2話 不幸で不思議な日
撃沈した三鷹が気がついた頃には謎の少女は居なくなっていた。
(クソ……せめて名前だけでも聞きたかったのに……)
三鷹は生きてきた中であんなに可愛い少女を見たことがない。だからちょっとでも接点が欲しかったのだ。そんな思いで食べる昼食は親の手作りなのにも関わらず美味しい味はしなかった。
そして昼食を終わらせ、教室へと戻っている最中三鷹は前から『鬼』が来ている事に気づいた。三鷹は咄嗟に道を変え教室へと向かった……。だが、『鬼』こと佐々木はそんな三鷹を逃さなかった。三鷹はあっという間に捕らえられた。
「何で逃げるのかなぁ? 三鷹くーん?」
顔は笑っていたが声が笑っていなかった。三鷹がビクビクと怯えていると佐々木は
「まぁ何でもいいがちゃんと今日の授業後に指導室へ来るんだぞ?」
と、三鷹に圧をかけた。三鷹は声にならないような声で返事をしたが、佐々木には届いていない様だった。内心今日が命日かも。と思っていた三鷹だったが案外スっと終わってびっくりしていた。
三鷹は若干重い足取りで教室へと帰った。教室へ帰ると今度はクラスが何かザワザワしていた。
「おーい、総士ー」
どこからか若干爽やかな声が聞こえてくる。声の主は田中太郎。あだ名とかではない。本名である。彼と三鷹は友人と呼べる程の関係ではない。田中には田中のグループがあるのでよくそっちで遊んでいる。だがよくこうやって三鷹に話しかけたりしている珍しいタイプだ。
「んー? なんだよ?」
三鷹が少しダルそうな声で返事をすると田中は気にせずに
「今、この学校に革命が起きてるのさ!」
「は?」
三鷹はついにこいつは頭が狂ったか。と、そんなに気にしていなかったのだが田中は
「さっき隣のクラスの田辺くんがね?超絶美少女を見たって言ってるんだ!」
三鷹の耳がピクっと動く。美少女……三鷹は美少女に心辺りがある。さっきの子だ。三鷹は食い気味に
「どんなやつなんだ?」
と聞く。すると田中は困ったように
「その子の事田辺君しか見てないって話っぽいんだ。だから僕はどんなやつかは知らない。」
と正直に話した。三鷹は情報が得られなかった事に若干ショックを受けながら
「ならその子を見たっていう田辺の証言は嘘なんじゃねぇの?」
と、嘲笑うように言った。すると田中は、
「うーん。確かに田辺くんがそんな嘘をつくようには思えないけど、他に誰も見てないなら嘘なのかも」
この言葉を聞いて三鷹は田中にこんな人に流されいすいところがあったのか。と内心驚いていた。
少しの間沈黙が流れ、少し気まずい時間が流れた後、
「すまん。総士、こんなことに時間使っちゃって、今度なんか奢るよ」
「じゃあ売店の焼きそばパンを明日買ってきてくれ」
「了解!」
と田中は快い返事をして去って行った。
あの少女は普通のこの学校の子だと思っていたがどうやらそうでは無いらしい。もしこの学校にいる普通の少女ならここまで大きな話にはならないはずだ。だが何故うちの学校の制服を来ていたのだろう。何か訳があるのだろうか。
三鷹は考えていた。だがどれだけ考えても答えは見つからなかった。
「三鷹!!」
ッッ!?
急に聞こえる叫び声。その正体は……
「は、はいぃ!何でしょう佐々木先生……?」
そう佐々木だ。今日は不運な事に1時限目と5時限目に佐々木の授業が入っている。佐々木の担当は日本史、三鷹が苦手なのも日本史。地獄だ。こんな事を三鷹が考えていると、
「お前、ボーッとしてんじゃねぇよ!ちゃんと授業を聞けよこの馬鹿者が!」
と罵声を食らわせる。三鷹は佐々木には絶対に逆らえないので大人しく
「すみません」
と小さな声で返事をした。クラスの人達からは笑い声がとんでくる。三鷹はこれ以上ない屈辱を味わった。実際は自業自得なのだが。
そして授業後俺は佐々木にシバかれまくった。
学校では何故かこういう教師に限って生活担当をやっている事が多い。それは俺に限らず全員が思っている事だろう。と三鷹は思っていた。
シバかれると言ったが何をされているのかというと、廊下の水拭き、中庭の雑草抜きなどの雑用だ。しかも傍には佐々木付きで……
終わった頃には18時を過ぎていた。
俺は『鬼』から解放されてスッキリしていた。こりゃぁ明日は筋肉痛だな。と呑気な事を考えるくらいに。校門を出る辺りで気づく。屋上の扉の前に弁当箱を忘れた事を……三鷹は急いで取りに行った。
だが、 そこに弁当箱は無かった……
バッグも探したが見つからず、落し物入れにも無かった。誰かが持ち帰ったということも考えたがこんな奴の弁当箱を盗むメリットがない。と結論づけ、その可能性をゼロにした。なんだかんだで1時間は探していたと思う。一体何が起きているのか分からないまま家に帰った。そしてここでも三鷹は親にシバかれた……次は家の廊下の水拭きに庭の雑草抜き、勿論、母親付きで……
三鷹は今日これまでに無いくらいの不幸と不思議を体験したのだった……