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第93話 水を差すもの

 オッサンとキザシの1対1の対決、それは、オッサンのカウンターを狙った1発で勝敗が決した。


 そしてこの闘いの間、先輩も、アリオンも、俺も何もする事は無かった。

 キザシは、街を襲った悪人ではあったが、オッサンの対決に関してだけは1対1で正々堂々と戦ったのだ。


 オッサンが倒れたキザシと何か話している。遠目で分からないが、2人の間にあったさっきまでの緊張感は解け、今はまるで家族の間の団欒を見ているような、そんな気分にさせてくれる。


 そしてオッサンは立ち上がる。その瞬間まで、オッサン以外の俺達は動く事すら出来なかった。


「イザークさん、その……彼は……」


 決闘の立会人をしていた先輩がおずおずと声を掛ける。先ほどの決闘を一番間近で見ていた先輩だ、何か感じる物もあったのかもしれない。


「レイスの坊ちゃんか……すまねぇ、俺の兄弟が、お前さんにも迷惑を掛けてたんだな。兄弟の代わりに謝らせてくれ。あと、戦いを見守ってくれてありがとな」


「いえ、それは構わないのですが……これでよかったのでしょうか?」


 先輩が「これでよかったのか」と聞いた理由も分からなくもない。最後の最後、正々堂々と戦ったうえでキザシは倒れた。だが、そのキザシの最後の戦い方等を見るに、もしかしたら、和解して一緒に生きる道も……


「坊ちゃん、それは違うぜ」


 そんな風に「もしかしたら」の話を始めようとした先輩を、オッサンは制止し、こう続ける。


「キザシがこんな結末を迎えたのも、そんなキザシと俺が戦う事になったのも、全てキザシと俺が過去から今まで、自分で選んで生きてきた証なのさ。……まあ、お世辞にもおりこうさんではなかったし、いろんな人に迷惑を掛けて間違えながら生きて来た奴だとは思うけどよ」


 地面に横たわるキザシに目線を向け


「……今だけは、こいつの選択を否定しないでやってくれ……」


 そう告げるのだった。


 とにかく、ここでの戦いは終わったのだ。……犠牲は出たが……。


 俺とアリオンも先輩とオッサンに近づき、声を掛けようとした、まさにその時だった……


――ビクン


 キザシの体が1回、大きく跳ねた……


「!! 先輩、オッサン!! 気をつけろ!! そいつ、様子がおかしいぞ!!」


 既にキザシから視線を離していた先輩とオッサンが俺からそう声を掛けられ、再びキザシに目を向けると……


「あっ!! ああぁぁぁぁ!!」


 先ほど、亡くなったはずのキザシが


――のたうち回りながら、オッサンに縋ろうとする様子が、見えた。


「う、うわぁ!!」


 先輩はそのあまりの様子に驚いて後ずさるが……


「おい!! どうした!?」


 オッサンはそのまま、苦しみながらキザシを抱き上げ声を掛ける。

 いや、そもそも、先輩とオッサンでキザシの死亡確認をしてたはず、何故今動く?


 キザシは苦しみながらも、言葉を続ける。


「イザーク……いいか?……よく聞け……俺はもう駄目だ……だが……」


 キザシは、いや、キザシだったもの(・・・・・・・・)は体の色、体の形を変えながら、そのまま、声が変わりながらも、一生懸命オッサンに何かを訴えようとしている。


「くっそ……アの野郎……こんナの仕込……んデヤがっタか……時間がナい……イザーク、いイか? 4つだ、4ツノコアヲ同時……に叩け!! ワかッタか!? ワカッタラ、離れろ!!」


 そう言った後、キザシは自分を抱き留めるオッサンを突き飛ばすと、俺達から距離を取るように動こうとする。その間もキザシの体表は両手で抱えるようなサイズの球体を次々に生み出しながら、膨張していく。


「な、なんだこれ……一体何が起きようとしてるんだ?」


 アリオンがちょっと怯えた様子でそう聞いてくる中……キザシは苦しそうな声を上げ、そのまま……20メートル程のサイズとなった。そしてその見た目は……この世のものとは思えない、冒涜的な姿となった。


 頭には星型のような頭、そこから5本の触手のようなものがウネウネとしており、胴体は樽のような形、そしてその胴体と頭のつなぎ目には、無数の球体が付いているのが分かる。遠目に見れば植物のようにも見えなくもない、だが……


 手は無いが足はあり、そして、その無数の球体はよく見ると、一つ一つが嘆き悲しんでいる人間の顔のようである。


 はっきり言って、直視するだけで恐怖心が大きく煽られ、その恐怖に支配されると他の物事を考える事すら難しいだろう、そんな怪物が……


「ピィヤァァァァァ!!」


 その怪物がまるで、俺を見ろぉぉぉぉ!! とでも言わんばかりに大声で一鳴きするのである。


 まずい、こんなのが街中で暴れれば……


「う、うわぁぁぁぁ!!」


 とアリオンが叫ぶ、そして、そんなアリオンの頭を俺が一発、ボコっと叩く。


「いった、何すんだ!!」

「ドラゴンに生身で立ち向かった男がこんなのでビビるなよ。なに、見た目は気持ち悪いが……ドラゴンよりは絶望感は無い」


 俺はアリオンにそう告げながら、ドラゴンにフォームチェンジ。倒すとなると……最大火力で一気に潰すのがよいだろうと踏んでの事だ。


「これは……星導教会め、死者をも愚弄するのか」

「……分かったよ、俺が、お前を止めてやる!!」


 先輩もオッサンも覚悟を決めたのか、武器を構え、巨大な敵を睨みつける。


 俺は腰の金属箱から金属板を取り出し、そのまま左の腕の金属箱にセット。ドラゴンの技のチャージに入る。


「アリオン!! 先輩!! オッサン!! 行くぞ!!」

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