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(15) 初めてのお茶会

(親友になったレベッカ視点です。レベッカたちは知りませんが、イリーナの運命はここから大きく変わっていきます。)

「っ、す、すごい。」


 感嘆の息が止まらない。


 原因は目の前にいるアリシアだ。


 先日も王都の外にピクニックに行ったけれど、そのときは町娘の恰好だった。


 それが今、シルバーワームの繭からつくったとか言う紺色のシンプルドレスを身にまとい、普段はストレートロングのまま流している銀の長髪を、今日はハーフアップにまとめて完璧な令嬢の恰好をしている。


「アリシア~、ずるいよ。」


 確かに、元々の顔立ちとか素材がいいのはわかるけれど、自分と同じで、着飾るよりも出歩くことのほうが好きな人だと思っていたのに…油断していた。


「何言っているの、レベッカむちゃくちゃ綺麗よ。」


 アリシアがまじまじと見つめてくる。そ、それは嬉しいんだけれどさ。


 皆で買い物にいったときに見つけた赤のスレンダードレス。着せて見せれば、父さんも兄さんも目が点になっていた。「ティアの騎士として恥ずかしくない姿でしょ。」と得意げになったのを覚えている。


 ただ…。


「アリシアは一度、鏡を見られてはいかがでしょうか。」


 ティアも思うところは同じなのだろう。


 アリシアの姿見てると自身無くなるなー。


「えっ!?どこか変?私初めてのお茶会だから…。」


 慌てて身の周りを確認するアリシア。


 中身はいつものままで安心した。喋らなければ完璧な令嬢ってやつだね。


 自分たちは今日、セントレア学園で開催される王国主催のお茶会に来ていた。


 2ヵ月後にセントレア学園に入学する15歳の貴族子女が対象。全員必須参加ね。学園の雰囲気を見せるのと、あとは貴族子女同士の顔合わせって目的らしい。


 アリシアはこれまで一切の公的なお茶会に出たことがないと言うので、自分とティアでサポートしてあげることにした。


 セントレア学園の正門で待ち合わせをしてたんだけど、馬車を降りてきたアリシアは、そりゃあもう本当に別格だったね。




「とりあえず正門をくぐって受付に進もう。」


 アリシアの手を引いて門をくぐる。


 予想通り、傍らの魔道具が赤く光った。


 待機していた侍女が自分の身体をチェックして、問題のないことを確認した。


「お客様…申し訳ございません。会場への武器の持ち込みは禁止されております。こちらで預かりますので…。」


 バツの悪そうな顔をして脇に挿していた細剣(ブロードソード)を預けるアリシア。


「あと、失礼ですが、他にも金属製品をお持ちではないですか?」


 魔道具が強く光り続けている。


 なにかを悟ったのか、アリシアは鞄と、ドレスの中から短刀を出した。


「あの、こっちは刃物類ではないので、持って入ってもいいですか?大切なものなんです。」


 アリシアが鞄から折れ曲がった杖のようなものを取り出す。


 受付の男性は、それが刃物ではないことを確認し、アリシアに手渡す。


「持ち込んでも構いませんが、会場の内部は魔法が使えないようになっておりますので、ご承知おきください。」


「えっ?あ、そうなんですね。わかりました。」


 アリシアが少し動揺したように見えた。


 何をやらかす気だったんだよ君。


「恥かいちゃったじゃん。前もって教えてよ。」


「アリシア…いくつも話題を提供してくれるのは嬉しいのですが、武器の持ち込み禁止は当然かと。あと王家主催のお茶会ではアーティファクトという古代の魔道具によって魔法も使えないようになっているのは常識ですから。」


 ティアの言葉に頬を膨らませるアリシア。君がいつも通りで嬉しいよ。


 そんなこんなで、自分たちは会場の庭園まで歩き進める。


「ところで、ティアってサモナの王女様よね。セントレア学園に入るの?」


 アリシアが不思議そうに話す。


「はい。いろいろと事情がありましたので。」


 そう言ってティアは小声で話し始めた。


 命の恩人で、親友であるアリシアになら、別に言ってもいい話だからね。


 ティアは、魔素の欠乏症を患っていたため魔石を求めて王国まで来たこと、交渉口を探したが、取り合ってもらえなかったこと、そんなある日、王宮から使者が来て、第一王子と婚約すれば、魔石の定期的な供給に同意してくれると言われたことを話した。


 この話に悩んだティア。直ぐに答えは出さなかった。


 なんたって、王国の後継者争いに巻き込まれることが予想できたからね。


 結局、ティアの病気はアリシアが治してくれたので、第一王子との話は断った。


 もともと、第一王子と面と向かって申し込まれたわけではなく、第一王子派の人間にそれとなく言われただけだったしね。


 で、王国に来た目的を達成したティアだったんだけれど、アリシアがセントレア学園に通うことに気が付いたのか、いつの間にか侯爵である自分の父さんに頼み込んで入学申請を出してしまっていた。


「国は弟が継ぐのですし。事実、わたくしはこの王国で魔法を学んだほうが、向上できると思うのですよ。」


「それ、“王国で”じゃなくて“アリシアから”だよね」


「まあ、些細な違いですわね。さあ、あちらの庭園です。」


 ティアは自分の指摘を適当にごまかして庭園を指さした。


 一面に敷き詰められた芝。薔薇の垣根で半周を囲まれた庭園。


 中央には真っ白な石の円卓がいくつか配置されていて、背後にある石膏の彫刻や、真っ白な学園の外壁との調和が保たれている。


 自分にもわかるぞ。これは高貴なやつだ。出て来るスイーツが美味しいやつだね。


「第二王子の到着が遅れるようなので、しばらくはご歓談ください。」


 若い執事さんがウェルカムドリンクを差し出してくれた。


 ブドウジュースか。いいね!


「本日は、わたくしたちのような年代の人間しかいないのでしょうか?」


 早速ティアが情報収集を始める。


 うん。参加者の情報を集めるのはパーティの基本だよね。


「はい。来年より生徒となる皆さまへの、学園側からの計らいです。給仕も含めて同年代の方で揃えております。大人の目は気にせず、同期となる方やお世話役の先輩とのご歓談をと。」


「そう。ありがとう。」


 優雅にお礼を伝えるティア。


 アリシアが尊敬の眼差しで見てるよ。


 さて…テーブルは未だいくつか開いている。


 第二王子が来るまで、適当に待とう。どれを確保しようかな?


 皆とゆっくり楽しめるかがテーブルで決まるからね。周囲の様子を見ながら庭園に踏み入れる。


「っ!?」


 振り返るとアリシアが盛大にバランスを崩していた。石畳と芝の境にヒールをひっかけて折ったみたいだ。


 危ないっ!グラスは投げ捨てて両手で身体をホールドする。いや~アリシアの体重が軽くて良かったよ。


「…ありがとう。」


「いいって。これくらい。それよりも…」


 さっきから気になっていたんだけど、アリシアの歩き方がぎこちない。多分ハイヒール履きなれてないんでしょ。近場の椅子に座らせて靴を脱がす。予想したとおり、親指の付け根や踵が真っ赤に腫れていた。


「…、良く分かったわね。こっちの世界では初めて履いたのよ。インソールが固いとかありえないわ。」


 ん?こっちの世界?まあ、それは置いといて、手当をしなくちゃ。ポーチから薬草を染み込ませた包帯を取り出す。


「アリシアは普段から身体の中心が安定しているから、ヒールで歩くときも、それを意識して歩けばいいぞ。今日のアリシアは姿勢が前に偏ってる気がする。」


「へっ?よくそんなこと見ていたわね。」


 ふふん。すごいでしょ。なんとなく普段からそういう周りの様子を感じるようになったんだ。


「あと、非常時は椅子とかテーブルとか固いものにひっかけてヒールを折るといいぞ。」


 もう一方のヒールも折る。これで左右のバランスが取れる。


「おーっ。すごい。こういう場に慣れるわけね。」


「なんたって、自分、ティアの騎士だからな。」


「うん。改めて、ありがとうっ。」


 うおっ。その笑顔は反則だわ。


「んじゃ、座ってて、飲み物とってくるから。」


 さっきのはダメにしちゃったもんね。ティアと一緒にウェイターのところへ向かった。



 そんなに時間はかかってなかったはず。


 そのわずかな時間の間に…、アリシアが3人の令嬢に絡まれていた。


「アンタ、見かけない顔ね。」


「ああヤダ。アンタ、田舎のにおいがプンプンするわ」


「その女、さっき、受付で武器回収されていたのですよ。非常識を通り越えて野蛮ですわね。」


 ものすごく下品。そして、よくもアリシアに喧嘩吹っ掛けたよね。鏡見る?


「こらっ!無視するな!」


 そう言って令嬢の1人が一歩踏みだす。と、それまで興味なさそうにしていたアリシアが「は?」と睨みをきかす。


「っ。常識を知らなさそうな。野蛮人に教えてあげるけど、ここでは爵位が全てよ。私たち上位貴族の前に下々の愚民は跪き、言われた通りにするべきなの。」


「で、見かけないアンタは誰?どこの田舎からでてきたの?」


「…。人に質問する前に、自分のこと名乗るのが常識だと思うのですけど。」


「何よ。私はグレゴリー侯爵家の長女よ。逆らっていいと思っているの?」


「ああ偽ケバブが不味かった街ですね。私はキルシュバウムから来ました。」


 アリシアが淡々と答えている。


 っていうか、あれがグレゴリー侯爵令嬢か…。友達になりたくないタイプ。


「ケバブ?何を言っているんだか。」


「キルシュバウムって北の辺境ですわよ?」


「まるで農民なのに貴族を名乗れるの?この国の汚点ですわね」


 あ、今の言葉やばい。わかる。絶対にアリシアの逆鱗に触れた。アリシアって自分の大切なもの貶されると豹変するから…。


「へぇ…。家に喧嘩を売るってことでしょうか。キルシュバウム家と敵対するなら、どうなるか知りたいんですね?」


 案の定、アリシアはキレていた。止めないと。


「とりあえず、明日から何も食べられないようになってみます?あ、もちろん皆さんの御家の方々全員連帯責任で。」


「ちょっと、貴女たち、止めなさい。」


 アリシアのドスをきかせた声が響くと同時に、割って入ったのは、青紫の髪の人…。自分も顔と名前を知っている。いつも冷徹な雰囲気で、近寄りがたいって有名なカエルラ公爵令嬢だ。


 どうしようティア。もう自分が入ってどうこうなる状況じゃないかも…。


 ティアのほうを向くけど、ティアは笑顔で首を振った。


「貴族令嬢としてみっともない。貴女たちがそのような下品なことをされる方だとは知りませんでした。」


 あれ?アリシアを助けてる?


「わたくしたち以外の人間との会話も、アリシアの勉強になります。そっと見守ってみましょう。」


 ティアはアリシアとカエルラ公爵令嬢の様子を見て、笑みを浮かべた。


 おっ、なんだか、いい感じじゃん。じゃあ、そっとしておこう。


 アリシアは、助けてくれたカエルラ公爵令嬢と楽しそうに話し始めている。


 自分たちは近くのテーブルを一つ占拠し、そこに座ることにした。


 あー、でも、アリシアの親友として、さっきアリシアに絡んでいた令嬢全員が誰なのか把握するべきなのかな?


 周囲を見渡して、先ほどの令嬢たちを探す。


「ん?」


 先ほどの令嬢ではないが、なにやら裏庭へ向かっていくピンク髪の女の子がいる。


「ねえ、ティア、あれ…。」


「どうしましたか?」


 ティアに判断してもらおうと指さしたが、その時にはピンク髪の女の子は視界から消えていた。


 一応、給仕の服着ていたし、大丈夫かな?


----------


「ふ~っ」


 溜息をついてみるけど、緊張がほぐれないわ。


 私のように15歳を迎え、学園への入学を控えている貴族子女のみを集めた王国主催のお茶会。


 1度目の“私”、イリーナが転生した私、葵がやったゲーム“セプテム・アルカナ”はこのお茶会からスタートした。


 ここからは1度目の経験だけじゃなく、私、葵の記憶も重要になってくる…。なんたって、1度目の“私”が知らない、主人公視点の情報があるから。


 オープニングムービーを思い起こしてみると、


 ゲームは、確か、主人公のローズが15歳の誕生日を迎え、王都にやってくるところから始まる。


 田舎の家に産まれ、苦労した幼少期を過ごしたローズだけど、とある男爵に見初められて侍女に抜擢。そんなとき、王都でのお茶会で若い年代の給仕を募集しているという話を聞いたローズは、男爵に推薦をもらい、あこがれの王都へと向かうことになる。


 そして、お茶会。なんと賊が侵入してくる。正体は貴族に不満を持った青年たちでした。


 自身も平民のローズは、ここでいくつかの選択肢を選んで、賊をなだめる。すると、第二王子か騎士団長の息子の親密度が上がり、男爵家の養子に迎え入れられてセントレア学園への入学を推薦されるという流れになります。


 この辺は1度目の“私”が経験したのと同じ流れね…。


「それにしても…」


 私は改めて周りを見る。


 会場には私の同期となる方とホスト役の数名の先輩。給仕や侍女は皆が若く、20歳にも届いていないように見えるわ。


 門の周囲は大人の騎士たちが固めているとはいえ、これでは賊が入りたい放題だわ。


 もちろん武具は持ち込み禁止だし、アーティファクトの効果で、この会場では魔法が使えないようになっています。


 ただ、内側の私は、この後で賊が侵入してくることを知っている。


 1度目の“私”は賊に刃物を突き付けられて失禁して…そんなトラウマを隠すように、どんどん悪女になっていく…。


 本来なら、このお茶会自体を欠席したらいいのですが、私たちは、“私”を陥れた貴族派の陰謀が、実はここで既に始まっているんじゃないかと思ったわ。


 冷静に賊の青年たちや周囲の状況を見れば何かわかるかもしれない。


「きっと破滅的結末を回避するための手がかりが得られるはず…。」


《ええ。“私”も立ち向かうから。》


 目を閉じて頭の中で1度目の“私”に少しだけ勇気を貰う。


 それに、1度目と同じように人質に取られるつもりはないわ。


 念のため私は、父にお願いして会場に家の手の人間を混ぜてもらっている。今、私の後ろで何食わぬ顔で給仕の仕事に従事しているのが、1度目のときも今世でも私が信頼している付き人のベック。心強いわ。


「さあ、来るなら来なさい。」


 自分に気合を入れて辺りを見回した。すると、


「ああヤダ。アンタ、田舎のにおいがプンプンするわ」


 あれは…、


《“私”が言ったセリフね。確か、地味そうな田舎出身の娘をいじめて、ブドウジュースをかけたのだったわ。》


 1度目の“私”が頭のなかで呟く。


 私の記憶にもある。葵がやったゲームでもその場面は描かれていて、裏庭で涙を流しながらドレスを拭う娘に、主人公がそっとガウンをかけるという、悪役令嬢と主人公の対比が強調された一幕。


 その後、助けられた娘は、主人公のサポートキャラとして、主人公にいろいろな支援をしてくれる。


 もし、ゲームの内容が1度目の事実を基に創られているなら、ここを止めたら、未来が変わるんじゃ…


 そんな突拍子のないことを思いついた私は、つい席を立っていました。


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