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第8話 誰が為のヒーロー

 さて……


「なあ、相棒」


『なに?』


「馬車で片道半日くらいかかるんだってよ、どう思う?」


『馬どもの貧弱な足ではその程度が限界かな?僕なら往復で1時間有れば余裕だと思うよ』


「このクッソ寒い最中に雪山で山登りだってよ。どう思う?」


『ただのお散歩かな?』


「じゃあ、行っても問題なさそうか?」


『主、一番の問題があるよ』


「なんだ?」


『主が僕のスピードに付いてこられなくて振り落とされる事だよ』


「この野郎」


『こんな可愛いメスフェンリルを捕まえて野郎呼ばわりはひどいかな。僕、悲しくて主を山の上から突き落としちゃうかも』


「……全く、物騒な奴だ」


 時々、フェンの言ってる事は本気か冗談か、判断に困る時がある。


 だが、今はこれでいい。おかげで緊張感は程よくほぐれたと思う。


 さて、行くか! 俺は応接室の扉を開けた。


「……やっぱりあんた、何かやらかす気だったわね?」


……扉を開けると、そこには姉さんが待ち構えていた。


「いやいや、ちょっとそこまで薬草を摘みに……」


 俺がちょっと冗談めかして躱そうとしたが、姉さんはそんな俺の冗談めかした言葉なんて無視して言葉を続けた。


「私も連れ……」


「断る」


 食い気味に断ったら、姉さんが釣り目をさらに吊り上げて睨んできた。


「睨んでも駄目だぞー」


 次は拗ねたような表情を見せた。


「拗ねても無駄だぞー」


 姉さんが百面相で迫ってくるが、塩対応で全て却下する。


……あ、子供みたいにほっぺた膨らませてるのかわいい。10ポインツ!!


 そんなこんなで姉さんに対応していたが、姉さんの百面相も尽きたので、そろそろ出発しようかな……


「……なんで……」


「ん?」


「なんであんたは、そうやって一人で全部解決しようとするのよ!!」


 さっきの百面相とは変わって、真剣な顔をしていた。真剣に怒り、真剣に嘆き、真剣に睨み


……真剣に泣いている


「あんた、1年前の勝負の命令、まだやってないじゃない! 自分を助けろと命令しなさい!!」


「いや、だから、ロゼッタと仲直りしろと命令したはずだけど……」


「あんなの命令じゃないわ!! ロゼッタとは私が仲直りしたかったから仲直りしたの!! あんたはいつも、自分のために動かないじゃない!! たまにはあんたも助けを求めなさい!! 我が儘言いなさい!!」


――自分の我が儘、か


 母さんを助けたい。それは紛れもなく本心だ、だが……


 1年前の姉さんとの喧嘩と、その時の命令って、なんであんな事言ったんだっけ……


 どっちも、悲しむ家族の顔を自分が見たくなかったから、という理由なのではなかったか?


 まだ俺が小さい頃、父さんも忙しく母さんもロゼッタにかかりきりだったから、俺の面倒をよく見てくれたのは姉さんだった。


 そして、まだ幼い頃の俺が悲しかったり痛かったりした時、一番最初に笑顔を向けてくれたのは姉さんだった。


 だから、小さい頃は生意気にも「姉さんの笑顔は僕が守る」なんて思いあがっていたのだ。


 そして、今や力を手に入れ、もしかしたら母さんの命すら助けられる可能性が出てきたのだ。


――我が儘言いなさい


 よし、母さんを助ける、これは決定事項だ。だから、俺は今から一つ、我が儘を言おう。


***


 顔を伏せていたリリカは、自分の頬に何かが触れるのを感じた。


 ふと顔を上げると、いつの間にか流れていた涙を、レオの手が拭うところだった。


 レオはリリカに笑顔を向け、こう言った。


「じゃあ、姉さんに一つ、我が儘言ってもいいかな?」


 リリカはレオが言葉を続けるのを待つ。


「俺は今回だけ、姉さんのヒーローになる。だから、俺を信じて待っててくれ。」


 意味がわからなかった。


「は? え? レオ、貴方、お母さんのために薬草取りに行くのよね?」


「ああそうだ。そして、薬草を持って帰るのは決定事項だ」


「それなのに、何で私のヒーローとかいう話になるのよ⁉」


「小さい頃の俺は、姉さんの笑顔を守りたい、なんて思ってた子供だったんだ」


「う、うん……」


「姉さんを喜ばせたい一心で、姉さんの好きな花で指輪を編んでみたりするくらいにはね」


「えっ……」


意図せず長年聞けなかった謎の回答が聞けて思考が追い付かない、だが、レオはさらに言葉を紡ぐ。


「だから、()の我が儘を叶えてほしい。俺を信じて待っててくれ」


 一呼吸置いて、レオはこう締めくくった


「今回だけでいい。俺は、姉さんの希望になる」


***


 夜も10時を過ぎたその頃


――バタン


 レオが玄関から出てきた。今から出発のようだ。


『主、僕、あまり人の恋路に口を出したくないんだけどさ。姉と弟って、マズいと思うかな?』


「は?お前、なにいってんの?」


『いや、さっきのやり取り、知らない人が見たら口説いてるようにしか見えなかったかな?』


「えぇぇぇぇ……」


 いや、確かにヒーローの力を感じてからはクサい行動やセリフ言う事あるな、とは思ったけど、そこまでだったか。こりゃ、ヒーローの呪いとでも呼ぼうかな。


『すごく情熱的だったかな。主がフェンリルだったら3回は惚れてる自信あるよ』


「変なからかいをするな……ただ単に、姉さんの泣き顔は見たくなかっただけだよ」


『希望になる、だっけ。こりゃ、失敗は出来ないかな』


「もとより失敗する気なんてないがな。フェン、頼む。」


 レオがそう言うと、フェンは大きな狼の姿になった。


 レオはそのフェンに跨り、股をしっかりと締め、低い姿勢で掴まりながら言った。


「いくぜ相棒」


『では主、全速力で行くよ、振り落とされないでよね?』

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