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第91話 赤オーガ

変……身!!(へん……しん!!)


 オッサンの一言でオッサンの体は光に包まれる。その光は俺や先輩のような激しい光ではなく、どこか落ち着いていて、心を安らげるような仄かな光であった……だが


「うぉぉぉぉぉ!!」


 その仄かな柔らかな光からは想像もつかないほどの大声と共に姿を現したオッサンは、全身を深紅に染め上げたかのような姿に、頭には2本の角。これはまるで……


「まるで……オーガ……」


 そこに立っているのは1人の赤鬼。周囲を威圧するするかのような風貌にキザシはもちろんのこと、先輩、アリオンすら気圧されているようだ。

 そういう俺も、あまりの迫力に言葉を失っている。


「……それが、お前の本当の力か、イザーク……。そうか、分かった」


 キザシはそう呟くと、構えていた双剣の構えを変えた。先ほどまでは普通に2本持っていたが、今は双剣を逆手に構えている。その姿はまるで、カマキリのようだ。


 オッサンはそんなキザシに斧を突きつけ


「さあ、始めようか兄弟。お仕置きの時間だ。安心しろ、きちっと反省させてやる」


 こう宣言する。ここから先は、本気の戦いだと言う事だろうか?


「……助かったよ。神など斬り殺したいほど憎んではいるが、お前が俺の全力をぶつけるにふさわしい相手だって事に対してだけは、神に感謝だな」


 キザシもキザシで、そう宣言し、2人の間に緊張が走る……だがその数秒後には


――フッ


 と2人の姿が消え、次の瞬間、2人のちょうど中間あたりの位置から


――ガキィィィン


 と武器と武器がぶつかり合う音が聞こえる。


 確かにキザシは俺達でも視界で捉えるのが困難なほど素早い動きをしていた。だが、今に限ってはオッサンの動きも俺達には追えなかった。


 オッサンの斧の切っ先を、キザシが双剣をクロスして受け止めている事から、キザシの動きにオッサンが付いて行ったというよりも、オッサンの方が動きが早くてキザシがなんとか反応できたような状態なのだろう。


「な……なんだと!!」


 キザシも驚愕の表情でそう叫ぶ。明らかに力押しのような戦い方をしていたさっきまでのオッサンからは考えられない速度での動きだった、その上……


「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 そのまま膠着するかと思われた所、オッサンの掛け声とともにオッサンがジリジリと力で押し続ける。


「くっ……そ!!」


 キザシはそのまま押されるのを嫌い、オッサンの斧を真正面から受け止める体制から、切っ先を逸らし、オッサンが体勢を崩したところに


「うぉりゃ!!」


 と回し蹴りを放つ。その動きは素早く、頭の側頭部にまともに入る。


「……まだまだだな」


 オッサンは側頭部に蹴りを受けたままそう呟くと、斧から右手を離し、その右手をぎゅっと握りしめ


――ドゴッ!!


 とキザシの腹部に1発お見舞いした・


「ぐっ!!」


 その勢いからキザシは吹き飛び、そのまま地面を転がる。対してオッサンは首を一回コキッっとしただけでその場で仁王立ち。


「な、何故だ……まともに入ったはず……何故効いてない!?」


「そんな事は無いさ、効いてるさ。だけど、俺も覚悟を決めてるのさ。お前の悲しみも辛さも、俺が受け止めてやるってな……それに、俺らよりはるか年下の子供から、もっと強い覚悟を決めた蹴りを食らった事があっただけさ」


 オッサンも変身中で目線は分からないが、どもう顔はこちらを向いているようだ。あの時の蹴りの事はその……ごめんなさい。


「キザシ、お前の覚悟はその程度ではないだろ? お前の覚悟、俺が受け止めてやる、来い!!」


「ふっざけるな!!」


 キザシは叫びながら立ち上がり、そして、逆手に持った剣の柄の先端をオッサンに向ける。


「そういうお前だって、俺を殺す気で来い!! さっきから手を抜いてるだろ!! 俺は覚悟を決めてお前を殺す!! だからお前も、俺を殺す気で来い!! これは……俺とお前の、誇りをかけた戦いだ!!」


 オッサンは答えに窮しているように見えた。やはり、殺せと言われるのは辛いのだろう……だが


「お前の覚悟を受け止めると言ったからな……わかった……」


 そう答えると、オッサンは斧を水平に構える。その様子を見ていたキザシは、オッサンが本気で殺す気でやってくると悟ったのか


「いくぜ……この一撃で全てを決める……!!」


 キザシも構えを取り、顔を伏せ攻撃の構えを取った。その間際、顔を伏せたキザシの口元がわずかに何かをつぶやいたように見えたが、その声は聞こえなかった。


 俺はその唇の動きから「ありがとよ」と言ったように見えたが、それは、オッサンの心が少しでもキザシに通じていたらいいな、なんて思ってたせいでそう見えたのだろう。キザシが何をつぶやいたか、それは本人しか分からない事だ。


***


「ありがとよ」


 キザシは顔を伏せ、そう呟いた。


 街の襲撃、そして無差別殺人。これは確かにキザシがやろうとした事であった。

 だがその裏にあった思惑、それは……後日、教会の総本山に「星導器を奪うために」命じられたと訴えを上げ、母さんを若返らせた上で脱退をする理由作りであった。


 星導教会、それは、この王国だけでなく周囲の国にも浸透しており、現在、謀反の気を起こしているのはこの王国の司祭だけであると調べは付いている。


 過去にキザシを拾い上げた自称次期最高司祭、彼は暗部を掌握していたがため、最高司祭としての登用はされず、この王国の司祭に収まっているのだ。


 他国からも謀反を疑われては教会の威信にかかわる、だからこそ、訴える事で勝算はあると踏んでいた……だが、キザシの母は、キザシの思うような返答はくれなかった。


 それがあの時は悲しくて……他人にイザークと言う名を付けて育てていた事は知っていたが、自分の事を忘れていたのか、俺は50年も帰りたい一心で頑張ってたのに、なんて思ってしまったが……


(母さんが若返りなんて誘惑に負けなかったのは、俺の代わりにイザークが守ってくれてたからだな)


 手合わせして実力のほどは確認した、このイザークは、強い……本気を出されれば、倒されてしまうだろう事は容易に分かった。この戦いは……本当に何も生まない、意味のない戦いなのかもしれない。


 だが、キザシはここで止まるわけにはいかなかった。


「さあ決着をつけよう!! イザークの名を懸けた戦いの!!」


 せめて最後に見極めたい。母さんが俺にくれた名前を継ぐに値する男か否か。

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