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(23) 終末に向かう王国で私は…


「《王国の民に告ぐ。》」


 それは全てのオステン王国の民の脳裏に響く、一方的な声だった。


「《これは諸君への最後通告である。我らは腐った王国に鉄槌を下す。決して自分は関係ないと思わないほうがいい。姑息な手段で権力を得て王を名乗る若造や聖女とやらに恭順するならば、粛清の対象となると覚悟せよ。》」


「おい、聞くな!これは反乱軍の策略だ。」


 聖女の信者たちが耳を塞ぐように言うが、意味はない。


「《半刻だけ猶予をやろう。恭順しないというのならば白旗を空に掲げて示せ。何もしないのは恭順しているのと同じとみなす。》」


----------


 誰も居ない外宿で屋根に立って見れば、朝焼けに照らしだされる王都北西の外郭の壁。そして、壁越しに見える尖塔の場所が…イリーナ様が捕らわれている王城。


 少し視線をずらせば、城下…多分、王国軍の駐屯地にあのゴーレムが立っている。


 そんな異物を迎えても、目線を手前にやれば、朝食を作っているんだろう…炊事の煙が幾筋も王都に立ち昇っている。


「《どこにも白旗は無い。》」


「そう…。」


 皆、自分たちが既に日常を離れ、戦時下にいることなんて思いもしていない。自国の王が戦争を宣言し、フウガが応戦を通告したにもかかわらず。


 私はキルシュバウム辺境伯爵領からワイバーンに乗って、王都郊外の外宿まで来ていた。私の日常を取り戻すために!


 先に地下鉄で5時間かけて来ていたユーリたちと合流。準備は整った。


《全ワイバーン、オンステージ。アリシア…始めるぞ!》


 上空にスタンバってるフウガが念話を伝えてくる。あとは私の決意だけ。


《ええ。作戦を開始する!》


 覚悟を決めて答える。


《うむ。攻撃始めじゃ!》


 北の空から、32頭のワイバーンが羽ばたきながら迫る。


「《第一小隊目標、王国軍魔法士団駐屯地兵員宿舎。第二小隊目標は騎士団宿舎。投下…(ナウ)!》」


 それぞれ4頭のワイバーンが120kg爆弾を持って急降下。


 フウガの合図と同時に投下。猛烈な爆炎が立ち上るのが見えた。


《目標を破壊。奇襲成功。アリシア、行け!》


《わかった。そっちは任せた。》


《うむ。続けて次の目標を破壊する。》


 屋根から飛び降り、地下への穴に潜る。


 背後から遠雷のような音が響く。


 地下のホームには、私たちが乗ってきた武器満載のモータ車。


「出して!」


 私が乗り込むと同時に、特別仕立ての列車が王都へ向かって進む。


 途中、もわっと気持ち悪い空気の境目を通過したかと思うと、脳裏にローズの笑顔が浮かんでしまった。


《アリシア大丈夫か?》


 私の呼吸が乱れたのを感じ取ったのか、フウガが不安気に聞いてくる。


《大丈夫。予定通りいくわよ。》


《恐らくはローズの“魅了”の汚染範囲に入った。一度“魅了”をかけられたアリシアには特に負担が大きい。60分で、範囲の外へ脱出しろ。》


《わかった。》


 しばらくすると、今度はくぐもった音が複数回にわたって続く。


《むっ。ゴーレムの破壊は失敗。繰り返す。ゴーレムの破壊は失敗。》


《作戦に支障は?》


《わからん。未だゴーレムは稼働していないが…120kg爆弾4発に耐えられた。》


《他の目標は?》


《ビガー公爵家公館をはじめ敵対貴族の屋敷、公館8か所を破壊。》


《オッケー。作戦続行。》


 境目から15分くらい進むと、モータ車のライトが大きなバッテンのマークを照らす。終点の王都公館駅だ。


「止めて。」


 甲高いブレーキ音が響き、火花が散り、列車が止まる。


《さっきの地点までの脱出を考えると、あと30分。》


《了解。》


 飛び降りて、目印の付いた壁に手をあて、


「“グランドウォール”!」


 フウガの魔素も借りて一気に王城の地下に続くトンネルを掘る。


「全員、続け!」


 風の魔法も併用して、トンネルを駆ける。


「「はい。」」


 私のメイド、ユーリを先頭に15人の精鋭が続く。


 500mほどで、トンネルは薄汚れた石壁にぶち当たっていた。


「“ストーンウォール”!」


 石壁を動かすイメージで魔法を行使するけど、石壁は全く動かない。


 王城の敷地内では魔法が使えないようになっている。つまり、この石壁からが王城の敷地。


「ユーリ、爆弾セット。」


「はい。お嬢様。」


3発の75mm砲弾を石壁に向けて固定し、私たち側は“アイアンウォール”で蓋をする。


《フウガ!》


《カウント10で起爆じゃ。》


「起爆までカウント10。」


 心強いサポート。フウガと一緒に10を数える。


《「5、4、3、2、1、今!」》


 ユーリが点火すると、ズシンっと衝撃が来る。


 同時に真上からも数回の揺れが伝わる。


 事前の打ち合わせ通り、ワイバーンたちが王城を爆撃したんだ。


《王城正門および衛兵詰め所を破壊。》


 再び“アイアンウォール”で鉄壁を下げれば、トンネル側にぽっかりと大穴を見せる石壁。その先には広い食糧庫のような空間が広がっている。かび臭いにおいが鼻をつく。


《あと20分。》


「ここから王城の内部は魔法が使えないことを留意。油断しないで。見敵必殺、突撃っ。」


「「応っ。」」


 再び脳裏にローズの顔が浮かぶのを振り払う。


 私が会いたいのはローズじゃないっ、イリーナ様っ!!


 食糧庫の中に飛び込む。


 唯一の扉を開け、通路に出る。


「な、なん!?」


 声を上げそうになる衛兵の口を塞ぎ、首元にナイフを突きつける。


「イリーナ様の牢はどっち?」


 恐怖に震えながら衛兵は左を差した。


 後頭部を殴り、気絶させる。


 持っていたのは汚い配膳用のトレーや食器…。まさかイリーナ様にあんなカビた物を食べさせていたの?


 怒りがわきつつ、上空からフウガが微量の闇の魔素を2つ感知した方向を確認する。


 右には上階に続く階段。そして階段の上に扉。左の廊下は左右に雑居房が並ぶ。


「5人は退路を確保。」


「「わかりました。」」


「なんだ?朝か?」


 牢の中の囚人が起きた。


「おっ。姉ちゃんたち可愛いのう。ローズ様ほどじゃないがな。」


 騒ぎだす囚人たち。ちっ。マズイ。


《あと13分。》


 左の廊下を走る。


「おいっ!なんだお前ら!!」


 20m先、通路の突き当りにいた、鎧を着た衛兵2人がサーベルを抜くのが見える。


「小銃っ!」


 振り返って要求すれば、ユーリを先頭に3人が6.5mm小銃を撃つ。


 鋭く尖った弾頭はブロンズの鎧を貫通。こっちに向かって走ってきた衛兵たちは通路の中央で倒れた。


 素早く走り、止めを刺す。


《その先からイリーナとやらの微細な魔素が漏れてきている。》


 フウガから念話が入る。


 通路の突き当りはT字路になっていて、両側が特別房だった。右側の中にいたのは…


「…イリーナ様っ!」


 鉄格子を掴んで中を確認する。


 ボロボロに穴が開いて汚れた服を着せられ、真っ赤に擦りむいた肌が痛々しい…。


「あ…アリシア…」


 じゃりじゃりと音が聞こえ、枷を嵌められたイリーナ様が身体を起こす。


「っ。鍵が…」


 イリーナ様の入れられた牢の格子扉には魔素で認証するタイプの鍵がかかっていた。


「先ほどの衛兵が鍵を複数持ってましたが…違うみたいですね。」


 ユーリが回収したのは真鍮製の小鍵…。多分雑居房のやつだ。


「…イリーナの鍵は、第二王子が登録している。」


 向かいの特別房で座っていた男が口を開く…イリーナ様の兄、イグノス様だ。


《あと8分。》


「っ。チェーンソー出して!」


 持ってきたチェーンソーを起動させようとするけれど、回らない…。そうだ…魔石を使用する道具も使えないんだ。しかたない…かなのこで!


「お嬢様…かなのこぎりでは間に合いません。」


《あと6分だ。アリシア。今から鍵を探すのも間に合わない。引き返せ。》


《いやよっ!まだ6分ここに居られる!》


《アリシア!…我はお主を失いたくない!今のアリシアと共にいたい。》


《今、ここでイリーナ様を、大切な人を見捨てたら、…私は、今までの私で居られなくなってしまう!!》


 涙と鼻水まみれでかなのこを掴む手を必死に動かす。


「…アリシア。最期に会えて嬉しかった…。」


そんな私の手を握ったのは…イリーナ様だった。「私のために来てくれてありがとう。私のために泣いてくれてありがとう。…私のお友達になってくれて…ありがとう。大好きよ。《大好きよ。》」


 イリーナ様の手が離れた瞬間。


「いやあぁぁぁああっ!」


 私はユーリに捕まった。そのまま抱えられる。


 こんな別れ方だめだ。だめだ。だめだっ!


 考えて…。私は転生者で、キルシュバウム家の娘なんだから…これまで学んできた何かできっと…。


 ぐるぐると頭が回るなか、ふと大きな背嚢が視界に入る。


「75mm砲弾を鉄格子にセット!ウチの精鋭が、それをするだけの時間はある。」


「…仕方ありませんね。これだけですよ。」


「安心して、私の脱出先は、王都公館の庭からに変更する!」


《フウガっ。至急で王都キルシュバウム家公館周辺の安全を確保。ワイバーン4頭降ろして!!》


《今は暴徒に占拠されている場所ぞ!?…難しいが…承った。なら、あと18分じゃ。》


「食糧庫から雑穀の袋持ってきて。小麦粉はダメよ。粒が大きくて重い袋!それから水の入った樽!」


 牢屋の左端、鉄格子のドアのフレームだけでも吹き飛ばせればいい。


 ちょうど特別牢は右側がへこんでいる構造だから、ここで爆破してもイリーナ様は大丈夫なはず。


「イリーナ様、私の服を羽織って、右奥に引っ込んで頭守って!! 」


 念のため、シルバーワームの生糸で編まれた私の上着を差し出す。


 辛うじて頭にかぶったイリーナ様が後退する。


 砲弾をセットする。上から雑穀の袋を積んで威力を軽減する。


 破片がイリーナ様のほうに飛ばないように水の入った樽も並べる。


 コードを伸ばし、T字路のとこまで下がる。


「点火。」


 くぐもった爆発音と衝撃。


 祈るように顔を出せば、鉄格子の扉が吹っ飛んでいた。


 イリーナ様っ。


 牢獄の中に入り、イリーナ様の無事を確認。拘束する鎖を拳銃で撃って破壊する。


「ユーリっ。」


 ユーリに指示してイリーナ様を担がせる。


「あっ…兄も…」


「イグノス様は洗脳されてないんですね?」


「ええ。護符で…」


「続けて爆破用意っ。」


《あと13分》


 同様に爆破して解放すれば、イグノス様は自力で立ち上がれる状態だった。


 …ただし、枷は外さないわよ。ローズに魅了されている可能性もあるし。


「『撤収!』」


 急いて食糧庫まで戻る。


「さっきから騒がし…(パァン!)」


 上の階から降りてきた衛兵を25mm擲弾銃で撃ちぬく。


 散弾がプレートメイルに食い込み、人形のようにこと切れた。


「おい!今の音はなん(パァン!)」


「う、うわあああ。脱獄だあ!」


「追えっ。逃がすな!」


 食糧庫の小麦粉をばら撒き、残った75mm砲弾を時限信管でセット。トンネルへと駆け込む。


「“アイアンウォール”!」


 鉄の蓋をしてから走り去る。


 背後から凄い衝撃が伝わる。


 トンネルを出る前に私たちは班を分割。精鋭12人には、このままトンネルを出てモータ車で外宿まで帰ってもらう。私は新たに“グランドウォール”で地上に繋がるトンネルを作る。ユーリたち3人と、イリーナ様、イグノス様を連れて駆け上がる。


《脱出ポイントの制圧完了。》


《時間は?》


《あと6分じゃ。…身体に異常はあるか?》


《ないわ。断然ご機嫌よ!》


 地上に出れば、ローズに魅了された市民たちの手によって焼かれたキルシュバウム家公館…。周囲に無数の穴と死体の数々を見るに、先ほどまでの短時間でフウガたちが此処を取り戻してくれたことがわかる。


 ヘリポートに着地した4頭のワイバーンに分散して乗る。


 ワイバーンたちが強く地面を蹴ってジャンプ。高空に飛び上がる。


《上げは予定通りの目標でいいか?》


《ええ。警告は与えたのだから。》


「《やれやれ、これで重い荷物を手放せるわい。A班は耳を塞げ。直接見るなよ。》」


 そう言ったフウガが、プローブを伸ばして安全装置を解除した4000kg爆弾を手放す。


 重力に従って落下した巨大爆弾は、王城にぶち当たり、刹那の閃光。膨大な威力の爆発を起こす。


 アルミニウムの粉末の燃焼で加速した爆風が王城のありとあらゆる構造物を吹き飛ばし、瓦解させていく。王城のそばに立っていたゴーレムも爆圧を受けて吹き飛び、倒れ込んだ。


《敵軍の総司令部を破壊。》


 戦場から遠く離れた重要拠点が一瞬で瓦解した事実。帝国のスパイもしっかりと目に焼き付けてくれたでしょう。この事実によって、帝国との交渉で優位に立てる。


「『A班、作戦完了。』」


 業火を横目に、私たちは無事に王都を脱出。イリーナ様とイグノス様をカエルラ領へと送り届けた。


----------


 王国の騎士団長…なんといい響きだろう。


 周囲の皆が、「団長の息子にしては凡人。」「期待外れ」と言っていたのは知っている。


 それがどうだ。バーク殿下が指名してくれたおかげで、今、騎士団長とは自分を指す言葉なのだから。バーク殿下とローズ様を信じて良かった。


 前騎士団長の父とは最期まで分かり合えなかった。


 ローズ様が言っていた。あの悪女のイリーナが父を毒殺したのだと。


 ちょうど良かった。


 実の父親を殺されたが、父を惜しむ気持ちはない。


 あの頑固ものは最期まで俺に「騎士ごっこはやめろ」と言って、俺のことを認めてくれなかった。


 でもいい。バーク殿下やローズ様が俺の方が正しいと認めてくれたから。


 そう。俺のほうが正しい。


 王国騎士団は、奉仕活動の集団じゃない。バーク殿下とローズ様に仇名す敵を倒すための存在だ。


 昨日から俺の指揮で、王国騎士団はバーク殿下やローズ様のことを悪く言う王都の市民を処刑して回り始めた。


 女子供も関係ない。悪の首をはね、吊るしあげるように指示した。


 これにはウェルナーク共和国から来た兵士たちも協力してくれている。


 今日も王都の治安を維持して、またローズ様に褒めてもらいたい。


 朝日に照らされる王城を騎士団の宿舎の一等部屋から見上げる。


 ふと、影が通り過ぎたような気がした。


 次の瞬間、


 轟音と爆炎が巻き起こり、俺の身体は吹き飛んだ。


 地面にたたきつけられ、起き上がってみれば、騎士団の宿舎が跡形も無くバラバラになっていた。


「うっ…騎士団長…助けてください。」


 間近の団員が手を伸ばす。足が千切れて無くなっている!


 同じように吹き飛ばされた団員たちがあちこちで呻き声をあげている。


「や、やめろ!近づくな!」


 こんなの無理だ。できるやつだけで、なんとかしろ!


 走って逃げる。


 上空に目をやると、王都の空を我が物顔でワイバーンの群れが飛び交っている。


 貴族街のほうでも爆炎が立ち上った。


「うっ、うわああああ!」


 もう王都に逃げ場所はない。


 俺は無我夢中であてもなく逃げ続けた。


----------


「改めて、息子と娘を助けてもらい…どう感謝すればいいか…。」


「いやはや、ワイバーンを従えるとは…。先日はティア王女とうちのレベッカも王都から脱出させてくれたそうですな。本当にありがとうございました。」


 カエルラ公爵が頭を下げた。


 続いてミニアーノ侯爵も。


 良かった。イリーナ様もレベッカも、親から愛されているのね。


 ここはカエルラ領の公邸。


 王都脱出後、ワイバーンでイリーナ様とイグノス様をカエルラ領に送り届けた。そこでカエルラ公爵に頼まれて、今度は隣のミニアーノ領から侯爵を拉致…じゃなくって連れてくることになった。バーク殿下とローズに敵対して残っている領同士で会談したいんだって。


「キルシュバウム領の方へも王国軍が向かったと聞いているが…そちらはどうなっているか?」


「こちらは問題ありません。むしろ、そちらのカエルラ領の戦況、そしてミニアーノ領での戦況が厳しいのでは?」


 バーク殿下とソルティオークの指示で、王国軍と騎士団は、反対派や中立派の貴族を拘束。さらに抵抗する領、従わない領には兵を派遣して滅ぼしにかかっている。


 主な派兵先は、王都の遥か北のキルシュバウム領、王都南西に接するカエルラ領、王都南東に接するミニアーノ侯爵領…。


 カエルラ領の場合、東のダンジョンからのスタンピードの影響は殆どないみたいだけれど、北から王国軍が、西からウェルナーク共和国軍が攻めてきていて、挟まれてしまっている。


 西のウェルナーク共和国は、バーク殿下の協力要請を受けた体で王国の各地に派遣されていて、バーク殿下やローズに懐疑的な民を抹殺して回っているらしい。


 ウェルナーク共和国と国境を接するカエルラ領では、カエルラ公爵が治安維持協力を突っぱねた結果、ウェルナークが本性を露わに、堂々と正規軍が攻め込んできていた。


「双方の戦線に領軍を全力で派遣しているが…正直厳しい。」


 公爵が苦々しい顔で言う。


「こちらも、王国軍の侵入と、東のダンジョンから出てきた魔物たちの対応で手が回ってない。加えて東の帝国との国境もきな臭い。こちらの混乱に付け込んで攻めてくるつもりだろう。」


 ミニアーノ侯爵も表情は暗い。


「…お友達の実家へのサービスということで、カエルラ公爵とミニアーノ侯爵が希望するなら、ウチが代理で東のエスタニア帝国に仲介をお願いしましょうか?」


「それは…本当にできるのか?」


「お願いするだけですけどね。窓口はあります。」


「お父様、アリシアはこういう場で嘘を言う娘じゃないわ。」


「ああ。いや疑っているのではなく、しかし、できたとして、それは…。」


「はい。帝国の影響下に入ることを受け入れることになります。」


 これは仕方がない。申し訳ないけれども、日常を守るために備えてこなかったカエルラ領とミニアーノ領が悪い。


「方針として、帝国の後ろ盾という看板だけを借りて、王国から自力で独立するという形で生き残るのが、現状では最もマシでは?」


 お父様とお母様が言っていたけれど、カエルラ領とミニアーノ領が生き残るには、まず、何としてでも東の帝国とは戦端を開かないこと。そのためには新しい国家として帝国と条約を結ぶ必要がある。多少の影響下に入ることは受け入れるしかない。でも、むしろ帝国の影響下に入るということを活用することもできる。


 次に王国軍だけれども、さっき王都の軍事施設は全て破壊してきたのだから、これ以上の増援はない。事実が伝われば現場は混乱するはず。帝国が王国に侵攻を始めたら、慌てて引き返すかもしれない。


 そうなれば、あとはカエルラ領に侵攻中の共和国軍。こっちは帝国軍の介入があるように思わせて撤退を促すしかない。


 最後に、東のダンジョンから溢れ出た魔物だけど…こればかりは個別対処するしかないかな。


「我々は既に滅亡の一歩手前だ。一縷の望みに託すしかない。やむを得ないな…公爵。」


「…わかった。では、その方針で行きたい。今から交渉の人員を出そうか?」


「いえ、現時点では必要ありません。」


 そこまで急がなくてもいい。


 帝国西部管区に行ったお母様は、一次交渉を無事に終わらせて、お茶を飲んでいるらしい。同伴したワイバーンが竜種の遠距離通信で報告してきたと、フウガから念話で教えてもらった。


 この交渉では、ウチと帝国との間で極秘に協定を結びたいこと、それから、キルシュバウム領を含む新国家の在り方を協議したいことを打診することにしていた。


 元々ウチは単体での独立は望んでなかったから、「キルシュバウム領を含む新国家の独立に関して、新国家側が帝国に対して交渉を希望するのであれば、別途、場を設ける。」って。


 お母様は予定通り一次交渉を終えたと言っているらしい。なら、帝国は受け入れてくれたのでしょう。


「まず、帝国に伝えていますので、後日の交渉で頑張ってください。」


《フウガ。お母様に同伴したワイバーンに通信。交渉を希望された。と。》


《うむ。》


「ありがとう。他に我々にできることがあれば…。要望はあるか?謝礼金でも、何でも言ってくれ。」


「ちょっとお父様!」


 こちらを見定めようとしているのかな?


 ウチの家は、カエルラ家どころか、他の貴族とは深い関わりを持たないようにしてきたから、公爵としては気になるのかもね。話を持ってきた私も小娘だし。


「言い忘れていましたが、私は王都方面の全権を与えられています。」


「おっと…それは…、失礼しました。」


「その上で、キルシュバウム家として、今回の救出作戦および交渉の窓口を用意することに対しての見返りは要求しない。ただし、個人的な要求として、イリーナ様をいただきます。」


「え?」


「失礼ですが、こんな危険な場所ではなく、私の手の届く範囲に居てもらわないと不安でたまりません。」


「我が公爵領領都の公邸よりも、貴女の手の届く範囲のほうが安全だと?」


「正確には私ではなく私たちですが、事実です。」


「…ふっ。」


両腕を組んだ公爵は、暫くして笑い出した。「はっはは。これはこれは…。イリーナ、良い友人を見つけたな。」


「ええ。私の大切な親友よ。」


「なかなか対等な友人ができなかったから心配していたが…。侯爵よ、我々の娘たちは、とんでもない友人を引っかけたな。」


「ですな。」


 とんでもないは余計よ。


《アリシア、すまん、デカブツを見逃していた…。ゴーレムが動いている。そっちに向かっているようだ。》


 フウガが少し焦っている。…ローズの仕業かしら?


「『イリーナ・カエルラっ!オマエだけは逃がさない!』」


「『カエルラ領の下々に次ぐ!悪女イリーナを差し出せ!さもなくば皆殺しだ!』」


 拡声器に乗せたローズとバーク殿下の声が響く。


「大変です!王都の方向からゴーレムが侵攻してきました。」


「くそっ!!こんな時に!!」


(次回、本編最終話

1週間ほどお待ちください)

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