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(21) 野望、陰謀、復讐

(ついにローズが攻略対象を狙っていた理由が明らかに…。第6話「過去と現在」の伏線も回収。)

 あれから2日。


 東のダンジョンからの大規模スタンピード。前兆がなかったので、犠牲者の数は予想以上に増えそうです。


 魔物に食べられてしまえば遺体も残らないので、行方不明者=死者として扱われました。


 溢れ出た魔物たちは周辺の町や村を襲い、今も被害を拡大させています。


 王都では戒厳令が敷かれ、外郭の門の通行も制限されはじめました。場合によっては完全に閉鎖するという話も上がっています。


 ただ、これでは物流に影響が出そう。


 アリシアは、2日前に王都と周辺の領民に退避指示を出したらしい。今日付けで、王都のキルシュバウム公館も、チェリー商会も撤退するとのこと。


 実際に昨日から直営店は休業していて商用区で混乱が広がっているらしいわ。提携先には残っていた在庫を全て譲ったらしいけれど…、非提携の店や一般客は途方に暮れているらしい。


 私のリーナタベルナも王都の店を閉めることにしたわ。キルシュバウム産のシルクも入手できないし、こんな状況で、ファッションにお金を使ってもらえるとは思わないもの。


 ただ、シルクは今後、こっそりと公爵領に出荷してくれるってアリシアが言ってくれた。希望すれば小麦などの食料も送ってくれると。あとで父と兄に伝えておくわ。


 そしてティアとレベッカは、一度ミニアーノ侯爵領を経由してサモナに戻るらしい。


 今日でセントレア学園が閉鎖になるのだから仕方がないわ。


 運悪く野外実習のタイミングと重なってしまったセントレア学園の同期の生徒たちは、結局私たちのグループを除く全員が帰って来ませんでした。


 最終日の今日、武術課程は通常通りの授業が続いているらしいけれど、3名しか残らなかった私たちの学年の魔術課程は、自習となりました。


 まあオブザーバーとして同行していた魔術課程の先生たちも行方不明となったのだから仕方ないわ。


 暇なので図書室へ行こうとしていた私たちの前に、突然兵士さんが現れた。


「イリーナ様と、アリシア様ですね。」


 兵士さんが確認してくる。


「ええ。そうですけれど」


 私は戸惑いを隠せずに答えた。一体何事でしょうか。


「国王陛下から、先のスタンピードについて聞きたいと、至急の呼び出しがかかっております。このままお連れするようにと仰せつかっております。」


 兵士さんが国王陛下の印が押された指示書を見せてくる。


「イリーナ様…、いくの?」


 少々面倒くさそうに尋ねてくるアリシア。


 私たちは、この国の貴族ですから、招集には応じないといけません。


「…そう。じゃあ、私も行く。」


「アリシア、前回の反省も踏まえて武器は預かっておきますからね。」


「…わ、わかってるわよ。ティアはキルシュバウムの公館に行ってちょうだい。よろしくね。」


 一瞬の間があったことは置いておくわ。


 その後、アリシアはレベッカを呼び出し、ティアを預けつつキルシュバウム家公館への言伝をお願いしました。私は、王城に父がいるので言伝は不要よ。




 王城の廊下は静まり返っていました。なんでも大広間で王が演説しているとのこと。私たちはその後にと王座の間に通されました。


 しばらく待っていると、車いすに乗せられた国王陛下が入ってこられた。


 車いすを押しているのは、宰相のビガー公爵。


 ともかく、私はアリシアにアイコンタクトをとり、直立不動で頭を下げて迎える。


「先王は表を上げよと言っている。」


 先王?そして何故ビガー公爵が代弁するの?訝しみながらも正面を向く。


「っ。」


 そこには精気を失った国王陛下が座っていた。


 少しずつ感じられる腐敗臭。すでに死んでいるんだわ。


 顔を青ざめる私。


「きゃはっ。もう気が付いちゃった?」


「えっ!?」


 唐突に背後から声をかけられる。


 この声は、ローズ!?それにスニーフ先生もいる。


「貴女、スタンピードで死んだのではなかったの。」


「ええっ。自分たちで計画的に引き起こしたスタンピードで死ぬわけないじゃん。それに、わたし光の魔法を使えるしぃ。逆にアンタたちが生き残ったのが意外だったわ。オークの巣の前で、アンタたちが攫われてきてくるのを…その絶望して死んでいく様を見ることを期待して待っていたのに。無駄足踏んじゃった。」


「っ。」


 私とアリシアは身構えた。


 ヤバめの言葉が聞こえてきたけれど、落ち着いて。今、一番の問題は国王陛下だわ。


「ああ、国王だった人?死んでるわよ。知りたい?ねえ、知りたい?もう全てが手遅れなの。知って絶望してくれる?恐怖に支配された顔をみせてよ。」


 ローズが笑みを浮かべて話し始めた。全てはウェルナーク共和国とビガー公爵らの策略だと。


 ウェルナーク共和国は、都合の良い政権を王国に興し、影から支配したかった。


 一方、オステン王国宰相のビガー公爵。自分の傀儡となりそうな馬鹿な第二王子…つまりバーク殿下を王にしたかった。


 両者の利害が一致した結果、宰相はウェルナークの手の者を近衛に招き入れた。今や近衛騎士の全てがウェルナークの手の者に。そしてウェルナークから派遣されたローズが聖女になるように仕向け、王国を“魅了”で支配しようと試みた。


 ただ、第一王子や騎士団長に感づかれそうになったため、早々に薬を盛って殺すことにした。しかし、それで国王に警戒されてはいけないので、薬は同日に盛ることになった。…野外実習の前日に。


「第一王子は側近役のムックにお願いしたけど、先王と王妃にはバークが、騎士団長にはソルティオークが盛ったのよ。実の息子に毒を盛られたことに気が付いたとき、どんな顔だったのかしらね。そしてウケるのは、バークもソルティオークもムックも、自分が盛ったのが毒だと知らないのよ。未だ、ね。」


 何…これ。ローズの目的は…いったい。


 笑いながら続けるローズ。


 宰相は、自身と同じ野望を持つ魔法使いスニーフ先生も計画に加えていた。


 スニーフ先生は国王陛下と第一王子の死体を座った姿で半冷凍保存し…


「さっき、大広間で茶番を行ったわ。第一王子がエスタニア帝国に依頼して今回のスタンピードを引き起こしたことが判明してね。皆の前でバークが第一王子を処刑したの。先王は自身の退位とバークを王とすることを宣言したことになっているわ。先王も第一王子も既に死んでることを知らずに熱弁するバークは見ものだったわよ。」


「そして私が関白に指名されました。」


 仰々しくお辞儀するビガー公爵。


「そうね。関白は王国の政治の全てを任せるわ。ああ、その死体を処分するのもね。」


ワザとらしく鼻をつまむローズ。「やっぱり、死体は3日も持たないみたいだし。」


「ええ。もちろん。」


 そう言ったビガー公爵は車椅子を乱雑に押しながら出ていく。入れ替わりに入ってきたのはバーク殿下とソルティオーク、それにムック。


「この小娘たちがわたしを苛めるの!」


「貴方たちはローズに騙されています。貴方たちが盛った薬は…」


「黙れ悪女め!」


 猫かぶりの声でローズが言えば、バーク殿下が怒りを露わに突剣を抜く。


「先王に反対されていたが…僕が国王になったからには、全てを決めることができる。キサマとの婚約は破棄する。ローズを虐めた罪を死ぬまで地下牢で悔い改めろ!…だが、今は利用価値がある。」


「ふふっ、ようこそ。」


 ローズの声に呼応して床が光った。そう思った瞬間。


 私たち2人は雷の魔法に撃たれた。


「あぁぁああああ!」


 目の前が真っ白になる。


 雷が止まった時には、私たちは床に倒れこんでしまっていた。


「ああ、僕が国王だからな、一時的に王城の魔法を使えなくするアーティファクトは止めておいた。」


「抵抗しても無駄よ。一緒に楽しみましょう?」


 私たちの首と手に枷をはめるスニーフ先生。


 魔素がつかえなくなる犯罪者用のアーティファクトの枷です。


「さあ、来い!」


「ぐっ。」


 バーク殿下が私の髪を掴む。痛みを堪えて睨み返すことしかできない。私たちは手綱を引かれ、連れていかれました。




 連れて行かれたのは王城の宝物殿。


 この建物だけ独特な形状をしている。


「もたもたするな!」


 考える暇もなく、手綱を引かれる。中は、真っ白な石の敷かれたドーム状の部屋でした。


 壁際に堆く積まれているのは、王国中で買い占めが問題になっていた中小の魔石の数々。このためだったのね…。


 中央部の床には7重の円が描かれた魔法陣。円の中に私たちは立たされた。続いてローズ、スニーフ先生、ソルティオーク、バーク殿下、ムックが魔法陣の中に入る。


「魔石という動力源は集めたのだけれど、動かなくってねぇ。ここは118年前のスタンピードを押さえたゴーレムの心臓。今は封印されているけれど、勇者、聖女、魔導士、剣聖、錬金術士、賢者、そして国王の子孫が集結すれば、この心臓が動くことになっている。」


ローズが淡々と告げる。「そこの女が勇者と錬金術士の末裔。そしてイリーナ、アンタの家は当時の王家の血を分けているのでしょう。」


「そしてローズが聖女の末裔、私は名高い魔導士の子孫だ。ソルティオーク君は剣聖の末裔。バーク君は国王の末裔だ。そしてビガー公爵家には王家の血は入ってないのだが、実はムック君は、曾祖父が賢者の血筋だ。7人が揃ったね。」


「わたしとしては小娘2人を入れるより、ネルソンや、イグノスに立ち会って欲しかったのだけれどねぇ。第一王子は邪魔だったし、アンタのお兄さんは警戒心が強いみたいで残念だわ。…さあ、魔素を流しなさい。」


 有無を言わさぬローズが迫る。


 そんな、わざわざ封印されたゴーレムをどうしようと?


「ああ、ごめんなさい。アンタたちは今、魔素が出せないから、血を出して頂戴。」


「えっ!?」


 私が疑問を口にする前に、


 ローズが短剣でアリシアを突き刺した。


「かはっ!?」


 右の脇腹を抱えて沈むアリシア。


 うそ…。


「アリシア…、アリシアしっかりして!アリシア!お願いっ!」


 そんな…噓よ!


「あら。可愛い飼い犬心配なの?いいな。わたしも飼いたいな~なんて思ったりして。」


 そう言ってローズはアリシアの頭を撫で、次には傷口をなぞるように触れた。


 狂気に満ちた瞳が今度はこちらを向いた。


「さあ?次はアンタよ。ああ、手当くらいはしますわよ。わたし、聖女ですし。」


 短剣の柄に彫られた蛇の文様をなぞりながら近づくローズ。


 悲しみと怒りと恐怖であふれ出た涙や鼻水を拭えずにローズを見つめることしかできない。


 そして、ローズが短剣を構えた瞬間、


 ゴゴゴゴゴゴゴォ


 地響きと小刻みな振動が伝わってきた。


 大型の機械がアイドリングしているような音。続いて階段のようなものが降りてきました。


 床の魔法陣が、そして壁際に積まれた魔石が、淡く光を放っていた。


「ああー、鼻水で起動しちゃうの?笑える」


 興覚めしたわ。と言いながらローズたちは階段のほうに向かう。


「あ、バークとソルティオーク、ムックは先に上がっていて。スニーフ先生に小娘2人の監視をお願いするわ。」


 3人を先に行かせた後、振り返って短剣を手渡すローズ。スニーフ先生は、笑みを浮かべながら受け取り、


「よくやりましたローズ。これでわが家、100年越しの野望が叶う。ゴーレムを手に、世界を!」


 ローズに襲い掛かった。


 カッ!と辺りを眩い光が支配する。


「100年越し。ね。わたしの悲願もよ。」


「ううっ。目が…目がぁ。」


 間近で閃光を見てしまったスニーフ先生が目を押さえてふらつく。


「お前はわたしを出し抜いてゴーレムを奪うつもりだったみたいだけど、馬鹿ね。わたしは始めからお前を殺すつもりでいたもの。」


スニーフ先生をにらみつけるローズ。「118年前のスタンピードの後、聖女が魔導士に何をされたか知らないの?」


「な、なにを言っている。」


「あの時、王都の愚民どもを救ってやった見返りに王子と婚約して…王妃になれるはずだったというのに。カエルラ公爵家が邪魔をして…別の王子が王となり、聖女は国家反逆罪で牢に入れられた。面会に来たお前の先祖…魔導士は情を交わせば出してくれると約束してくれたのに…犯されただけで見捨てられた。鉱山に奴隷として飛ばされたときには地獄だったわ。死にそうになったとき、光魔法が暴走して…気が付いたとき、聖女は110年の時間を飛び越えていたわ。」


 そして、ローズは言った。


 聖女は復讐の機会を得たと喜び、お膳立てをしてくれる協力者を得るべく西へと向かった。ウェルナーク共和国へ。


 親に認められたかったソルティオーク、王になって皆を見返したかったバーク、それを操りたい宰相、親の指示を聞くだけのムック、ゴーレムが欲しかったスニーフ、さらには王国を影から支配したかったウェルナーク共和国…全てが踏み台。


「聖女の目的は、こんな目にあわせた奴らに復讐すること。それから、聖女の犠牲に蓋をして、のうのうと生きる今の王国の全てを滅ぼすこと。更地にしてから私の理想郷を作るわ。」


目をらんらんと輝かせた演説は続く。「…もうわかっていると思うけれど。わたしは末裔ではなく、118年前の聖女そのものよ。死んでちょうだい…憎き魔導士の子孫。」


 そう言ってスニーフ先生の身体に手を触れた。


「がぁぁぁ。ああ、い、いやだぁぁ、あああ。」


 断末魔の叫びをあげながら老いて枯れていくスニーフ先生。


 あれは多分、私が使える“時戻し”の逆…、時間を進めてしまう魔法だわ。


「ついでに教えてあげる。わたしはね、当時のカエルラ公爵家に邪魔されて牢に繋がれたの。だからアンタは同じ目にあわさせてあげる。…でも、それとは別に、余興を用意してあげるわ。」


 そう言ったローズが手招きすると、虚ろな表情のアリシアが起き上がり、ローズの前まで歩いていく。


「靴を舐めなさい。」


「えっ!?」


 アリシアが両手をついてローズの靴を舐めはじめた。


「なんて快感っ。あの反抗的な眼差しの錬金術士の子孫が、膝をついてわたしの靴を舐めているわ。やっぱり、傷口に直接手をあてて魔素を流しこむのが最も効率がいいのね。」


 あの時、ローズがアリシアに何かしたんだわ!


「しばらくの間、公爵令嬢を見張ってなさい。」


「…はい。わかりました。」


 ローズが階上へ消えると、階段はもとあった天井に格納されていった。




「アリシア。」


 静まり返った部屋。アリシアに駆け寄ろうとしたところで、


「ぐっ!?」


 アリシアの膝蹴りが飛んできた。もろに喰らった私は馬乗りにされる。


「しっかりして!」


 身体を揺さぶれば、ハッと正気に戻ったのか、瞳に光が戻る。


 アリシアは驚いて飛び退いた。同時に脇腹を抱えて倒れ込む。


「イリーナ様っ…私…。」


 倒れたまま、悲壮な顔で震えている。


「びっくりしたわよ。動けるの?傷は大丈夫?」


 私は優しくアリシアの傷口に触れる。


「すっごく痛い。」


 そう言って倒れたまま右の脇腹を見せるアリシア。


 さっき無理に動いたのが原因か、傷口が広がっている。


 なるべく早めに手当てしないと。


 アリシアを支えようとした瞬間、大きな振動とともに身体が持ち上げられるような力が加わった。


 振り返れば、ドーム状の部屋の一部に爪で抉られたような裂け目が入っていて、その開口部から砂漠の景色が見えた。


 慎重に開口部に近づき、下を覗く。地面からの高さは10m程度。ゴーレムの2本の脚が見える。かなり巨大なゴーレムのようだ。


 飛び降りるなんて不可能。なんとか脱出できる手を考えないと…。


 気が付けば、4体のワイバーンが近づいてきた。手前の2体が翼を左右に振っている。


「助けて…くれるの?」


 私の声が聞こえたのかはわからないけど、ワイバーンが首を縦に振った。


 慌ててアリシアの元に戻る。


「さっき、フウガと連絡が取れました。ウチのワイバーンたちが来てるはずですから、脱出しましょう。私は足手まといだから、先に行ってください。」


「アリシアを残してなんか行かない!」


 私はアリシアの右わきに自分の左肩を入れ、左手と右手でアリシアの左脇を持ち、「ふぬぬ」っと気合いを入れて起こした。


 そのまま、アリシアを補助しながら開口部へと向かう。


「イリーナ様…私は…。」


 息を切らし、左手で傷口を押さえながら懸命に言葉を紡ぐアリシア。


「大丈夫よアリシア。私が、絶対に、連れて帰るから!」


 私はあなたに何度も守られた。今度は私があなたを守り抜く!


「…どこに帰るってぇ?」


 振り返れば、ローズがいた。ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。階段が降りてくる音に気がつかなかった…。


「行って!」


 私はアリシアを開口部に向かって押し出した。


 ちょうどのタイミングでワイバーンが開口部から首を出し、アリシアをくわえて出ていく。


「イリーナ様ぁぁぁあああ!」


 アリシア…。元気でね。


----------


 王都の人々は皆、轟音とともに王城の庭に立ち上がった巨大なゴーレムを見ていた。


「『諸君っ!』」


 そのゴーレムの頭部が光ったかと思うと、拡声された声が響いた。


「『国王陛下は崩御された。よってこの僕、バーク・オステンがこの国の王となる。王妃は、聖女のローズだ。』」


「『皆、こんにちはー。』」


 甘く、優しい声が響く。


「『わたしが王妃になったの。』」


 言葉のたびに、甘い霧のような靄のような空気がゴーレムを中心に一気に王都へと拡散していく。


「『皆、わたしのこと助けてくれるよね。わたしに従ってくれるよね。わたしを虐める悪い奴らをやっつけてくれるよね?』」


「「「はい!聖女様っ!!」」」


 ローズが深くかかわっていた下町の教会の周囲では、信者たちが口を揃えてローズへの忠誠を誓う。


 熟練の冒険者たちは、この異様な事態に危険を感じて王都から脱出を図る。


 しかし、“魅了”という魔法を知らない一般市民たちは皆、疑問も持たず、居心地の良さをそのまま受け入れ、新たな王バークと王妃ローズに賛同するのだった。


----------


 王城の地下牢。


「僕より優秀な婚約者とは何様のつもりだったんだ。ずっと、僕のほうが上であることを、お前は僕に跪く立場であるとわからせたかった。こうやって!」


「うあっ。」


 私は枷を嵌められたままの状態で背中を蹴られて倒れ込んだ。


「周りの奴らが言っているのは聞こえていた。ネルソン第一王子は病弱だが優秀だと。次の王にふさわしいと。」


バーク殿下が声を荒げる。「それに比べて、第二王子は馬鹿だと。聡明なカエルラ公爵令嬢を婚約者にあてがわないと何をしでかすかわからないと。」


「バーク、その辺にしておいたら?」


 背後から声がした。ローズとソルティオーク、それにムック…。


「今日はね。アンタの兄を連れてきたの。」


 まさか…。


 ローズが連れてきたのは兄のイグノスでした。


「アンタを人質にとっているっていえば、ついてきてくれたわ。」


「イリーナっ!」


「おっと、大人しくしないと、妹にいじわるしちゃうわよ。」


「くっ」


「全く、直接注ぎ込んでもわたしの“魅了”が効かないのは困ったわね。」


 “魅了”が効かない?


 兄の懐に薄っすらと闇の魔素が広がっている。私と一緒に作った御守り…


「さらに困ったことに、アンタの父、公爵は取り逃がしちゃったし。…それにしても冷たいわよね。息子と娘を人質にとっているのに、自分の領まで逃げちゃったんだもの。」


「父を悪く言うな!」


 兄が反論しようとするけれど、私と目が合うと押し黙ってしまいました。


「そうだわ。ゴーレムでカエルラ領に攻め込んであげる。領主夫妻を差し出せば止めるって言ったらどうなるかな、領民に吊るし上げられちゃったりして。」


 ローズが私の顎を引き寄せる。


「カエルラ家の人間には絶望を与えてやる。アンタにはもっともっと苦痛を与えてやる。そこで待ってなさい。あはははっ。」


 私は再び牢に投げ込まれ、バーク殿下に入り口をロックされた。魔素で認証するタイプの鍵…。


 兄は私の向かいの牢に入れられ、ローズが鍵をかけていた。


(次回、「宣戦布告」は1週間ほどで)

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