5話 笑える事の幸せ
彼女を見なくなってから2週間が経とうとしていた。三鷹はなんとか学校へ行っていたが気力はなく、死んだ魚のような目をして過ごしていた。
「おい、総士〜。大丈夫か? お前」
どこからか声が聞こえる。三鷹は声が聞こえた方を振り向く。
「お、やっと目を合わせてくれた。 最近お前元気なさそうだったから、これやるよ」
田中は三鷹に周りからバレないようにある物を渡した。
「これなんだ?」
「後で開けてみな。きっと驚くぞ」
そう言い残し田中は去っていった。
家に帰り、自室へと入った。そこで田中からもらった袋を開ける。袋はよくある紙袋でシンプルなデザインだった。
(なんだこれは……)
なんとそこには……
猫カフェの割引券が入っていた。
実はこの三鷹、田中以外知らない秘密がある。
それは……
猫が物凄く好きなのだ!
三鷹は今までの元気のなさはどこへ行ったのか分からないくらいハキハキしていた。
「ネッコ♪ネッコ♪ネッコッコ♪」
三鷹は妹の咲と共に猫カフェへと向かっていた。
「にい。それ気持ち悪いよ。」
咲は三鷹の3個下の妹だ。髪はショートで中2とは思えないくらい身長が低い。143cmなのだ。なので街を歩いているだけで三鷹は犯罪者の様な目で街の人から見られる事がある。
「気持ち悪いってなんだよ。今日は猫とたくさん戯れる事が出来るんだぞ? こんな幸せな事中々ないんだ! 」
「うんうん。ソダネー」
三鷹は猫の事になると誰にも止められなくなるほどだったので余計に犯罪者感が増してしまう。それを咲はあまり好ましく思ってはいなかった。
「てか、さっきからなんで私の手をにぃは掴んでるのさ! 」
「兄妹だし良いじゃないか。我が妹よ。」
「いや、良くないわ! このシスコン兄貴!」
ここで一発グーパンが飛んでくる。
グフッ!三鷹から死にそうな声が出たが咲は気にせず歩いていく。ここで止まらなかったのは三鷹と一緒にいるのが恥ずかしいからではない。
実は咲も猫好きなのだ。なので早く猫に会いたい一心だったのだ。
三鷹は腹を抑えながら、咲はスキップしながら猫カフェへと向かっていった。
猫カフェに到着すると衝撃の事実が判明した。
「定休日……」
2人の声がシンクロする。そして2人同時に膝を地面についた。三鷹は元の暗い顔に、咲はなんとか平常心を保っているが精神的には崩れ落ちていた。
2人はカフェでお茶を飲んでいた。
「にぃ。これからどうすんの?」
咲の声は若干震えている。
「うーん。まさか定休日なんて予想もしてなかったからな……そうだ! 咲! カラオケでも行かないか?」
これが三鷹の思う最善策だった。
「カラオケ……? まぁ私はいいけど」
咲は照れくさそうに返事をした。
カラオケで咲は演歌を歌う。
中2の143cmのロリっ子が演歌……誰も萌えないギャップなのだ。そしてもう1つ三鷹は気にしている事があった。
受付の人の三鷹達を見る目だ。
あれはもう完全に三鷹が小学生をカラオケに連れ込んでいるヤバい光景を見てしまった目をしていた。
三鷹は内心イラッとしていたが持ち前の作り笑いでなんとか持ちこたえた。
時々お腹が減り店員を呼んでいたのだがそこでも毎回疑いの目を向けられる……
幸いにも咲が喋る時に毎回
にぃ……
と話し始めるのでそれでなんとか疑いは晴れていた。
(妹に感謝!)
そんなこんなあったが久々の妹とのカラオケを三鷹は楽しんでいた。
「楽しかったね、にぃ。」
「あーそうだな。」
「どう?気分は楽になった?」
「おかげさまでな」
実際カラオケを提案したのは三鷹だったが、シスコンの三鷹にとって妹といる時間は中々の至福の時だった。
「お前なんか顔色良くなったな!」
田中は今までの心配していた声から今まで通りの楽しそうな声で話しかけてきた
「お前のおかげだよ。ありがとな。」
実際は嘘だ。猫カフェは不幸にも定休日だった。だがここは田中を悲しませたくなかったので嘘をついた
「楽しめたなら良かったよ。」
(こいつには色々お世話になってなんか申し訳無いくらいだな)
そんな事を声に出さないように笑っていた三鷹だった。