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幕間 (第12.5話) ティアとレベッカ

(本編12話「13歳 王都に来ました」の後、13話「14歳 再会」の前に入る予定だった幕間の話です。

11話「13歳 新たな出会い」の裏話でもあります。

ティアの話は続編にも繋がってきます。)

 長剣の柄を両手でしっかりと握り、相手に突き出して牽制する。


 先ほどまでの打ち合いで腕が悲鳴を上げている。


 以前の自分ならここで捨て身で突っ込んでいた。でも、いいかげん冷静にならなくっちゃ。


 ちょっと考えてみよう。


 相手は盾を前面にして、持久戦の構えを見せている。…けれども、盾を持つ手が震えているみたいだ。相手も辛いのかな。


 と、自分が下手に考えようとしているのがバレたのか、相手が踏み込んできた。


 横に飛んで躱し、勢いのままに横なぎ一閃を打つ。


「甘い。」


「うわっつ!?」


 相手の盾に弾かれてワンテンポ遅れた瞬間、曲刀が目の前にきた。


 慌てて左ひじを曲げて腕のバックラーで防御の姿勢をとるけど間に合わない!


「そこまでっ!」


 兄さんの合図で、模擬戦は終了した。


「うぐぐっ。また勝てなかった…」


 悔しいぞ。


「まあ、落ち込むな。お前は成長している。レベッカは周囲の様子をしっかりと見れるようになった。合格だ。」


「護衛は相手に勝つ戦いをすることが目的じゃない。今回は十分に時間を稼ぐ戦いができていたと思いますよ。」


 兄さんに続いて、今回の模擬戦相手ダットが言う。


 彼はミニアーノ侯爵領のとある荷運び家の息子なんだけど、腕が良いことから父さんが引き抜いた。2年後には侯爵家の支援でセントレア学園に通ってもらい、兄さんの下で次世代の領軍の指揮官になってもらうために。


 自分がティアの騎士になったから、兄さんが侯爵と王国軍務大臣の職を引き継いだときに、領に残って現場指揮を執る人間が不在になるもんね。




 ミニアーノ侯爵領はオステン王国の南東に位置している。米、枝豆、綿花が主な作物で、夏から秋にかけては田畑を荒らす大型魔獣との戦い、そして冬には東の帝国との小競り合いが毎年起きている。


 自分はオステン王国で軍務大臣を務める父さんの娘として産まれた。父さんは大剣を軽々と担げるし、母さんは薙刀の名手だった。そして兄さんは早くから槍の才能が開花していた。


 一方の自分、そんな親兄弟に揉まれつつも、絵本に載っているような、颯爽と人を守る護衛騎士に憧れてた。


 ただ王国って、軍と騎士団は仲が悪いんだよね。


 魔物退治や外国との荒事に対応するのが主な任務の軍。一方、警護や治安維持を行うのが騎士団。軍人は効率を追い求め、騎士団は抑止力のために華々しさを追求した。


 剣士でも、魔術士でも、軍に所属しているのか騎士団に所属しているのかで装備が全然異なっていた。


 父の仕事に付いて王都に行ったとき、自分は騎士団の訓練をコッソリ見に行った。


 そこで騎士団長の息子、ソルティオークに突っかかられた。躍起になって対決を挑んで…負けた。


 女の子と男の子の差もあったけども、装備の差もあった。自分が長剣の両手持ちなのに対して、相手は突剣(レイピア)と少し大きな盾を持っていた。


 自分の攻撃は簡単に防がれて、突剣(レイピア)で突かれた。


 …悔しかった。


 父さんと兄さんにバレた。でも、2人とも脳筋だから、「勝てるように特訓だ!」「軍のほうがいいぞ」なんて…。


 まあ、深く悩まずに動くのがウチの家のいいところなんだけどさ。


 母さんからは相手を倒すことを目的とする軍の戦い方と、味方を守り逃がす護衛騎士の戦い方は違うのだと、いろいろと教わった。


 自分が身に着けた戦いかたは騎士に向いていない。夢が断たれた感じだった。


 流石に泣いたぞ。


 けど、10歳のころ、ミニアーノ侯爵領の沖合のサモナに遊びに行ったときに運命が変わった。


 偶然、王宮の庭で本を読んでいるティアを見つけて…、その時は遊び相手を探していたから、外に連れ出した。で、いろいろとあってティアから傍に欲しいって言われて、11歳のときに正式に迎え入れられたんだ。


 家族皆が喜んでくれた。なんだかんだ言って父さんも母さんも、そして兄さんも自分の夢を応援してくれてたみたいだ。


 憧れの騎士になれた。しかも王女様の騎士。


 いろいろとやらかしたりはしたけど、充実していた。


 でも、ティアが魔素欠乏症に罹っていることがわかって…王国に戻ってきて、ティアや周りを命の危険に晒した。ティアの症状を止めてくれた銀髪の綺麗な女の子にも注意された。


 自分がティアや、周りの様子をしっかりと見ていなかったからだ。


 あんな思いは二度としたくない。あの日に固く誓ったぞ。


 自分は、家に引き抜かれていたダットから周囲の人の息づかいを読むって技術を教わった。


 荷運び家が大切な荷物を賊から守るための技。模擬戦や街歩きで少しずつ身に着けた。


 ティアの魔素欠乏症が再発する可能性も考え、森へ魔石集めに行くときは、魔物の呼吸というものを兄さんから習った。


 そうしていろいろと学んで1年。今日、合格を貰った。ついに自分たちは王都へと向かう。


 王都の東のダンジョンへ行けば、品質のいい魔石を集められるから。


 もちろん、自分たちでダンジョンの中へ行くぞ。上の階層は初級者でも簡単なんて言われているのに、軍務大臣の娘が足を運ばないなんてありえないからな。


 ちなみにティアも一緒にダンジョンに行くって。


 まあ、ティアは言い出したら聞かないからなあ。…口で何言っても自分の方が説得されてしまう。


 ともかくティアと一緒に、王都のミニアーノ侯爵家公館を拠点に活動する。


 サモナ諸島の公館は王都じゃなくてミニアーノ侯爵領にあるからね。


 そして16歳から王都のセントレア学園に通うダットも、今回の移動で一緒に向かう予定だ。王都で父さんから指導を仰ぐらしい。自分も一緒に受けさせてもらおう。


 あの生意気な騎士団長の息子を、逆にボコボコにできるくらいまで強くなるんだ!って思うのは、自分もミニアーノ家の令嬢なんだな。


「ティア、お待たせ…あれ?寝ちゃってる?」


 待ちかねたのか、木陰で気持ちよさそうに眠るティア。


 今度こそ自分が守るからな!


----------


 サモナ諸島はオステン王国ミニアーノ侯爵領から150kmほど南にある王政の島国。


 四季があり、冬はそれなりに寒いです。


 斜面には柑橘や茶の畑が点在し、牧羊が盛ん。内湾では多くの魚が捕れます。


 ああ、海鳥も美味しいですよ。皆、弓が上手いので3日に1回は食卓に並びます。


 ただ、長閑な島国かと言えばそうでもなく、北の大陸と南の大陸の交易の中継拠点として、栄えています。人口は3万人ほどでしょうか。


 この国は遥か昔、王国の東、エスタニア帝国の内戦で敗れた皇族が流刑になって興されました。わたしの名前“ティア・ティール・サモナ”のようにミドルネームが入るのは帝国の名残です。


 そんな背景を持つからこそ、小国としての臨機応変さと、大国にも舐められない教養と文化を兼ね備えている。そんな話を聞いたことがあります。




 夢を見ました。


 それは、3人の恩人が出て来る夢。


 幼いころのわたし。小さな箱庭で生きていた。


 無意識のうちに、外を知りたかったのでしょう。


 書庫にある本を貪欲に読み続けておりました。


 ある日、王宮の垣根から緋色の髪の女の子が顔を出した。「だあれ?」と聞いた返しが、「一緒に探険しよう。」だった。手を引かれて植え込みの外へ連れていかれた。…一歩間違えれば誘拐でしたわね。


 途中で牧羊犬に追いかけられた。果敢に棒切れで守ってくれた。水たまりを踏んでびしょびしょになった。「えへへっ。泥だらけだね。大丈夫?」と明るく笑ってくれた。


 太陽みたいな娘だった。それがレベッカ。


 「もうお家に帰りたい」と泣きそうになる寸前、目の前に大きな夕日が大洋に沈み行く幻想的な光景が広がった。とても綺麗だった。それがわたしの初めての大冒険。


 レベッカはわたしを初めて世界に連れ出してくれた人。


 わたしは彼女を強く望み続けた。




 11歳の時、レベッカはわたしの騎士としてサモナに迎えられることになった。


 サモナのお気に入りの景色を見せたくて、レベッカと内緒で小舟に乗った。


 子どもだけで乗るのは初めて。手漕ぎ舟は思うように進まず、沖に流されてしまった。


 水も食料もなく、泣くしかありませんでした。


 そんなわたしたちを助けてくれたのが、名もわからない商船団でした。


 丁度サモナに寄港するところだったとのこと。


 無事に家に帰ったわたしたち。


 父上からは海を甘く見てはいけないと叱られました。


 母上からは大型の商船が止まってくれることは稀だと。助かっても奴隷にされることもあるのだと。無償で家に帰してくれたことに感謝しなさいと言われました。


 レベッカとともに船団長のお爺さんに凄く感謝しました。できる限りのお礼をしたかったのです。


 そんなわたしたちに船団長のお爺さんは「恩に思うなら、その分だけ隣人を、誰かを助けてあげなさい。また自分に良いことが返ってくるから。」と。


 その言葉がわたしたちを突き動かしました。


 わたしは懸命に知識を、そして魔法を身につけた。


 真水を出し、魚を焼いて島民たちを支えた。島では真水や木は貴重な資源ですから。


 レベッカも力仕事を手伝ったり、時に浜に上陸してくる魔獣の駆除にも活躍しました。


 島民からは感謝された。魚や柑橘の差し入れも貰い、良くしていただきました。




 けれども、長くは続かなかった。


 わたしの魔素が回復しにくいことがわかったから…。


 自然に回復する速度が遅い。すなわち魔素の欠乏症。特に保有魔素の多い魔術士の10人に1人くらいが発症する病気でした。


 できるだけ身体の魔素を使わない。減ったら魔石から魔素を補充するか、他人から魔素を譲渡してもらうといった対策しかないとのこと。


 父上が大陸から魔石を輸入し始めた。魔石は海の魔獣からも一定の割合でとれますが、安定した量の確保が必要でした。


 ただ輸入した魔石も魔獣からとれた魔石も小ぶりなため、一回の“ウォータボール”で壊れてしまう。


 さらに追い打ちをかけるかのように、オステン王国内での魔石の流通が減少。


 噂では西の人間が買い占めていると。


 結局は人から譲渡して貰うしかない…。そして、この島の民で魔法に変換できるほどの魔素を持つ人間は王族しか居ない。最終的には父上や弟から細々と魔素を補充してもらう日々。どうしようもなく泣き続けました。


 そんなわたしを再び動かしたのは、あの時のお爺さん。


 商会は息子さんに譲ったらしく、父上の客人としてサモナに別荘を建てていました。


 曰く、オステン王国の北西にある魔の森という場所では地中から巨大な魔石が産出されると。大きな魔石は簡単には壊れず、外部装置として使えると。


 お爺さんの商会のルールで魔の森の魔石は持ち出せないらしいですが、似たような魔石なら他の商会が扱っているのを見たことがある。流通が減少しているとはいえ、直接王国内で探せば、手に入れられる可能性があるのではないかと。


 わたしは父上に王国行きを直談判しました。


 父上は難色を示した。それはわたし自身が行かなくても良いですから。


 でも、ただ待っていることはできませんでした。


 レベッカの実家、ミニアーノ侯爵家の助けを取り付けました。


 わたしは、常にレベッカと行動を共にすること、サモナから1名、ミニアーノ侯爵家から1名の護衛が付くことを受け入れ、12歳で王国へと渡りました。




 王都でも探しましたが、小売店では小さな魔石すら品切れ…。


 何件か大きな商会にも相談しましたが、全て門前払いされました。


 どこで聞きつけたのか、王国の第一王子派だという使者が来て、第一王子との婚約を打診されました。婚約すれば定期的に魔石を譲ってもらえると…。


 その話は胡散臭く、仮に本当だとしても王国の後継者争いに巻き込まれることは必須。


 わたしは回答を保留しつつ、一縷の望みをかけて北へと向かうことにしました。魔の森へ。持ち出せないと聞いてはいましたが、そこに大きな魔石があるのは確かなのだから。


 あの頃は焦っていたのでしょう。自然に回復する量よりも自然に発散する魔素の量のほうが多くなっていましたから。それを隠しながら進んだのは良かったのか悪かったのか…。


 グレゴリー侯爵領を通っている最中、偶然目の前でひったくりが起こりました。


 レベッカが自然と飛び出していた。


 あのお爺さんの言葉がレベッカの胸にも刻まれていたのでしょう。


 けれども、ひったくりの少年たちは通りがかった女の子を人質にしようとして…。


 わたしは残った魔素を全て込めて“ウォータボール”を放ちました。


 バランスを崩した少年たちはノックアウトされ、女の子は助かり、ひったくられたバックも戻った。


 気弱そうな女性は深々と頭をさげ、大事そうにバックを抱えて帰っていく。


 朦朧とする意識の中、見たのは白銀の髪の天使…。それがわたしの第3の恩人との出会い。


 あのとき何か詰まっていた流れが解消されたような感覚がした。一瞬でわたしの…成人平均の8倍の容量を全回復するような流れが、きっかけとなったのでしょう。


 魔素の欠乏症の症状が無くなっていた。


 …名前を聞いていなかったことが悔やまれますが、身に着けていた銀の桜の腕章を見るに、チェリー商会の関係の方でしょう。この恩は忘れません。


 わたしはサモナ王女としての立場をフルに活用しながら、力をつけ、彼女が困ったときに助けられるようになると固く誓いました。




 …少し、打算はありましたよ?わたしの保有魔素を一気に全回復させられるような方との関係は繋いでおこうと。


(なお、この後、成長したレベッカは本編18話「対決」でリベンジに成功しました。

次回、24.5話モニカが見たもの。2週間ほどお待ちください。)

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