夢を見たい
ガールズラブが含まれます。苦手な方は、お気を付けて。
彼女にはもう会えない。
高校2年生になった私は、勉強もそこそこに修学旅行に行くことになった。季節が冬なので、2泊3日のスキー実習をする。修学旅行が楽しみではない人もいるだろうけど、私は楽しみだ。特別理由があるわけではないが、友達と行く修学旅行は楽しい物だ。
朝早くから空港に集まり、わちゃわちゃ騒いでいるみんなを嗜めようとする先生方の努力も虚しく修学旅行の熱は冷めない。結局、男の先生が声を抑えて怒鳴り飛行機に間に合うように説教して収まった。
何とか静かになりみんなで飛行機に乗り込む。残念ながら友達とは席が離れてしまったので隣の子と話すことにしたー
ーが途中で寝てしまった。申し訳ないなと思ったが隣の友達も寝ていたのでおあいこ様だ。
長い長い移動が終わり、私たちはホテルに着いた。ホテルに着くとすぐに夕食の時間だ。夕食はビュッフェ方式だったので食べすぎてしまった。
、、、太らないよね?まぁスキーするし大丈夫か。部屋に戻ると彼女しかいない。もう1人はどうしたのだろう。
「熱が出たんだって。」
「あ、そう。大丈夫かな?」
「修学旅行来られなくて可哀想だよね」
いきなり話しかけられて驚いた。けど2人になれたのは嬉しい。もう1人とはあまり話したことがないので気を使っただろうから。その後はたわいもない話を続けた。
「ふぁあ〜あ。」
「眠い?寝ようか」
夜も更けてきたので寝ることにする。まぁ、女子高生がそう簡単に寝ることはないので話は続く。
「ねぇ、どんな子が好きなの?」
と彼女が聞く。よくあることだ。修学旅行に来て就寝前に女の子達が恋バナで盛り上がる。これもそんな感じだろう。
「君みたいな子だよ。」
冗談まじりに私は答えた。
「もう、ちゃんと答えてよ。」
「そういうあなたはどんな男性が好きなの?」私がそう聞くと意外な返事が返ってきた。
「私、お、女の子が好きなの。」
そう言った彼女の声は震えていた。
「へえ、そうなんだ。」
「引かないの?」
彼女は言う。
「引かないよ!好きな人は人それぞれだからね。」
「・・・ありがとう。」
彼女の言葉を聞きながら夜に落ちていった。
彼女がどういった気持ちでそう言ったのかよく分からなかった。感情がうまく読み取れなかった。
なぜだろう?
スキー実習が始まる。彼女とは別の班なのでお別れを言いスキー班のみんなと合流する。
「スキー滑れる?」
「滑れなーい。」
などと他の班員が会話している時、私は別のことを考えていた。
昨日の彼女の話だ。
「女の子が好き。」
そう彼女は言ったが、それに私は含まれているのだろうか。私のことが好きなのか?いや、これは自意識過剰かなどと考えていたらスキー実習が終わってしまった。
彼女より先に実習を終わり、夕食を済ませて部屋に戻る。窓を開け外を見下ろす。彼女がスキー板を持ちホテルに戻っている。そこに同級生の男の子2人が来た。チャラい感じの嫌な奴らだ。彼女がそいつらと話し終えるのを見届け私は部屋に戻った。
部屋でテレビを見ていると、彼女が帰ってきた。早いね。そう彼女が私に話しかける。
「ああいう男が、好きなの?」
不意に私が聞くと、
「違うよ!私が女の子を好きなの知ってるでしょ!」
と彼女が答えた。
ほっとした。何故だろう?
その後は、何気ない会話を続けていた。たまに彼女が笑うととてもドキドキする自分がいた。この感情は何なのだろう。恋?、、、恋かも。
そうか。
「私はあなたのことが好kー
ー目が覚めた。彼女が好きだ。しかし気づくのが遅すぎた。だってここは私の部屋だから。彼女は私の夢の中の存在だった。私のこの気持ちはどうすることもできない。嫌だ、そんなの嫌だよ。
できることならもう一度彼女に会いたい。
彼女にはもう会えないのだろうか。
体を動かせない。宙に浮かんでいるようだ。誰かの意識が入ってくる。
「会いたい」
ゆらゆらと頭が揺れる。何かを考えようとしてもうまく考えられない。思考を諦め、記憶を辿ることにする。
「早く滑りたいなー。」
「スキー楽しみだね!」
後ろの席から聞こえてくる。隣を見ると寝ている人がいる。その子が誰なのかはわからない。窓の外を見ると雪が降っている。少しづつ思い出してきた。私は修学旅行に行った、はずだ。不意に意識が飛ぶ。
気づくとホテルの一室にいた。記憶が曖昧で細かいところは覚えておらず、ホテルに着いた記憶が飛んでいる。頭がぐらついている。この場面も正確に覚えていないみたいだ。
「私、お、女の子が好きなの。」
「へえ、そうなんだ。」
ベッドに寝転がり誰かと話している。彼女は誰だろう、顔がぼやけていて思い出せない。記憶の中の私と彼女が話していると、彼女が先に寝てしまい私も寝ようとしている。
「わt、sh*はあnt、gす、k
記憶の私が寝たので場面が変わった。今はさっきの彼女が何かを言っている。しかしノイズが入りうまく聞き取れない。記憶を辿るうちに忘れてしまったのだろうか。何か大事なことを言っていた気がする。記憶を辿るうちにいろいろなことを思い出した。私が高校2年生で女の子が好きなこと。修学旅行でスキーをしに来たこと。そしてー
ー私の、彼女に対する想い。
彼女が何かを言っているところで記憶が終わっている。もう思い出す事はできないのだろうか。彼女のこと、彼女が最後になんて言っていたのかも。彼女のことを思い出して、彼女に会いたい。そうすれば私の気持ちを伝える事ができるのに。
できることならもう一度彼女に会いたい。
彼女が好きだ。
何度夢を見たことだろうか。何度も期待して眠りについても見る夢はどれも彼女とは関係ないことだ。最後に彼女に会ってからどれくらいの月日が流れたか分からない。彼女のことをどんどん忘れていく。彼女の声も、顔も姿かたち何もかも思い出せない。ただ一つ覚えているのは彼女が好きだということだけだ。彼女は私のことを覚えているだろうか。
「わははは!」
テレビの音が聞こえる。ぼーっと画面を見ていると誰かが部屋にはいってくる。
「何してるの?」
テレビを見ていると彼女に告げ、テレビに意識を戻そうとした。
「え!」
何度見しただろう。彼女がいる。顔は覚えていなかった、けど好きになった人のことが分からないはずがない。
「私のこと見過ぎだよ。」
彼女が笑う。彼女の笑顔も思い出した。彼女の声も。彼女の、彼女の、彼女への、
「好き!好きです!」
考えるよりも先に声が出ていた。想いが溢れて何度も彼女に好きだと伝える。彼女が何かを言っているが涙が溢れ、やっと想いを伝えることができた安堵感でうまく聞き取れない。
宙に浮かんでいるような感覚の中で突然意識が持っていかれる。前にもあったような感覚だ。気づいた時にはドアの前にいた。ここがどこなのか考えるよりも動け、行動しろと命令されるような感覚がある。考えるのをやめドアを開ける。
テレビの音が聞こえるなか彼女がいる。
「何してるの?」
テレビを見ていると言われる。それだけなのか、やっと会えたのに彼女はなんとも思っていないのだろうか。
「え!」
彼女が何度もこちらを見てくる。
「私のこと見過ぎだよ。」
彼女の様子に安心して笑みがこぼれる。
「好き!好きです!」
彼女の言葉を聞き記憶のノイズが取れる。
「私はあなたが好kー
ノイズは取れたが彼女の言葉は途切れている。
記憶を辿っていると今の状況を思い出した。
彼女が何度も私に好きだと言ってくる。
「私も、私もあなたが好きです!」
私の想いを伝え、彼女を見る。・・・どうやら聞こえていないらしい。彼女が落ち着くまで待つことにする。
私が泣き止み、落ち着くと彼女がこちらを見ている。
「・・・私も、あなたが好きです。」
彼女に抱きつく。彼女の想いも私と同じだった。その喜びや安堵感で気持ちがいっぱいになる。ひとしきり喜び彼女を見る。彼女の顔がどことなく暗く見える。
「あなたに会えて嬉しい。けどこれは夢だよね?」
忘れていた。彼女に会えた喜びで夢だということを考えていなかった。
「最初に会った時、修学旅行の時は分かってなかった。けどさっきドアの前に立っている時気づいたの。」
「私の体は自分の意思で動いていないって。」
彼女の話はこうだ。私は夢の中の存在であなたに創られた。私の行動や想いもあなたの潜在意識で創られた偽物だと。
「・・・・・」
何も言えない。彼女が夢の中の存在だとは分かっていた。ただこんなに深く彼女のことを考えていなかった。
「私はあなたの妄想の産物なの。」
「違う!あなたは妄想なんかじゃない。」
言葉では否定しても頭では分かっている。けど否定をしないと彼女という存在がなくなってしまいそうだ。
「もう目が覚める頃だね。」
光が差してくる。夢が終わってしまう。
「前みたいに急にお別れするのは嫌だから伝えるね。」
この夢が終われば彼女とは会えなくなる気がする。もう一度、好きだと伝えよう。
「私があなたに創られた物で、私の想いもあなたの創造だとしても私は、私は!」
「「あなたが好き!!!」」
目に見えるのは自室の天井だ。目が、覚めてしまった。彼女に会うことはもうできないだろう。会えたとしてもそれは彼女に似た偽物、私が創りあげた創造物だろう。彼女に会いたい気持ちは残っている。けどもう伝えたいことは伝えた。前に進もう。
もう夢は見なくていい
ご愛読ありがとうございました。