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第92話 激突!オッサン対オッサン!(ネタバレ:オッサンが勝つ)

 キザシから決着の宣言がされてからすぐ、キザシの姿が消えた。


 いや、キザシが消えたわけではない。おそらく、目にも止まらぬ速さで移動し続けているのだろう。

 先ほどオッサンに放った目にも止まらぬ5連撃、そこから察するに、キザシは素早い動きを生かした戦い方をするタイプだと分かっている。


 しかし、先ほどは変身したオッサンもその速度と同等か、それを上回る速度を見せていた、だから、力で勝っているオッサンの方が有利……


「……」


 だがオッサンはその場で構えたまま、動こうとはしない。


「ほらほらほら、どうしたどうした⁉」


 どこからともなく聞こえてくるキザシの声と共に、構えたままのオッサンに斬撃が絶え間なく襲い掛かる。


――パァァァァン!!


 戦闘用スーツが守りを固めているためそのまま斬撃で斬られるような事は無いものの、オッサンの体中の至る所から金属音が鳴り響き、その衝撃で火花が体中から散っている。


「……」


 だがそれでもオッサンは動かない。見守っているこちらとしては非常にもどかしい。


 立会人として見守っている先輩も、周囲を警戒しているアリオンも態度には出さないがもどかしいだろう。

 一方、俺の横で一部始終を見守っているフェンは大して心配していないようだ。


『心配しなくても、オジサンが勝つよ』と一言告げた以降は、興味を失ったのか、チラ見程度しかしていない。


「ほらほらほら!! もうそろそろ反撃しなよ!!」


「……そうだな、もうそろそろ反撃しようか」


 オッサンがやっと動いたが、それも少しだけ構えを深くし、1発攻撃をするための予備動作程度だ。


「もう遅い!! もらった!!」

「!! ふんっ!!」


 キザシが止めを刺そうとし、そしてそれに呼応するようにオッサンが斧を一振りした……


***


 キザシは勝ちを確信した、と同時に、悲しい気持ちになった。


 自分は、こんな弱い相手に自分の名前を渡すことになったのか、と。


 イザークは何度攻撃してもピクリとも動かない。


……もういい、やはり、無駄に期待した自分がバカだった。こんな戦い、さっさと終わらせよう。


 そう思い、止めにと首を狙ったその時……


 イザークが身を屈ませ、そしてそのまま……キザシの加速が、止まった。


(おいおい、俺の足、何で動かないんだ?)


 キザシは下半身を見……足が、下半身が無い。


 イザークは戦いを捨てたわけでも、本気を出さなかったわけでもないのだ。ただ1撃、自慢の力だけを正々堂々とぶつけ、それで戦いを決めるつもりであったのだ。


 そのためにはキザシの動きが読みやすい、止めを放つタイミングを見計らっていたのだ。


(何だよ……俺を倒せるなら、さっさと倒せよ……)


 足を失ったキザシはそのまま為す術なく、地面に体を叩きつけられる。


 そして、そんなキザシにイザークがゆっくりと近づいていく。


「あーくっそ、俺の負けだ!!」


 イザークにそう声を掛ける。だが不思議と、キザシは嫌な気分ではないのだ。


「イザーク、お前、素早く動けるのに、わざと力だけで戦ったな?」


「ああ、お前が自慢の素早さで戦うなら、俺は自慢の力で正々堂々戦った方が良いと思ってな」


 甘い奴だ、とキザシは思う。紛いなりにも街を襲い人を手に掛けた人間に対して、言うに事欠いて正々堂々と、である。


「俺が搦め手を使うかもしれないだろ? お前はもう少し、人を疑う事を覚えた方が良い」


 全く、こんな甘い男が名を継ぐんだぞ。心配で心配で……悪い気はしない。


「ああ、お前の名をもらうんだ。死んだときに、お前に顔向けできないような生き方だけはしないと誓うよ」


……もう、何も言うまい。この甘さがこいつの考えるイザークというなら、敗者であるキザシに口出しする権利もないのだ。


「ああ……あの世に行ったら母さんに謝らないと。億劫だなぁ……」


「何十年か待てば、俺も、俺の兄弟達もそっちに行くさ。その時に皆で誤ってやるよ。だから、何十年か待て」


「なげぇよ……」


「地獄の底で50年耐えたお前なら、何十年待つだけならいけるだろ」


「簡単に言ってくれる……待ってやるよ。だから、お前も未来を見届けるまで、天国に来るんじゃねぇぞ……?」


「ああ、面白い土産話たんと持って行ってやるから、楽しみにしてろ」


「それじゃ、後は頼んだぞ、イザーク……」


 そう答えると、キザシはそのまま目を閉じ、目を覚ます事は無かった……。


「お休み、イザーク(・・・・)。俺はお前の名に恥じない人生を送ってやるよ」



***


 ノッシノッシと王都からレオたちの居る街に向かって歩く大型の亀の魔獣。大型にもかかわらず、その移動速度は馬にも劣る。そしてその背中に乗った司祭は考えを巡らせていた。


 考えているのはキザシの事、そして、彼に内緒で施した禁呪についてであった。


 キザシが自分に対して造反している場合、キザシを始末しなければならない。だが、その場合、キザシに施した禁呪が仇となる。


 キザシが主に実行していたのは、暗部に関わる案件であったのだ。万が一にも失敗は許されない。

 失敗した場合も、その周囲の人間に感づかれる事が無いよう、禁呪を持って保険をかけていたのだ。


 その禁呪とは、キザシの体を媒体にし、大型の魔獣を生み出すというもの。

 そしてその禁呪の発動条件は――キザシの死。


「全く、キザシが負けるとは思わないが、造反した不良品だった場合、道具の処理に大型魔獣が必要とは……贄どもも、もう少し使い方を考えなければならないようだな」


 司祭が過去、キザシだけ特別に扱ったのは、キザシを認めたわけでも同情したからでもない。

 その方が道具として利用価値があると思ったから、ただそれだけだったのだ。

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