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第89話 イザーク争奪戦、開始

 しばらく後、俺達は店を後にした。


 店の中には土の魔法で造成した簡易なベッドを用意し、そこに老婆を氷漬けにして寝かせておいた。

 片が付いたら丁寧に埋葬するつもりだが、今はそれよりも……


 最期に店を出たオッサンが、数歩歩み、そして歩みを止めてから180度向き直り


「ありがとうございました!!」


 と頭を下げる。数秒頭を下げた後、オッサンはそのまま両手を持ち上げ


――バシィィィィィィン!!


 と、街中に響き渡るのではないかと思うほどに自分の頬を叩き


「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 と気勢を上げているのだ。


……えっと、俺の他愛ない蹴り一発で気絶したオッサンが、そんな音だけで獣が気絶しそうな気合の入れ方するとは思わなかったんだけど……


「オッサン、頬が赤いけど大丈夫か?」

「ああ、これはあくまで気合を入れただけだ、問題ない」


 いや、あまりの勢いにドン引きなんですが。

 先輩とアリオンも呆れ顔……あくっそ、こいつら変身してるから表情見えない。


「ところで、お前のその変身は何モチーフなの?」


 これから決戦に向かうにはあまりに軽薄な質問かもしれないが、肩の力が入り過ぎてもよろしくない。俺は努めて普段通りに過ごそうとした結果、アリオンがどうして変身しているのか、今さらながらに疑問を抱いた。


「ああ、レオが山頂で落とした音叉を使ってな。緊急事態とは言え、勝手に使ってスマン」

「音叉?……ああ、あの闘いの中で落としてたのか……別にいいよ。有効活用してくれる人に出会えたみたいだしな」

「そう言ってもらえると助かる。それで、俺の中の幻獣。ピカトリクスが力を貸してくれたんだ。この頭の触覚みたいなのは、多分開いた本だろうな」


 へー。ピカトリクスって幻獣が居るんだ。知らなかった……ん? 本?


「ピカトリクスって、どんな幻獣なんだ?」

「本人曰く、魔導書、つまり本だな」

「幻獣なのに本?」

「まあ、細かい事は気にするな。これからは俺、フェンリルナイト・グリモアも力を貸すから」


……えっと、ちょっと待ってね。


「……別に、フェンリル関係なければフェンリルナイトって言う必要無いぞ?」

「いいじゃんか、仲間って感じがして」


 あの時適当に名乗った名前が独り歩きしている事に危機感を覚える俺であった。


***


「……来たか」

「ああ」


 キザシは広場で待っていた。腕を組み、目を閉じ天を仰いでいる。

 まるで、黙とうをするかのように。


「キザシ!! 貴様はこの剣が目的だったはずだ!! 何故街を襲った!?」


 先輩がキザシに向け、剣の切っ先を向けながらそう聞くが……


「レイスくんだっけ、ごめんね、俺、その剣に全く興味ないんだ」


 あっさりとそう返される。


「貴様は、自分を捨てたお袋、そして、この街が憎かった。だから壊した、そうだろ?」


 オッサンがそう問いかけるも、キザシはうーん、と首をひねってから


「半分正解かな? 俺は、この街もどうでもよかったんだ。ただ、母さんとの失われた生活を取り戻したくてね。ほら、見てよこの体」


 キザシは腰に手を当て、胸を張る。体がどうしたって?


「もうそろそろ60歳にもなろうというのに、この若々しい体。そうさ、教会は若返りの禁呪を発見して、俺に試していたのさ。そして、俺は母さんにも若返りの禁呪を施して、失われた生活を取り戻したかった!!」


 マジか、こいつ、オッサンと同じ年くらいなのか!!


「でもね、母さんがそれを拒むんだよ。だからせめて、息子として、死に際は看取ってあげないとね!!」


 さっきから母さんと言ってるが、こいつが60歳くらいとするならその母さんに当てはまる年代の人は……


「ああ、お袋が、こいつの本当の母親だ。そして俺は、孤児だったところをお袋に拾われた」


「でもね、母さんがくれた最高の宝物を返してもらわないとね……なぁ、そこの偽物のイザーク!!」


 キザシがそう言いながらオッサンを指さす。どういう……ことだ?


「悪いが、俺もこの名前が気に入ってるのでな。思い通りにならないからと親を殺すような奴に、むざむざ渡しはしない」


「はっはっは、流石は俺の名前を名乗る男!! それでこそ倒し甲斐があると言うものだ!!」


 キザシがそう言いながら笑う。これは……盤外戦術か? こうやって相手の感情を逆なでしようと……


「御託はいい、さあ、イザークの名を懸けて、決着をつけよう」


***


「何!? キザシのやつ、街を襲撃してるだと!?」


 イザークとキザシの結党が始まる頃、王都の司祭にキザシが送った伝令が到着しており、報告を受けた司祭は頭を掻きむしる。


 そもそも、今朝方王宮に至急で呼び出され向かった所、造反の疑いをかけられ、その弁明とその後の表面上の証拠を消すためにほぼ1日が潰れたというのに……


 そういえば、と司祭は思い出す。確かキザシの幼少期はあの街に住んでいたはず……まさか!!


「キザシ、奴め、自分のために我を騙したのか!?」


 これまでの働きから教会への造反はないと踏んでいたが……油断するタイミングを見計らってただけか……

 まずい、まずすぎる。王都から造反を疑われてる直後に街を襲撃したのが教会の関係者と知れたら……


「生存者を皆殺しにし、証拠を残すな!! 大型魔獣兵も出せ!!」

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