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第79話 最期のブランチ

「おう、話はまとまったか?」


 馬車の馬のケアをしていたイザークのオッサンが建物から出てきた俺達にそう声を掛ける。

 今は護衛してくれた兵士の馬の面倒を見るのを手伝っているようだ。


「ああ、今日の夕方にまたどうするか確認してからだが、とりあえず夕方までは休憩だよ」


 先輩がそうイザークさんに声を掛ける。今は朝の朝食時くらいである。夕方までそれなりに時間はありそうだ。


「主ー、おなか減った!!」


 すかさずフェンがそう叫ぶ。往来で恥ずかしい、と思ったが、今やこの街はほとんど人が居ないから恥ずかしがる必要もなかったか……


「そうだな、朝食時だし……」

「ふっ、ここはやはり」

「俺達男子料理部の腕の見せ所……」

「却下だ」


 先の料理経験、もとい、殺人料理騒動を引き起こしておきながら、先輩とアリオンは何故か料理を作りたがるようになった。

 とはいえ、この期に及んで殺人料理リターンズをさせるわけにはいかない、


「それなら任せて!! 私、前ここに来た時にちゃんと美味しいお店をリサーチしてるから!!」

「お店もほとんど閉まってるのにムリだろ」


 そういえばセラも「美味しい者食べる旅」とか言ってたな。この状態でお店を紹介されてもなぁ。


 そう、先ほどの執政官、俺達を受け入れるための食糧の調達は済ませてあったものの、それは俺達が夕方あたりに到着する事を前提にしていたため、朝と昼の食事については用意されておらず、その上……


「レオがすぐに飛び出して行こうとするから、山の麓の村の宿でお弁当を用意してもらう暇すらなかったからね……流石にアタシもお腹が減ってきたわ」


 ミラからもチクリと一言。うぅ……これについては反論する余地もない。

 だが正直な所、結構お腹が減ってきており、早目の食糧調達をしたいところだ。だが、その肝心の食糧が無い……

 皆でうんうん唸っていると、イザークのオッサンがやれやれ、といった感じで提案してくれた。


「一応、アテはある……行ってみるか?」


***


 イザークのオッサンに連れられてやってきたのは、街の中心、からはちょっと外れた所にある小さな建物だった。驚くなかれ、確かに中では老婆が1人、来客も居ないのに普通に店を開いていた。


「よう、ばーさん。やってるか?」

「はっ。久々に暑苦しい顔が来たね。誰も居ないし、カウンターに座りな」

「あー、今日はえーっと……13人だ。テーブルいいかい?」

「あんれま、お前さん、年寄り虐めかい? テーブルまで13人分も運べないよ!! あんたが運びな!!」

「へいへい、おい、いいってさ」


 お店の老婆がイザークのオッサンとそんなやり取りをし、俺達が中に招かれる。

 おじゃましまーす……いやあ、年季の入ったいいお店で。


「急にそんな大人数来られても困るがね……お任せで作らせてもらうよ?」

「おう、任せる」


 老婆はぶつくさと文句のような言葉を絶やすことなく料理を続ける、そして、しばらくの後……


「はいよ、持っていきな。若いのも年長者ばかり働かせずに、運ぶの手伝ってやりな」


 その言葉にサッと動いたのはルリさんとミナさん、続いてセラとミラ。

……いかん、キャロルちゃんやフェンはいいとして、どうしてもこういう時にサッと動けないのは申し訳なくなる。

 俺が遅れて立とうとしたところで、ミナさんから待ったがかかった。


「レオ様は座ってていいです!! リリカ様とロゼッタ様も!!」


 俺とほぼ同タイミングで立ち上がろうとしてた姉さんとロゼッタまで制され、立ち上がってた俺達はそのままスッと座る。


「シャーロットも、そんなに人手要らないから座ってて!!」

「むー……」


 見ればシャーロットさんも俺達と一緒に立ち上がろうとしてミラに制されてしまい不本意ながらもそのまま座る事になってしまった。


「先輩とアリオンは手伝ってほしかったかなー、お片付けの時はよろしくね!!」


 セラが手伝うために動こうとすらしなかった先輩とアリオンにグサッと一言。先輩とアリオンも手伝えるなら手伝いたいところだったのだろうけど、何をすればいいか分からなかったんだろう。


 そんなこんなで大皿に盛られた料理がたくさん……いや、多いな


「ばーさん、今日は奮発してくれてるな。何かいい事でもあったかい?」

「ふんっ!! 若い子が多いから、たくさん食べるだろうしね。……べ、別に、アンタが久々に顔を出して嬉しいから奮発したとかじゃないからね!!」


 老婆はそう言いながら、イザークのオッサンから顔を背ける。老婆がごまかせてない喜びを必死に隠そうとしているのを突くのは野暮だろう。さて、料理をありがたくいただきますか……


「!! なにこれ、うっま!!」


 老婆が適当にこしらえた料理、だと思って口に入れた俺達を襲ったのは、次々と食べたくなるほどの味覚を刺激する料理の暴力。いや、なんだこの料理。旨すぎる。

 気が付けば皆も無言で次々と口に料理を入れている。腹が減っていたとしても、ここまで次から次に味わいたいと思う料理は滅多にない。


「流石はばーさん、また腕を上げたな……最後にここに来れて、よかった」

「まるで私が近いうちに天に召されるかのような言い方だね。あんたもまたここに戻ってくるんだろ? その時までくたばってやるもんか」

「あー、俺、支部長クビになったから。ある程度処理終わったらどっかの田舎で細々と暮らす事になるわ……ここには戻らない」

「……そうかい」


 イザークのオッサンと老婆が何やらやり取りをしている。気にはなるが、とりあえず俺の頭は「この料理を味わい尽くせ」としか指令を出してくれない。まあ、オッサンと老婆は長い付き合いで、仲が良かったんだろう、とだけ覚えておく。


……顔を背けた老婆がちょっと肩を震わせ、時々鼻を鳴らしている事を指摘するのは野暮ってなものだろ。

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