伯爵)はチェリー商会を立ち上げた人です。ティアやレベッカとの関係はおまけの幕間 (第12.5話)「ティアとレベッカ」で。
一旦、幕間を挟んだあとで、ついに隠されたチート領へ向かいます。)




