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第81話 迫り来る狂気

「おい、そっちのほうはどうだ?」

「隊長、問題ありません!!」


 昼前の頃、砦の跡地では街から派遣された斥候役の兵士が砦周囲を見回っていた。


「そうか……つまり、執政官殿の思い過ごしだったという訳だ。まあ、それならよし、街に戻るぞ!!」

「ハッ!! 帰還準備開始!!」


 そんな兵たちのやり取りを物陰に隠れて静かに観察している男の姿があった。

 星導教会の司祭に天秤剣の奪還を命じられた男、キザシである。


 彼は待ち伏せ場所に先入りしていたが、その中には王族もおり、兵が先に下見に来るのは分かる、だが、キザシはその光景にかすかに違和感を感じ取った。


(下見をしに来たにしては、時間が早いような……まさか!!)


 元々、キザシは司祭を煽ってこの場に自分を派遣するように仕向けた。だがその対象がこの場に来ることは無いと踏んでいた。


 そもそも、最初に司祭が信頼するほどの戦力が配置されているのだ。その場で全滅するか、または旅を中断するか。どちらにせよ、ターゲットが来るとはあまり思ってなかった。


 ターゲットが来る場合、それは、天秤剣を持つ例の男と少数の護衛程度がやってくる場合。

 下手な正義感を持った人間なら、ここに罠、または敵対者が居る可能性を考え、単身止めに来るかもしれないとは読んでいた、しかしこの斥候の動き、これはもしや……


(もしかして……一行は通常通りに旅を続けている? むしろ、日程を早めての旅をしている?)


 キザシはただ単に大量殺人をしたくてやってきたのだ。

 ターゲットが少数で来た場合、返り討ちにしてから残党を探すという名目で

 誰も来なかった場合、ターゲットを探すためという名目で


……街を徹底的に破壊し、今居る人間を皆殺しにする算段だったのだ。


「総員、街に向かって駆け足!!」


 斥候に来ていた兵がその場を去り、キザシは隠れていた藪の中から出てきた、だがその目は怒りで充血しており、兵が去って行った方向を忌々しげに睨んでいる。


「おい」

「……」


 キザシが一声出すと、総勢50名の贄が顔を出した。その殆どが薄汚れたローブを着込み、顔の表情が見えない。

 まあ、見えたとしても既に全員表情すら無い顔をしているのだが……。


「お前らも適当に斥候に行ってこい!! ターゲットの動向を探れ!!」

「……」

「早くしろ!!」


 キザシは自分の発言に反応しない贄たちに苛立ちを隠せず、そう怒鳴りつけるが……すぐに手を額に当て、ため息をつく。


「物が勝手に動くわけ無かったな……ちっ、めんどくせぇ」


 チッ、と舌打ちし


「1番から5番はこちらから見て裏側の門を、6番から10番は正面の門を日が沈むまで監視、11番以降は高所から街の中を確認しろ!! 見回りの兵に見つかるんじゃねぇぞ、そして、何か動きがあれば即座に報告しろ!!」


 もしターゲット全員がこの街に来ており、明日ここに来るとするなら


「楽しみにしていた大量殺人の大義名分が無くなってしまう……」


***


「斥候からの報告によると、特に異常無しとの事でした。明日は護衛を多めに付けますが、普通に砦跡に行っても良いでしょう」


 昼を過ぎ、まだ夕方になる前に斥候の兵からの報告があったようだ。その報告によると、至って普通。

つまり、俺達の懸念していた事項は影も形も無いという事だ。


 その報告を聞いたのは俺と先輩、そして、イザークのオッサンと姉さんの4人。他の面々は今は行商に来た元住人の商品を……主にセラのオススメしていた焼き菓子のお店だが……見て回っているところだ。


「問題は全くなし、と……どう思いますか?」


 先輩が俺達に問いかける。


「そうだな、こういう、無風の旅路こそ気を引き締めなければならないと思うぜ」


 イザークのオッサンがそう進言する、ふむ……


「そもそも、山登りは山の光景が見れて観光にはなったけど、砦跡に行って何するの?」


 姉さんがドライな意見を挙げる、いや、それは……

……改めて考えると、行く意味ある?


「行くとしても、俺と、先輩だけでいいかなぁ?」

「あ、それなら皆ついて行くわよ。レオ、あんたが行くところに皆ついて行くから、あんたが決めなさい」


……どちらにしても、皆を危険に晒す恐れがあるのか……それなら、愁いを残さないよう、先に確認しておく必要があると思う……よし


「わかった、ちょっとだけ確認して、そのまま真っすぐ帰路に就く、これでいこう……オッサンには苦労かけるが」

「かまわねぇよ。レオ、お前も無茶だけはすんなよ?」


 そんなこんなで話がまとまりかけてた時……


――バタン!!


 と扉が開き、兵士の一人が慌てた様子で入ってきた。


「ご、ご報告いたします!!」

「どうしました? まずは落ち着いて、報告してください」


 執政官が慌てた様子の兵士を宥め、報告を聞く。たまたま居合わせた俺達も先程までの会話内容から「緊急事態か!?」と身構えていた所……


「王女様以下皆様が……皆様が……」


 しまった、街中だと油断していた!! まさか主戦力がこの会議室に集まっている所を狙われるとは……俺の背中を冷たい汗が伝う。見渡せば、先輩も姉さんもオッサンもどこか緊張感を感じさせる表情になっている。


「皆様が……行商のお菓子売りのお菓子を全部買占めようとしてて……このままだと兵の士気にかかわります!!」


 うん、ごめん。確かにフェンに金貨20枚くらいは渡したけど……誰かひとりくらい止めようよ……


 俺はすぐさま現場に赴き、暴走していたフェン、そしてそれに悪乗りしていたセラとキャロルちゃん、さらには、何とシャーロットさんまで悪乗りしてたので、4人を正座させて叱り付け、事なきを得た。


……いや、そもそもフェンに金貨を20枚も渡していたことについて、俺がその後姉さんにこってりと絞られてしまった。

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